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第5章
◆誤解-広夢Side-(6)
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*
「よかったね。お父さんと仲直りできて」
美姫の実家から、美姫の家までの帰り道。
夕焼けから星空へと移り行く空を背に、俺たちは二人並んで歩いていた。
父さんも帰ってきたし、同居は解消の方向へと向かうのだろうけれど、まだ俺の荷物は美姫の家にあるし……。
「まぁ……。ってか、何で俺があそこにいるのわかったの?」
俺が父さんと言い合いして美姫の実家を飛び出したあと、闇雲に歩いていた俺を美姫は見つけてくれた。
「わかるわけないでしょ。もう、めちゃくちゃ探したんだからね!?」
「すんません……っ」
だよな。
一瞬、美姫だから……なんて乙女なことを考えた俺が浅はかだった……。
「でもね……。今度は私が広夢くんのことを助けたいって、そう強く思ったから。その思いが広夢くんのいる場所に導いてくれたのかも……」
「……え?」
「あ、や、な、何でもない……っ」
思わず俺が聞き返すと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてうつ向いてしまう美姫。
何こいつ、すげぇ可愛いんだけど。
「それなら、俺は嬉しい。ありがとう、美姫」
会話の流れが変な方向にいってるような気がしなくもないが、真面目にそう返すと、ますます美姫の顔は赤く染まった。
「わ、私は……、広夢くんに助けられてばかりだから」
「俺? そんなに言ってもらえるほどのことはしてねーよ」
「したよ! おばあちゃんのこともだし、修学旅行の海でもだし、男性恐怖症のことも。それに……」
そこで、ぴたりと足を止める美姫。
思わず俺も一歩進んだところで足を止めて、美姫の方を振り返る。
もう美姫の顔は真っ赤な照れた顔から、真面目な顔に戻っていて。
少し、緊張した面持ちで口を開いた。
「あの日、私のことを助けてくれたのは、広夢くんだったんだよね?」
「あの日……?」
「小学6年生のとき、誘拐された私を助けてくれた男の子……」
まさか美姫、思い出したのか……?
「まぁ……」
あの日、それはまだ俺が小学6年生だった頃のことだ。
それはちょうど、俺が父さんを避けるようになったあとのことだった。
その日は、結人と結人の7つ年上の兄ちゃんとキャンプに行こうって話になって、隣の学区の外れにあった山に行ったんだ。
3人で自転車を漕いで、山のふもと付近にたどり着いたとき。
この先に待ち構える急な坂道に備えるため、俺らはその近辺の公園で休憩を取ったんだ。
公園は、特別遊具があるわけでもなく、所々にベンチがあるだけで、たくさんの木々の中にある散歩道といった方がしっくりくるようなところだった。
他にあるものと言えば、他に俺らみたいに遊びに来てる人がいるのか、白いワゴン車が停まっているだけ。
とはいえ、近くには人の姿は見えなかったのだが。
そこで一旦自転車からおりて、広場のようになっているところに腰を下ろす結人たち。
だけど俺は、トイレを探しに結人たちのそばを離れたんだ。
この公園自体、広いせいでなかなか目的のものが見当たらなくて、しばらく俺はトイレを探して公園内をさ迷い歩いた。
思わずあきらめて引き返そうかと思ったときだった。
『ほらっ、こっちおいでよ』
そんなまるで誰かを脅すような男性の低い声が聞こえたんだ。
内心ビクリとした。
近くで何かヤバい事件でも起きてんじゃないかって。
すぐにその場を離れることもできたけれど、野次馬的な気持ちが芽生えて、俺は忍び足で声のした方へ近づいたんだ。
木の陰から顔を出すと、少し離れた所に古びた小屋のようなものが見えた。
そして、その方向へと歩く女の子と、男の人三人。
一人は女の子の手を引いて、もう一人は女の子の背を押して、さらにもう一人はその様子をビデオに撮っている。
女の子は目隠しをされているし……。
明らかに不自然なその光景に、思わず固唾を飲み込んだ。
まさか、そういう趣味の奴らか?
一瞬そんなありもしない考えが頭の中を過ったが、
『や……。離し、て……。誰か……』
確かにはっきりと聞こえたんだ。女の子の声が。
『怖いの? でも怖がる姿も可愛いよ』
違う。これは……まさか、あの女の子、拉致られてる?
そんな考えが過って、俺はその場ですぅっと息を吸った。
今から思えば、俺も危ない状況に陥るかもしれないのによくやったなと思う。
だけど、当時の俺は何のためらいもなく大声を出したのだ。
『お巡りさん、こっちです! あの男三人が女の子に……っ!』
あいつらが白か黒か、暴いてやるっ!
