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3.恋する特製カレーオムライス
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「どうでしょう……。仲間内でからかっているだけのようにも見えましたが……」
一緒に行動していたところを見る限り仲は悪くないのかもしれない。しかしだからといって恋愛感情とは限らない。
先ほどのやり取りを思い返してみるけれど、あれだけではどちらとも言えないだろう。
「ケイさんは、優しいんですね」
「え?」
まさか、私が気を遣ってそう言ってるだけと思われたんだろうか。
「いいんです。史也が静さんに惹かれていることは事実ですから」
何も返せずにいると、清美さんは悲しい笑みを浮かべた。
「死んでからずっとそばで史也のことを見てきたんですから、嫌でもわかります」
「……そうですか」
清美さんは一度深く息を吐き出して、さっき生垣の上にいたときと同じように膝を抱きかかえて顔を埋める。
「彼の幸せを願っているのに、いざ彼が他の女性といい雰囲気になるのを見るのは、どうしようもなくつらいんです……」
「……好きなんだから当然ですよ。自分の好きな男性に他の女性が近づいて、その女性に惹かれていく様子を間近で見ていることしかできない。そんなの、つらいに決まってます」
清美さんは少し驚いたように目を開いてこちらを見つめた。
「……ありがとうございます」
小さくお礼を告げたあと、彼女は複雑な表情を浮かべた。
「でも、史也は静さんとは付き合わないんです。何度も告白されてるのに、史也は私に悪いからって変に遠慮してるんです。二人がいい雰囲気になるところを見るのもつらいけど、史也が私のせいで前に進めないのが、やっぱり一番つらい」
もう隣に居られないとわかっているからこそ、余計に史也さんと共に生きていくことができる女性に嫉妬してしまうのだろう。
他の女性と一緒になってほしくないと思う一方で、彼の一番の幸せを考えた結果行き着いた結論との板挟みになっているのだろう。
頭の中ではわかっていても気持ちが追いつかないから、これほどまでに苦しんでいるのだろう。つらいのだろう。
けれど、それでも清美さんは彼のために動いている。
「……清美さんは強いですね」
「え?」
「だってその状況をなんとかしたいから、松山まで来たんでしょう? 彼を何とかここに連れて来るよう画策までして」
むすび屋に彼とともに訪れることにしたのは、苦しくてもつらくても、それでも清美さんが彼の幸せを想っていた証拠だろう。
「どうなんでしょう。勢いだけで計画して来たけれど、何だかどうすべきなのかわからなくなってしまいました」
肯定することも否定することもせず、清美さんは窓の外を見つめる。
何とか清美さんの気持ちを救う方法が見つかればいいのだけれど……。
むすび屋の裏手から見える緑の山々の景色は、夜になってしまえば一気に夜の闇に包まれて、余計に切ない気持ちにさせられた。
*
ゆっくり過ごしてもらうために、はなれの空き部屋に予備のベッドを用意して簡易の客室として整えたものの、結局清美さんとは同じ室内で一晩過ごすことになった。
そばに居てほしいと言われて、断ることができなかったからだ。
清美さんは死んでから誰にも認識してもらうことがなかったため、久しぶりに人と会話ができたことがよほど嬉しかったらしい。
夜通し話すつもりなんじゃないかと思うほどの勢いで楽しくおしゃべりを続けていた清美さんだったけれど、史也さんとの思い出話をいくつかしたあと、私のベッドの上で眠ってしまった。
幽霊も疲れるようで、松山までの長旅による眠気に抗えなかったようだ。
私は予備の布団を持ってきて、部屋の床で転がるように眠ったのだった。
*
朝陽で自然と明るくなった室内に眩しさを感じて、重い瞼を持ち上げる。
ぼんやりした頭で清美さんが夜に眠っていた場所へ視線だけ動かしてみたが、すでに彼女はいなかった。
どこに行ったんだろう?
