俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

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第5章

◆誤解-広夢Side-(4)

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 思わず呆気にとられてぽかんとしているだろう俺に、美姫は言葉を続ける。


「特に元介護士の広夢くんのお父さんには、お母さんはおばあちゃんのことをよく相談していたの。少なくとも、おばあちゃんの認知症としての症状が出始めた、私が小学5年生のときくらいからは頻繁に……」


「……んだよ、それ」


 俺からは美姫に父さんのことについて話したことはない。


 父さんが介護士だったことは、さっき父さんから聞いたにせよ、小学5年生からというところは、共通している……。



「いつも泰志おじさんはね、私のおばあちゃんのために動いてくれてたの。私のおばあちゃんと泰志おじさんは、泰志おじさんが子どもの頃からの付き合いだったみたいだから」


 つまり、俺が父さんが遊んでると思ってた時間は、美姫のおばあさんのために使ってたってことなのか?


 美姫があいつを庇うような発言をするのは気に入らないけど、美姫が嘘をつくとも思えない。


 散々親に嘘をつかれて、愛だとか家族だとか信じられなくなっていた俺だけど、美姫のことは信じてるから。



「……でも、」


 それでもやっぱり、素直に俺の中で受け入れるには抵抗があって、思わず口ごもる。


 すると、


「とにかく来て。泰志おじさんと私のお母さんが、説明してくれると思うから」


 そう言って、美姫は俺の腕を引いて歩き始めた。


 美姫に連れてこられたのは、本日二度目の美姫の実家だった。


 あんな風に飛び出しただけに、思わず入るのをためらってしまう。


 だけど俺のそんな心境に反して、美姫によって玄関のドアは開けられてしまった。



 そして、リビングへと通される。


 すると俺の顔を見るなり、台所にいた美姫のお母さんが飛ぶようにこちらにやって来た。


「ムーくんっ! ごめんねっ!」


「……ぃ、え?」


 その勢いに、思わずたじろぎそうになる。



「泰志くんのこと、勘違いしないであげてほしいの!」



 まるでマシンガントークのように、父さんのことについて弁護する美姫のお母さん。


 勢いだけはすごかったけど、内容としてはさっき美姫から聞いたものと同じもの。


 早くに美姫のお父さんが亡くなってしまってから、時々気にかけてくれていたこと。


 そして、美姫のおばあさんの介護やアドバイスをよくしてくれたこと。


 そこだけ聞けば、確かに良い奴に聞こえる。


 美姫たちの話を信じられないわけではない。


 だけどやっぱり、俺の中に引っ掛かるところがあるのも確かだった。


 俺は、夜に父さんが女の人のアパートの一室に入っていくのを何度も見ているのだから。



 美姫や美姫のお母さんは、自分たちに時間を割いてもらってたせいで俺と父さんの時間を奪ってしまったって言うけどさ。


 それだけじゃないんじゃないかって、実際のところ思ってる。



「それに、このマンションにおばあちゃんと引っ越してきたときも、泰志くんには付きっきりで手伝ってもらっちゃったの。私が甘えすぎたせいでこんなことになっていたなんて……」


「おばさんのせいじゃないですから……」


 それなのに美姫のお母さんにこんなに謝られてもなぁ……。


 根本的なところがずれてる以上……、って、え……?



「……美姫たちは、昔からここに住んでたわけじゃなかったんですか?」


 何気なく聞き流しそうになってしまったけれど、確かにこのマンションにおばあちゃんと引っ越してきたと聞こえた。


 ちょっと話題を反らさせるつもりでそう聞き返す。



「そうなのよ。以前は西町のアパートに住んでいたんだけどね、おばあちゃんと住むとなったら狭かったし。このマンションは部屋数も丁度良いし、バリアフリー対応の造りになってるから、美姫ちゃんが中学に上がるタイミングで引っ越してきたのよ」

「西町……?」


 ドクドクとその町名に反応する。


 あの父さんが女の人の部屋に入っていくところを見たのも、西町だったから。



「それって、西町第一ハイツの1階の真ん中の部屋……?」


「あら、そうよ。もしかして、美姫ちゃんに聞いてた?」


 思わず口走った、そのアパートの部屋の位置。


 あの父さんが度々通っていたと思われる女の人の部屋は、元美姫の家だったってことか……?



「マジかよ……っ」


 いろんな情報が俺の頭の中でひとつに繋がった瞬間、一気に全身に脱力感が襲い来る。


 あの当時、あそこに住んでたのが美姫と美姫のお母さんだったなら、きっとあのとき俺が見たのは美姫のお母さん。


 そして二人の話を聞く限り、父さんが白なのは証明されてしまうわけで……。


 マジで何なんだよ。

 今まで俺は勘違いし続けてきたってことじゃねーか!


 でも心の中でそうであってほしいと願っていた自分は今もいたようで、何とも言えない安堵の気持ちが胸に広がる感覚があるのも事実。
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