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第5章
◇これからも、ずっと-美姫Side-(2)
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「……なんてな」
その瞬間、パッと私から離れて距離を取る広夢くん。
「……えっ?」
思わず振り返ると、少し寂しそうに笑う広夢くんと目が合った。
「ごめんな、ちょっと今のはふざけすぎた。でも、美姫は本当によく頑張ったと思うよ。男性恐怖症自体は、ほぼ克服できたんじゃない?」
「……え、うん……」
確かに広夢くんの言う通り、男の人との少しくらいの接触で、怖くて堪らなくなることはなくなった。
冷や汗が出ることも。
とはいえ、小学6年生の頃に遭った誘拐事件や修学旅行の海での出来事で出来たトラウマはやっぱりあるし、必要以上に近づかれたり触れられたりすると、どうしても怖いって気持ちは出てくる。
けれど、それは多かれ少なかれ普通の女子も一緒のはず。
少なくとも、日常生活を送るのに支障が出ない程度に私は男性恐怖症を克服できたんだと思う。
「広夢くんが協力してくれたから。ありがとう……」
「お、おう……」
広夢くんは少し照れくさそうに笑ったあと、まるで忠告するように私を見る。
「あ、でも、俺に抱きつかれて大丈夫だったからって、他の奴にホイホイ抱きつかれるなよ?」
「そ、そんなの当たり前です……っ!」
さっきのは広夢くんだったから平気だっただけなのに!
さすがにそこまで平気になったわけではないんだから。
ムスッと頬を膨らませて広夢くんを見ていると、広夢くんはフッと頬を緩めて口を開く。
「……3ヶ月、ありがとな。美姫と暮らせて楽しかった」
「……え? う、うん」
「俺さ、美姫のこと好きだったよ、すごく……」
「うん。……え?」
す、好き? 広夢くんが、私を……?
「もう男性恐怖症の方も大丈夫だと思うから、美姫が好きな奴と付き合ったとしても、きっと上手くやっていけると思うから……。頑張ってな」
私の、好きな奴……?
頑張ってな、って?
私の驚く顔なんて見えてないのか、最後淡々とそう言ってくるりと私に背を向ける広夢くん。
「ちょっ……」
何々!? ちょっと待ってよ!
だけど、広夢くんはスタスタと台所を出て自分の部屋に戻ろうとしていて……。
何? 何なの、一体……。
意味がわからないんだけど!
私は、広夢くんを追いかけると、広夢くんの右腕を思いっきり引っ張った。
「うわっ。って、美姫……!? どうしたの?」
「どうしたの、じゃない!」
「……もしかしなくても、怒らせちゃった、よな? ごめん。美姫が望むなら、俺、美姫との同居が終われば、美姫とはこれ以上関わらないようにするから……」
辛そうに、苦しそうにそう言う広夢くん。
何それ。何でそうなるの?
広夢くん、何もわかってない。
「……何で、過去形なの?」
「……え?」
「今はもう、好きじゃないってこと……?」
「そ、それは……っ」
私にそう返されるのが意外だったのか、豆鉄砲を食らったような顔でうろたえる広夢くん。
だけどそれは一瞬で、次の瞬間、何かを吹っ切ったかのように口を開いた。
「……ごめん。言い方が悪かった」
射抜くようにこちらを見つめる瞳に、心拍数が一気に跳ね上がる。
「……俺は、今でも美姫が好きだよ」
「本当に……?」
「ああ」
まっすぐこちらを見つめてくれる広夢くんの瞳。
だけど、その瞳はどこか不安げに揺れていて、私も伝えなきゃって思った。
「私も好きだよ、広夢くんのこと」
広夢くんの大きな瞳が、これでもかって言うくらいに開かれる。
「マジで……?」
「……うん。好きだよ、広夢くん」
ちょっぴり意地悪だけど優しくて、いつも明るくて元気な広夢くんが、好き……。
広夢くんの方へ一歩、また一歩と近づいて、思いきって私から広夢くんの胸に飛び込んだ。
心臓がドキドキしすぎて、本当におかしくなってしまいそう……。
「え? み、美姫……っ」
「こ、これは、特訓じゃないから」
勇気を出したのに、“男性恐怖症克服の特訓?”なんて言われたら辛いから、何かを言われる前にそう伝える。
すると、一瞬にして私の身体は、ぎゅうっと広夢くんに抱きしめられる。
「……あっ」
「ごめん。でも、美姫からこんな風にされて、俺ももう限界……」
「広夢く……っ」
「好きだよ、美姫。すげぇ好き」
これでもかって言うくらいに、強く抱きしめられて、頭がおかしくなりそう。
だけど、驚くぐらいに胸は満たされていて……。
あんなに男の人が怖くて、恋愛なんてできないと思ってた頃が、嘘みたい……。
その瞬間、パッと私から離れて距離を取る広夢くん。
「……えっ?」
思わず振り返ると、少し寂しそうに笑う広夢くんと目が合った。
「ごめんな、ちょっと今のはふざけすぎた。でも、美姫は本当によく頑張ったと思うよ。男性恐怖症自体は、ほぼ克服できたんじゃない?」
「……え、うん……」
確かに広夢くんの言う通り、男の人との少しくらいの接触で、怖くて堪らなくなることはなくなった。
冷や汗が出ることも。
とはいえ、小学6年生の頃に遭った誘拐事件や修学旅行の海での出来事で出来たトラウマはやっぱりあるし、必要以上に近づかれたり触れられたりすると、どうしても怖いって気持ちは出てくる。
けれど、それは多かれ少なかれ普通の女子も一緒のはず。
少なくとも、日常生活を送るのに支障が出ない程度に私は男性恐怖症を克服できたんだと思う。
「広夢くんが協力してくれたから。ありがとう……」
「お、おう……」
広夢くんは少し照れくさそうに笑ったあと、まるで忠告するように私を見る。
「あ、でも、俺に抱きつかれて大丈夫だったからって、他の奴にホイホイ抱きつかれるなよ?」
「そ、そんなの当たり前です……っ!」
さっきのは広夢くんだったから平気だっただけなのに!