昨日の感じからして、まさか早々帰ったなんていうことはないだろう。
はなれの空き部屋に移動したのかとも思ったけれど、そもそも部屋を案内する前に清美さんはここに居座ることを決めてしまったくらいだ。
少し考えてみても、全く検討がつかない。
清美さんのことは気になるけれど、今朝はまた団体客の朝食で人手が足りないことが確定している。私は頭を切り換えて起き上がった。
私は臙脂色の作務衣に着替えると、その上に前掛けの白いエプロンを付けて、はなれから民宿へ向かった。
すでに厨房では拓也さんが黙々と仕込みを始めているようで、外に出たところから換気扇を通して出汁の良い匂いがしている。
「おはようございます」
「おお、ケイちゃん、おはよう」
食堂の厨房に顔を覗かせると、早々と人数分のお盆やおわんを並べてほぼ準備が整っているようだった。
一緒に行動していたところを見る限り仲は悪くないのかもしれない。しかしだからといって恋愛感情とは限らない。
先ほどのやり取りを思い返してみるけれど、あれだけではどちらとも言えないだろう。
「ケイさんは、優しいんですね」
「え?」
まさか、私が気を遣ってそう言ってるだけと思われたんだろうか。
「いいんです。史也が静さんに惹かれていることは事実ですから」
何も返せずにいると、清美さんは悲しい笑みを浮かべた。
「死んでからずっとそばで史也のことを見てきたんですから、嫌でもわかります」
「……そうですか」
清美さんは一度深く息を吐き出して、さっき生垣の上にいたときと同じように膝を抱きかかえて顔を埋める。
「彼の幸せを願っているのに、いざ彼が他の女性といい雰囲気になるのを見るのは、どうしようもなくつらいんです……」
「……好きなんだから当然ですよ。自分の好きな男性に他の女性が近づいて、その女性に惹かれていく様子を間近で見ていることしかできない。そんなの、つらいに決まってます」
清美さんは少し驚いたように目を開いてこちらを見つめた。
「……ありがとうございます」
小さくお礼を告げたあと、彼女は複雑な表情を浮かべた。
「でも、史也は静さんとは付き合わないんです。何度も告白されてるのに、史也は私に悪いからって変に遠慮してるんです。二人がいい雰囲気になるところを見るのもつらいけど、史也が私のせいで前に進めないのが、やっぱり一番つらい」
もう隣に居られないとわかっているからこそ、余計に史也さんと共に生きていくことができる女性に嫉妬してしまうのだろう。
他の女性と一緒になってほしくないと思う一方で、彼の一番の幸せを考えた結果行き着いた結論との板挟みになっているのだろう。
頭の中ではわかっていても気持ちが追いつかないから、これほどまでに苦しんでいるのだろう。つらいのだろう。
けれど、それでも清美さんは彼のために動いている。
「……清美さんは強いですね」
「え?」
「だってその状況をなんとかしたいから、松山まで来たんでしょう? 彼を何とかここに連れて来るよう画策までして」
むすび屋に彼とともに訪れることにしたのは、苦しくてもつらくても、それでも清美さんが彼の幸せを想っていた証拠だろう。
「どうなんでしょう。勢いだけで計画して来たけれど、何だかどうすべきなのかわからなくなってしまいました」
肯定することも否定することもせず、清美さんは窓の外を見つめる。
何とか清美さんの気持ちを救う方法が見つかればいいのだけれど……。
むすび屋の裏手から見える緑の山々の景色は、夜になってしまえば一気に夜の闇に包まれて、余計に切ない気持ちにさせられた。
*
ゆっくり過ごしてもらうために、はなれの空き部屋に予備のベッドを用意して簡易の客室として整えたものの、結局清美さんとは同じ室内で一晩過ごすことになった。
そばに居てほしいと言われて、断ることができなかったからだ。
清美さんは死んでから誰にも認識してもらうことがなかったため、久しぶりに人と会話ができたことがよほど嬉しかったらしい。
夜通し話すつもりなんじゃないかと思うほどの勢いで楽しくおしゃべりを続けていた清美さんだったけれど、史也さんとの思い出話をいくつかしたあと、私のベッドの上で眠ってしまった。
幽霊も疲れるようで、松山までの長旅による眠気に抗えなかったようだ。
私は予備の布団を持ってきて、部屋の床で転がるように眠ったのだった。
*
朝陽で自然と明るくなった室内に眩しさを感じて、重い瞼を持ち上げる。
ぼんやりした頭で清美さんが夜に眠っていた場所へ視線だけ動かしてみたが、すでに彼女はいなかった。
どこに行ったんだろう?
昨日の感じからして、まさか早々帰ったなんていうことはないだろう。
はなれの空き部屋に移動したのかとも思ったけれど、そもそも部屋を案内する前に清美さんはここに居座ることを決めてしまったくらいだ。
少し考えてみても、全く検討がつかない。
清美さんのことは気になるけれど、今朝はまた団体客の朝食で人手が足りないことが確定している。私は頭を切り換えて起き上がった。
私は臙脂色の作務衣に着替えると、その上に前掛けの白いエプロンを付けて、はなれから民宿へ向かった。
すでに厨房では拓也さんが黙々と仕込みを始めているようで、外に出たところから換気扇を通して出汁の良い匂いがしている。
「おはようございます」
「おお、ケイちゃん、おはよう」
食堂の厨房に顔を覗かせると、早々と人数分のお盆やおわんを並べてほぼ準備が整っているようだった。
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