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第5章
◇これからも、ずっと-美姫Side-(4)
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「俺、美姫のこと、すごく好きなんです。幸せにします。だから、その、俺たちの仲を認めていただけませんか?」
広夢くん……。
一生懸命、真剣にお母さんにそう言う広夢くんの姿に、胸がきゅっとなる。
「や、泰志おじさんも、認めていただけますか?」
そばできょとんとした様子で広夢くんの姿を見ていた泰志おじさんに、今度は私が頭を下げる。
「え!? あ、ああ。うちの広夢でよければ。まさか、広夢と美姫ちゃんが、なぁ」
驚いてはいるものの、どこか嬉しそうに笑ってる泰志おじさんを見て、少しホッとする。
「ええ。お母さんもまさか2人がこうなるなんて嬉しいわぁ! 認めないわけないじゃない」
「あ、ありがとうございます!」
お母さんの言葉に、再度広夢くんは深々と頭を下げる。
「ありがとう、お母さん。泰志おじさん」
「でも、それなら好都合だわ! 実はお母さん、9月から正社員採用が決まったの!」
フルタイムで働いてはいたものの、おばあちゃんのこともあって、パート社員として働いていたお母さん。
「そうなんだ。すぐ決まってよかったね」
おばあちゃんが亡くなったあと、今後の生活のことを考えて、正社員として働けるところに転職したいと言ってたけれど、まさかこんなに早く決まるなんて……!
「そうなのよ。今働いてるところの紹介でね、偶然募集してるところがあって」
トントン拍子に、お母さんの希望する仕事に移れそうで良かったと思う反面、どこか申し訳なさそうにするお母さん。
「でもね、そこの会社、最初の1年間は金沢の支社に勤務っていう条件だったのよ……」
金沢、って、石川県!?
さすがにここから通うには遠すぎて、通えない距離だ。
片道だけでも、何時間もかかる。
「じゃあお母さん、引っ越すの?」
お母さんが引っ越すとなれば、私もやっぱり一緒についていくということなのかな……。
さすがに金沢だと、距離が離れすぎちゃうもんね。
お母さんの希望する条件のところが見つかったとはいえ、引っ越すとなれば、学校も変わらないといけないし、明日香とも広夢くんとも離れ離れになってしまう。
さすがにそれは寂しいな……と思っていると、お母さんは首を横に振った。
「お母さんは社宅を借りようと思ってるけど、美姫ちゃんは学校のこともあるんだし、これからもここにムーくんと住むといいわ」
「ひ、広夢くんもって……?」
だって広夢くんと暮らすのは、泰志おじさんが海外出張に出てる3ヶ月の間って聞いてたはず……。
「や。実は、僕の方も前回の海外出張の成果が評価されて、また別のところに出張に出ることになったんだ。今度は日本国内なんだけどね」
「泰志くんは最初はムーくんのために断ろうとしてるみたいだったんだけど、美姫ちゃんとムーくんを見る限りいい雰囲気だったから、お母さんが泰志くんの背中を押したのよ」
泰志おじさんの両肩に両手を添えて、にっこりと微笑むお母さん。
もう、お母さんらしいというかなんというか。
広夢くんとの同居のときも思ったけど、結構勝手だよね。
「ちょ、おい! 俺は聞いてないぞ!?」
泰志おじさんの新たな出張のことについては、広夢くんも聞いてなかったみたい。
「すまない。それが決まったのも、昨日の夜なんだ。広夢の顔を見に来るついでに、それを伝えに来たんだ」
「はぁ? 何だよ、それ」
「まぁ、そういうことだから。荷造りさせてしまった中悪いが、大きい荷物や9月まで使わないものはここに置かせてもらいなさい」
「9月まではどうすんだよ……」
「たまには父さんと過ごそうじゃないか。今年は、ちゃんとお盆休みをもらったんだぞ?」
「はぁ……?」
上機嫌に笑う泰志おじさんに、眉を寄せる広夢くん。
そんな温度差のある二人を見て、お母さんはクスクスと笑った。
「たまにはいいじゃない。泰志くん、ムーくんと仲直りできて嬉しいのよ。ムーくんのために休みを取ってくれたんだから、相手してあげて?」
泰志おじさんの方を見て、小さく肩を落とす広夢くん。
だけどそんな態度とは裏腹に、広夢くんはとても優しい表情をしていた。
そんな広夢くんと泰志おじさんを微笑ましく見ていると、
「美姫ちゃんも、夏休みの間はお母さんのところに帰っておいでよ」
今度は私がお母さんにそう言われた。
「……え?」
「だってお母さん、9月には金沢に行っちゃうんだよ? 寂しいじゃない」
「そうだね。じゃあ、そうさせてもらおうかな」
こうして残りの夏休みは、私はお母さんと、広夢くんは広夢くんのお父さんである泰志おじさんと。
離れ離れになる前に、お互いの家族の時間を過ごすことになった。
そして、9月。
予定通り、2学期の始まりと同時に私たちの同居生活は、再開されたのだった。
広夢くん……。
一生懸命、真剣にお母さんにそう言う広夢くんの姿に、胸がきゅっとなる。
「や、泰志おじさんも、認めていただけますか?」
そばできょとんとした様子で広夢くんの姿を見ていた泰志おじさんに、今度は私が頭を下げる。
「え!? あ、ああ。うちの広夢でよければ。まさか、広夢と美姫ちゃんが、なぁ」
驚いてはいるものの、どこか嬉しそうに笑ってる泰志おじさんを見て、少しホッとする。
「ええ。お母さんもまさか2人がこうなるなんて嬉しいわぁ! 認めないわけないじゃない」
「あ、ありがとうございます!」
お母さんの言葉に、再度広夢くんは深々と頭を下げる。
「ありがとう、お母さん。泰志おじさん」
「でも、それなら好都合だわ! 実はお母さん、9月から正社員採用が決まったの!」
フルタイムで働いてはいたものの、おばあちゃんのこともあって、パート社員として働いていたお母さん。
「そうなんだ。すぐ決まってよかったね」
おばあちゃんが亡くなったあと、今後の生活のことを考えて、正社員として働けるところに転職したいと言ってたけれど、まさかこんなに早く決まるなんて……!
