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第5章
◆誤解-広夢Side-(1)
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美姫のおばあさんは、俺と美姫がお見舞いに行ってから10日ほどで亡くなってしまった。
その間、美姫がおばあさんと話せたのは、最初の日を含めて本当に片手で数えられる程度だったと思う。
だけど、おばあさんのお葬式の日。
俺にお礼を言ってきた美姫の姿を見て、あの日の俺の選択は間違いじゃなかったんだって思えた。
おばあさんが亡くなったあとの美姫はやっぱり落ち込んでるみたいだったけど、おばあさんが亡くなってしまう前に会って話すことができて良かったと、何度も言っていた。
おばあさんの入院からお葬式まで、日取りとしてバタバタとしてたのが落ち着いた8月の半ば。
美姫と選んだお供えを持って、改めておばあさんに手を合わせに美姫の家を訪れた。
お供えのカステラを供えて、おばあさんに手を合わせた俺たち。
だけど、そのとき来客者が来たようで、美姫が玄関口の方へ出ていったんだ。
そして俺は、美姫に連れられて部屋に入ってきた男の姿を見て、愕然とした。
美姫に誘導されてこちらに歩いてきたのは、俺の父親の、夏川泰志だったのだから──。
俺はもう顔も覚えてない母さん似だと言われているだけに、父さんとは全然似ていない。
父さんも俺を見て驚いたようで、俺の方を見ると、俺とは似てない切れ長の一重の目を軽く見開いた。
何で、こいつがこんなところに来てんだよ。
ってか、海外出張はどうなってんだ?
もう間もなく、俺が美姫と暮らしはじめてから当初の予定の3ヶ月が過ぎる。
だから、そろそろ父さんが海外出張から帰ってきたところで全くおかしなことではないが、それならそうと一言くらい連絡くれたっていいだろうが!
父さんはいつも勝手だ。
仕事が休みの日も家にほとんどいないし、美姫との同居を決めるのも突然だったし……。
そんな父さんが美姫の家に何の用なんだよ!
ぎりりと拳を握りしめる。
美姫のおばあさんに手を合わせて、美姫のお母さんと話す父さんを睨むように見ていると、
「ひ、広夢くん……」
隣から微かな声で、弱々しく俺の名前を呼ばれた。
「あ?」
内心イライラしていたのもあって、口から出たのは思いの外低い声だった。しまったと思ったときには美姫は少し肩をビクつかせていた。
「悪い……」
「う、ううん。私こそごめんね。……どうしたの?」
「や。何でもない」
美姫の男性恐怖症は、以前に比べるとかなり改善されたと思う。
でもいきなり近づかれたり、大きな声を出されたりすると怖いと感じることが多いようだ。
今のは、美姫も小さな声で聞いてきたし、俺もそんなに大きな声で返した覚えはないのだが……。
俺の声に、あまりにイラついた雰囲気が出ていたのかな。
ったく、怖がらせてどうするんだよ……。
「じゃあ泰志くんも来たし、みんなでケーキでも食べましょう! 美姫ちゃん、手伝って」
そのとき、美姫のお母さんがパチンと両手を合わせてそう言う。
「あ、うん……」
美姫はチラチラと俺のことを心配げに見ながらも、和室をあとにした。
和室には、俺と父さんの二人が残る。
「……何でお前がここに居んだよ」
しばらく沈黙が続いていたが、俺は胸の中でモヤモヤと思っていたことを口に出す。
「何でって、美姫ちゃんのおばあさんに手を合わせに来たんじゃないか」
「あいつのことを、馴れ馴れしく“美姫ちゃん”なんて呼んでんじゃねーよ。気持ち悪い。しかも、何でお前が美姫のおばあさんに手を合わせに来る必要があるんだよ」
ああ、もう、聞いてるだけでイライラする。
だけど、父さんは俺に何を言っても無駄だと思ってるのか、黙って涼しい顔をしているし……。
そんな父さんにあからさまに舌打ちすると、俺はもうひとつ気になっていたことを口にした。
「……海外出張はどうなったんだよ」
「終わったから帰ってきたんだろう。その調子で、美姫ちゃんにも迷惑かけてないか心配だな」
「何だよ、それ……」
「お前のことだから、また夜遅くまで遊び呆けて、美姫ちゃんにも迷惑かけてたんじゃないのか?」
「はぁ!? お前に言われたくねーよ」
お前のような奴に言われたくねーよ。
都合のいいときだけ父親ヅラして、基本、俺のことなんて放置で。
父さんこそ、仕事が終わっても真っ直ぐ家に帰ってくることなんて、ほとんどなかったじゃないか!
