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3.恋する特製カレーオムライス
3ー10
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「病気のことを打ち明けてもらえなかったのは、きっと清美なりに理由があったんだと思うんだ。そう考えると、僕が他の女性と付き合うことは、永遠を誓い合った清美のことも裏切ることになるようで……」
清美さんと同じように、心は過去に置いてきぼりを食らったまま動けなくなっている。
だから、偶然居合わせた私に、彼は自分の想いを話してくれたのだろう。
自分一人では対処できない想いを。
少しでも自分の気持ちに整理をつけたいから。
「って、こんなこと民宿の人に話しても仕方ないのに、すみません。でも聞いてくれて嬉しかったです。ありがとう」
「いえ……」
どうしてこの人には清美さんが見えないのだろう。
清美さんはずっと史也さんのそばにいるのに、残念で堪らない。
これだけ強く想ってくれている史也さんに一目でも清美さんが見えれば、一言でも彼女の言葉を伝えられたら、前に進めそうなのに。
ただ話を聞いただけで何ひとつ気の効いたことの言えない私に丁寧に頭を下げると、史也さんは民宿の中に戻っていった。
やはりここにも、清美さんの姿はなかった。
*
「清美さん? そういや、見とらんな」
「俺も見てねーな」
団体客は皆就寝したのか、静かな民宿内。
まかないを食べにきた私は、食堂にいた拓也さんと晃さんに、清美さんを見なかったか聞いてみた。
というのも、朝方に一度会えた清美さんは、史也さんと一緒に行動すると出かけて行ったっきり、全く姿が見えないからだ。
史也さんたちがむすび屋に戻ってきてからも、だいぶ時間が経っているし少し心配だ。
「……そうですか」
一体、どうして姿を見せないのだろう。史也さんと行動している間に何かあったのだろうか?
「朝も探しとったけど、あれから全く見つからんのん?」
「いえ、朝食のときに一度会えました。今日は一日史也さんについていくと言ってたんですけど、史也さんの周りには居なかったので気になって」
「そんなに心配しなくても、人間に憑依してまでココに来たんだから、そのうち戻ってくるだろ。今朝も史也さんと一緒だったってだけなんだろ?」
「それもそうですね……」
私も朝方に清美さんを探したとき、晃さんと同じように考えた。
人間に憑依してまで未練の相手をここに連れてくるというのは、二人でさえ前代未聞のことだったらしいから。
だけど今は、史也さんの気持ちを聞いたからなのか、静さんの告白現場に居合わせてしまったからなのか、何となく不安な気持ちになっていた。
大好物の大きな海老天の乗った天丼が私の前に置かれるけれど、何だか箸が進まない。
「食べんのん? 清美さんのことは心配やろうけど、また朝みたいにひょっこり出てくるんやないん」
「あ、ごめんなさい……」
せっかく作ってもらっているのに、しかも、絶対に美味しいってわかっている拓也さんの作った天丼だというのに、また勿体ないことをしてしまうところだった。
美味しいという気持ちと作ってくれた感謝を伝える一番の行為が食べることなのに、それを前にして思い詰めているなんて、毎度のことながら失礼にも程がある。
二人とも、大丈夫だって言ってくれてるっていうのに、気持ちが上手く切り替えられない。
けれど、こんなモヤモヤした気持ちのままじゃ、美味しいものも美味しく食べられないよ……。
「それとも、何だ。また何か清美さんのことでわかったことがあって、一人で悩んでいるんじゃないだろうな?」
「……え」
晃さんのその問いかけに、内心思い当たることがないといえば嘘になる。
清美さんのことも心配だけど、実を言うと、さっき話を聞いた史也さんのことも気がかりだった。
今も清美さんのことを引きずっている史也さんがどうすれば前を向いて生きていくことができるのかずっと考えているが、いい打開策は浮かびそうになかった。
二人にはまだ話してなかったけれど、史也さんのことだって清美さんに関わることに違いない。
