俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

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第5章

◆誤解-広夢Side-(7)

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『だ、誰だ!』


『ちょ、待て! 警察が近くに居るんじゃ……』


 木の陰に隠れて様子を見ると、動揺する男三人。


 俺はさらにその三人に追い討ちをかけるように、わざとらしく物音を立てた。


 瞬時に飛び上がって、男三人は俺の隠れている方を見て青ざめる。


 そして互いに顔を見合わせると、女の子をその場に放置して逃げ出したんだ。



 ……やっぱりあいつらは、黒、か……。


 携帯を取り出すと、山のふもととはいえ幸いにも圏外なんてことにはなってなくて、急いで結人の兄ちゃんに電話をかける。


『あ、広夢です。今男三人がそっちの方に向かったんだけど──』


 ざっくりと男の特徴を告げて、今見たことを伝える。


 そしてその電話をしながらも、俺は目の前にうずくまったまま動かない女の子のそばに足を進めた。


 通話を終えると、女の子のそばに俺もしゃがみ込んだ。



『大丈夫? なわけねーよな』


 その声に、ビクリと肩を震わせる女の子。


 そっと目隠しを取ると、女の子の顔が露になる。


 歳は俺と同じくらいに見えたその女の子は、俺の知ってる女の子の中で群を抜けて可愛かった。


 きっと、これだけ可愛いせいで狙われたんだろうな。


 身体はビクビク震えて、こちらを警戒するように見つめる瞳は涙目で。

 だけど、まるで泣くのを堪えてるかのような姿から、強がりなんだろうなと感じる。


『あいつらに何された?』


 だけど、女の子は首を横に振るだけ。

 まぁ、こたえたくないんだろうな……。


『とりあえず助けなら俺が呼ぶから、行こう?』


 先に立ち上がり、女の子に手を差し出すが、女の子は不審なものでも見るような目で俺を見つめてくる。


『って。やっぱり、怖いよな……』


 何も変なことするつもりないんだけどな。

 さっきの今じゃ、仕方ないよな。


 何となくばつが悪くて苦笑いを浮かべると、俺は一旦その手を引っ込めて、再び手を伸ばした。


 今度は指切りするように、小指を一本だけ立てて。


『これなら怖くない?』


 女の子は少し驚いたように目を開くと、恐る恐る俺の小指を握った。


『……ありがと』


 まだ震えの残るか細い声でそう言うと、女の子はふわりと笑った。


 思わずその笑顔にドキンと一瞬胸が跳ねたものの、女の子はその瞬間にフッと意識を手放してしまった。


『お、おいっ! 大丈夫か!? おいってばっ!』


 仕方なく女の子をお姫さま抱っこで持ち上げて結人たちのところへ戻ると、さっきの三人組が結人の兄ちゃんのそばで伸びていた。


『あ、言ってた男、とりあえず倒しといた』


 結人の兄ちゃんは、空手の地区大会で優勝するような実力者だった。

 連絡した時点でそうなるかなとは思ってたけれど、あっさりそう言ってのける結人の兄ちゃんはある意味すごい。


『で、広夢。その女の子は?』


『や、その三人に拉致られてた女の子。突然倒れて……』


 女の子を持ち上げた瞬間、微かに開けられた瞳は、今は再びかたく閉ざされている。

 規則的に呼吸はしているみたいだけど……。


 その後、結人の兄ちゃんの判断で警察と救急車を呼んだ。


 容疑者の男三人のうちの一人が撮影していたビデオが動かぬ証拠となり、男三人は逮捕。


 女の子は無事に意識を取り戻したと、後日聞かされた。


 詳しい話を聞いたのは警察や救急に連絡した結人の兄ちゃんだけで、だからといって兄ちゃんにあのときの女の子について根掘り葉掘り聞くことなんてできなくて、俺はそれ以上の女の子に関することはわからなかった。


 それでも、あのとき一目会っただけだった彼女に、確かに惹かれていた。


 もちろん見た目が好みだったからっていうのもゼロではないと思う。


 けれど何より俺とは全然理由は違うけれど俺を警戒する彼女を見て、当時、人間不振になりかけていた俺は一方的に彼女に親近感を抱いていたんだと思う。


 その後、その女の子と再会することはなくて、記憶が風化するに従って女の子を思い出すことも減った。



 だから高校に入学して、学園のヒメの篠原美姫として再会してすぐには、美姫があのときの女の子だって気づけなかったんだ。



 可愛いのは変わりないけれど、雰囲気も大人っぽく変わっていたし……。



 それでも俺は、美姫の正体に気づく前から、どことなく彼女に惹かれてしまっていた。


 愛とか信じない主義だったのに、それをいとも簡単に打ち壊されるくらいに。



 でも彼女の正体に気づいて、全て繋がった。


 俺が美姫に惹かれたのは、きっと必然だったんだ。


 だって美姫は、過去も今も、俺が唯一好きになった女の子だったんだから──。


 夕焼け色に染まる美姫に、今ならこの想いも伝えることができそうな気もするけれど……。



「あ、あのさ、俺……」


「どうしたの?」


 小首をかしげてきょとんとする美姫。

 美姫は、まるで命の恩人を見てるかのような目で俺を見る。


 まぁ、美姫にとってはそうなんだろうけれど……。


 でも、父さんが帰ってきた以上、彼女と暮らすのももう終わり。


 そう思うと、もう少しだけこのもどかしいけど心地いい関係を続けていたくて。


 残りの時間、気まずくなるのも申し訳なくて。


「ん。やっぱなんでもねーや」


 心の中でそんな言い訳をしながら、俺は何でもないフリをしてその場をごまかした。


 だけど、何度も喉まで出かかる“好き”の気持ちは、どんどん歯止めがきかなくなってきているのも同時に感じていた。


 たとえ、もし持田の言う通り美姫に“好きな人”がいるのだとしても、俺は──……。
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