さすがにそこまで平気になったわけではないんだから。
ムスッと頬を膨らませて広夢くんを見ていると、広夢くんはフッと頬を緩めて口を開く。
「……3ヶ月、ありがとな。美姫と暮らせて楽しかった」
「……え? う、うん」
「俺さ、美姫のこと好きだったよ、すごく……」
「うん。……え?」
す、好き? 広夢くんが、私を……?
「もう男性恐怖症の方も大丈夫だと思うから、美姫が好きな奴と付き合ったとしても、きっと上手くやっていけると思うから……。頑張ってな」
私の、好きな奴……?
頑張ってな、って?
私の驚く顔なんて見えてないのか、最後淡々とそう言ってくるりと私に背を向ける広夢くん。
「ちょっ……」
何々!? ちょっと待ってよ!
だけど、広夢くんはスタスタと台所を出て自分の部屋に戻ろうとしていて……。
何? 何なの、一体……。
意味がわからないんだけど!
私は、広夢くんを追いかけると、広夢くんの右腕を思いっきり引っ張った。
「うわっ。って、美姫……!? どうしたの?」
「どうしたの、じゃない!」
「……もしかしなくても、怒らせちゃった、よな? ごめん。美姫が望むなら、俺、美姫との同居が終われば、美姫とはこれ以上関わらないようにするから……」
辛そうに、苦しそうにそう言う広夢くん。
何それ。何でそうなるの?
広夢くん、何もわかってない。
「……何で、過去形なの?」
「……え?」
「今はもう、好きじゃないってこと……?」
「そ、それは……っ」
私にそう返されるのが意外だったのか、豆鉄砲を食らったような顔でうろたえる広夢くん。
だけどそれは一瞬で、次の瞬間、何かを吹っ切ったかのように口を開いた。
「……ごめん。言い方が悪かった」
射抜くようにこちらを見つめる瞳に、心拍数が一気に跳ね上がる。
「……俺は、今でも美姫が好きだよ」
「本当に……?」
「ああ」
まっすぐこちらを見つめてくれる広夢くんの瞳。
だけど、その瞳はどこか不安げに揺れていて、私も伝えなきゃって思った。
「私も好きだよ、広夢くんのこと」
広夢くんの大きな瞳が、これでもかって言うくらいに開かれる。
「マジで……?」
「……うん。好きだよ、広夢くん」
ちょっぴり意地悪だけど優しくて、いつも明るくて元気な広夢くんが、好き……。
広夢くんの方へ一歩、また一歩と近づいて、思いきって私から広夢くんの胸に飛び込んだ。
心臓がドキドキしすぎて、本当におかしくなってしまいそう……。
「え? み、美姫……っ」
「こ、これは、特訓じゃないから」
勇気を出したのに、“男性恐怖症克服の特訓?”なんて言われたら辛いから、何かを言われる前にそう伝える。
すると、一瞬にして私の身体は、ぎゅうっと広夢くんに抱きしめられる。
「……あっ」
「ごめん。でも、美姫からこんな風にされて、俺ももう限界……」
「広夢く……っ」
「好きだよ、美姫。すげぇ好き」
これでもかって言うくらいに、強く抱きしめられて、頭がおかしくなりそう。
だけど、驚くぐらいに胸は満たされていて……。
あんなに男の人が怖くて、恋愛なんてできないと思ってた頃が、嘘みたい……。
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