私は二人に、夕食後に偶然史也さんと静さんに出くわしたこと、そして史也さんの口から清美さんへの想いを直に聞いたことを打ち明けることにした。
清美さんと同じように、心は過去に置いてきぼりを食らったまま動けなくなっている。
だから、偶然居合わせた私に、彼は自分の想いを話してくれたのだろう。
自分一人では対処できない想いを。
少しでも自分の気持ちに整理をつけたいから。
「って、こんなこと民宿の人に話しても仕方ないのに、すみません。でも聞いてくれて嬉しかったです。ありがとう」
「いえ……」
どうしてこの人には清美さんが見えないのだろう。
清美さんはずっと史也さんのそばにいるのに、残念で堪らない。
これだけ強く想ってくれている史也さんに一目でも清美さんが見えれば、一言でも彼女の言葉を伝えられたら、前に進めそうなのに。
ただ話を聞いただけで何ひとつ気の効いたことの言えない私に丁寧に頭を下げると、史也さんは民宿の中に戻っていった。
やはりここにも、清美さんの姿はなかった。
*
「清美さん? そういや、見とらんな」
「俺も見てねーな」
団体客は皆就寝したのか、静かな民宿内。
まかないを食べにきた私は、食堂にいた拓也さんと晃さんに、清美さんを見なかったか聞いてみた。
というのも、朝方に一度会えた清美さんは、史也さんと一緒に行動すると出かけて行ったっきり、全く姿が見えないからだ。
史也さんたちがむすび屋に戻ってきてからも、だいぶ時間が経っているし少し心配だ。
「……そうですか」
一体、どうして姿を見せないのだろう。史也さんと行動している間に何かあったのだろうか?
「朝も探しとったけど、あれから全く見つからんのん?」
「いえ、朝食のときに一度会えました。今日は一日史也さんについていくと言ってたんですけど、史也さんの周りには居なかったので気になって」
「そんなに心配しなくても、人間に憑依してまでココに来たんだから、そのうち戻ってくるだろ。今朝も史也さんと一緒だったってだけなんだろ?」
「それもそうですね……」
私も朝方に清美さんを探したとき、晃さんと同じように考えた。
人間に憑依してまで未練の相手をここに連れてくるというのは、二人でさえ前代未聞のことだったらしいから。
だけど今は、史也さんの気持ちを聞いたからなのか、静さんの告白現場に居合わせてしまったからなのか、何となく不安な気持ちになっていた。
大好物の大きな海老天の乗った天丼が私の前に置かれるけれど、何だか箸が進まない。
「食べんのん? 清美さんのことは心配やろうけど、また朝みたいにひょっこり出てくるんやないん」
「あ、ごめんなさい……」
せっかく作ってもらっているのに、しかも、絶対に美味しいってわかっている拓也さんの作った天丼だというのに、また勿体ないことをしてしまうところだった。
美味しいという気持ちと作ってくれた感謝を伝える一番の行為が食べることなのに、それを前にして思い詰めているなんて、毎度のことながら失礼にも程がある。
二人とも、大丈夫だって言ってくれてるっていうのに、気持ちが上手く切り替えられない。
けれど、こんなモヤモヤした気持ちのままじゃ、美味しいものも美味しく食べられないよ……。
「それとも、何だ。また何か清美さんのことでわかったことがあって、一人で悩んでいるんじゃないだろうな?」
「……え」
晃さんのその問いかけに、内心思い当たることがないといえば嘘になる。
清美さんのことも心配だけど、実を言うと、さっき話を聞いた史也さんのことも気がかりだった。
今も清美さんのことを引きずっている史也さんがどうすれば前を向いて生きていくことができるのかずっと考えているが、いい打開策は浮かびそうになかった。
二人にはまだ話してなかったけれど、史也さんのことだって清美さんに関わることに違いない。
私は二人に、夕食後に偶然史也さんと静さんに出くわしたこと、そして史也さんの口から清美さんへの想いを直に聞いたことを打ち明けることにした。
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