「よかったね。お父さんと仲直りできて」
美姫の実家から、美姫の家までの帰り道。
夕焼けから星空へと移り行く空を背に、俺たちは二人並んで歩いていた。
父さんも帰ってきたし、同居は解消の方向へと向かうのだろうけれど、まだ俺の荷物は美姫の家にあるし……。
「まぁ……。ってか、何で俺があそこにいるのわかったの?」
俺が父さんと言い合いして美姫の実家を飛び出したあと、闇雲に歩いていた俺を美姫は見つけてくれた。
「わかるわけないでしょ。もう、めちゃくちゃ探したんだからね!?」
「すんません……っ」
だよな。
一瞬、美姫だから……なんて乙女なことを考えた俺が浅はかだった……。
「でもね……。今度は私が広夢くんのことを助けたいって、そう強く思ったから。その思いが広夢くんのいる場所に導いてくれたのかも……」
「……え?」
「あ、や、な、何でもない……っ」
思わず俺が聞き返すと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてうつ向いてしまう美姫。
何こいつ、すげぇ可愛いんだけど。
「それなら、俺は嬉しい。ありがとう、美姫」
会話の流れが変な方向にいってるような気がしなくもないが、真面目にそう返すと、ますます美姫の顔は赤く染まった。
「わ、私は……、広夢くんに助けられてばかりだから」
「俺? そんなに言ってもらえるほどのことはしてねーよ」
「したよ! おばあちゃんのこともだし、修学旅行の海でもだし、男性恐怖症のことも。それに……」
そこで、ぴたりと足を止める美姫。
思わず俺も一歩進んだところで足を止めて、美姫の方を振り返る。
もう美姫の顔は真っ赤な照れた顔から、真面目な顔に戻っていて。
少し、緊張した面持ちで口を開いた。
「あの日、私のことを助けてくれたのは、広夢くんだったんだよね?」
「あの日……?」
「小学6年生のとき、誘拐された私を助けてくれた男の子……」
まさか美姫、思い出したのか……?
「まぁ……」
あの日、それはまだ俺が小学6年生だった頃のことだ。
それはちょうど、俺が父さんを避けるようになったあとのことだった。
その日は、結人と結人の7つ年上の兄ちゃんとキャンプに行こうって話になって、隣の学区の外れにあった山に行ったんだ。
3人で自転車を漕いで、山のふもと付近にたどり着いたとき。
この先に待ち構える急な坂道に備えるため、俺らはその近辺の公園で休憩を取ったんだ。
公園は、特別遊具があるわけでもなく、所々にベンチがあるだけで、たくさんの木々の中にある散歩道といった方がしっくりくるようなところだった。
他にあるものと言えば、他に俺らみたいに遊びに来てる人がいるのか、白いワゴン車が停まっているだけ。
とはいえ、近くには人の姿は見えなかったのだが。
そこで一旦自転車からおりて、広場のようになっているところに腰を下ろす結人たち。
だけど俺は、トイレを探しに結人たちのそばを離れたんだ。
この公園自体、広いせいでなかなか目的のものが見当たらなくて、しばらく俺はトイレを探して公園内をさ迷い歩いた。
思わずあきらめて引き返そうかと思ったときだった。
『ほらっ、こっちおいでよ』
そんなまるで誰かを脅すような男性の低い声が聞こえたんだ。
内心ビクリとした。
近くで何かヤバい事件でも起きてんじゃないかって。
すぐにその場を離れることもできたけれど、野次馬的な気持ちが芽生えて、俺は忍び足で声のした方へ近づいたんだ。
木の陰から顔を出すと、少し離れた所に古びた小屋のようなものが見えた。
そして、その方向へと歩く女の子と、男の人三人。
一人は女の子の手を引いて、もう一人は女の子の背を押して、さらにもう一人はその様子をビデオに撮っている。
女の子は目隠しをされているし……。
明らかに不自然なその光景に、思わず固唾を飲み込んだ。
まさか、そういう趣味の奴らか?
一瞬そんなありもしない考えが頭の中を過ったが、
『や……。離し、て……。誰か……』
確かにはっきりと聞こえたんだ。女の子の声が。
『怖いの? でも怖がる姿も可愛いよ』
違う。これは……まさか、あの女の子、拉致られてる?
そんな考えが過って、俺はその場ですぅっと息を吸った。
今から思えば、俺も危ない状況に陥るかもしれないのによくやったなと思う。
だけど、当時の俺は何のためらいもなく大声を出したのだ。
『お巡りさん、こっちです! あの男三人が女の子に……っ!』
あいつらが白か黒か、暴いてやるっ!
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