「そうなのよ。今働いてるところの紹介でね、偶然募集してるところがあって」
トントン拍子に、お母さんの希望する仕事に移れそうで良かったと思う反面、どこか申し訳なさそうにするお母さん。
「でもね、そこの会社、最初の1年間は金沢の支社に勤務っていう条件だったのよ……」
金沢、って、石川県!?
さすがにここから通うには遠すぎて、通えない距離だ。
片道だけでも、何時間もかかる。
「じゃあお母さん、引っ越すの?」
お母さんが引っ越すとなれば、私もやっぱり一緒についていくということなのかな……。
さすがに金沢だと、距離が離れすぎちゃうもんね。
お母さんの希望する条件のところが見つかったとはいえ、引っ越すとなれば、学校も変わらないといけないし、明日香とも広夢くんとも離れ離れになってしまう。
さすがにそれは寂しいな……と思っていると、お母さんは首を横に振った。
「お母さんは社宅を借りようと思ってるけど、美姫ちゃんは学校のこともあるんだし、これからもここにムーくんと住むといいわ」
「ひ、広夢くんもって……?」
だって広夢くんと暮らすのは、泰志おじさんが海外出張に出てる3ヶ月の間って聞いてたはず……。
「や。実は、僕の方も前回の海外出張の成果が評価されて、また別のところに出張に出ることになったんだ。今度は日本国内なんだけどね」
「泰志くんは最初はムーくんのために断ろうとしてるみたいだったんだけど、美姫ちゃんとムーくんを見る限りいい雰囲気だったから、お母さんが泰志くんの背中を押したのよ」
泰志おじさんの両肩に両手を添えて、にっこりと微笑むお母さん。
もう、お母さんらしいというかなんというか。
広夢くんとの同居のときも思ったけど、結構勝手だよね。
「ちょ、おい! 俺は聞いてないぞ!?」
泰志おじさんの新たな出張のことについては、広夢くんも聞いてなかったみたい。
「すまない。それが決まったのも、昨日の夜なんだ。広夢の顔を見に来るついでに、それを伝えに来たんだ」
「はぁ? 何だよ、それ」
「まぁ、そういうことだから。荷造りさせてしまった中悪いが、大きい荷物や9月まで使わないものはここに置かせてもらいなさい」
「9月まではどうすんだよ……」
「たまには父さんと過ごそうじゃないか。今年は、ちゃんとお盆休みをもらったんだぞ?」
「はぁ……?」
上機嫌に笑う泰志おじさんに、眉を寄せる広夢くん。
そんな温度差のある二人を見て、お母さんはクスクスと笑った。
「たまにはいいじゃない。泰志くん、ムーくんと仲直りできて嬉しいのよ。ムーくんのために休みを取ってくれたんだから、相手してあげて?」
泰志おじさんの方を見て、小さく肩を落とす広夢くん。
だけどそんな態度とは裏腹に、広夢くんはとても優しい表情をしていた。
そんな広夢くんと泰志おじさんを微笑ましく見ていると、
「美姫ちゃんも、夏休みの間はお母さんのところに帰っておいでよ」
今度は私がお母さんにそう言われた。
「……え?」
「だってお母さん、9月には金沢に行っちゃうんだよ? 寂しいじゃない」
「そうだね。じゃあ、そうさせてもらおうかな」
こうして残りの夏休みは、私はお母さんと、広夢くんは広夢くんのお父さんである泰志おじさんと。
離れ離れになる前に、お互いの家族の時間を過ごすことになった。
そして、9月。
予定通り、2学期の始まりと同時に私たちの同居生活は、再開されたのだった。
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