父さんこそ、他の女作って遊び歩いてたんじゃねーのかよ!
イライラが頂点に達していた俺は、その感情を思わずぶつけていた。
その間、美姫がおばあさんと話せたのは、最初の日を含めて本当に片手で数えられる程度だったと思う。
だけど、おばあさんのお葬式の日。
俺にお礼を言ってきた美姫の姿を見て、あの日の俺の選択は間違いじゃなかったんだって思えた。
おばあさんが亡くなったあとの美姫はやっぱり落ち込んでるみたいだったけど、おばあさんが亡くなってしまう前に会って話すことができて良かったと、何度も言っていた。
おばあさんの入院からお葬式まで、日取りとしてバタバタとしてたのが落ち着いた8月の半ば。
美姫と選んだお供えを持って、改めておばあさんに手を合わせに美姫の家を訪れた。
お供えのカステラを供えて、おばあさんに手を合わせた俺たち。
だけど、そのとき来客者が来たようで、美姫が玄関口の方へ出ていったんだ。
そして俺は、美姫に連れられて部屋に入ってきた男の姿を見て、愕然とした。
美姫に誘導されてこちらに歩いてきたのは、俺の父親の、夏川泰志だったのだから──。
俺はもう顔も覚えてない母さん似だと言われているだけに、父さんとは全然似ていない。
父さんも俺を見て驚いたようで、俺の方を見ると、俺とは似てない切れ長の一重の目を軽く見開いた。
何で、こいつがこんなところに来てんだよ。
ってか、海外出張はどうなってんだ?
もう間もなく、俺が美姫と暮らしはじめてから当初の予定の3ヶ月が過ぎる。
だから、そろそろ父さんが海外出張から帰ってきたところで全くおかしなことではないが、それならそうと一言くらい連絡くれたっていいだろうが!
父さんはいつも勝手だ。
仕事が休みの日も家にほとんどいないし、美姫との同居を決めるのも突然だったし……。
そんな父さんが美姫の家に何の用なんだよ!
ぎりりと拳を握りしめる。
美姫のおばあさんに手を合わせて、美姫のお母さんと話す父さんを睨むように見ていると、
「ひ、広夢くん……」
隣から微かな声で、弱々しく俺の名前を呼ばれた。
「あ?」
内心イライラしていたのもあって、口から出たのは思いの外低い声だった。しまったと思ったときには美姫は少し肩をビクつかせていた。
「悪い……」
「う、ううん。私こそごめんね。……どうしたの?」
「や。何でもない」
美姫の男性恐怖症は、以前に比べるとかなり改善されたと思う。
でもいきなり近づかれたり、大きな声を出されたりすると怖いと感じることが多いようだ。
今のは、美姫も小さな声で聞いてきたし、俺もそんなに大きな声で返した覚えはないのだが……。
俺の声に、あまりにイラついた雰囲気が出ていたのかな。
ったく、怖がらせてどうするんだよ……。
「じゃあ泰志くんも来たし、みんなでケーキでも食べましょう! 美姫ちゃん、手伝って」
そのとき、美姫のお母さんがパチンと両手を合わせてそう言う。
「あ、うん……」
美姫はチラチラと俺のことを心配げに見ながらも、和室をあとにした。
和室には、俺と父さんの二人が残る。
「……何でお前がここに居んだよ」
しばらく沈黙が続いていたが、俺は胸の中でモヤモヤと思っていたことを口に出す。
「何でって、美姫ちゃんのおばあさんに手を合わせに来たんじゃないか」
「あいつのことを、馴れ馴れしく“美姫ちゃん”なんて呼んでんじゃねーよ。気持ち悪い。しかも、何でお前が美姫のおばあさんに手を合わせに来る必要があるんだよ」
ああ、もう、聞いてるだけでイライラする。
だけど、父さんは俺に何を言っても無駄だと思ってるのか、黙って涼しい顔をしているし……。
そんな父さんにあからさまに舌打ちすると、俺はもうひとつ気になっていたことを口にした。
「……海外出張はどうなったんだよ」
「終わったから帰ってきたんだろう。その調子で、美姫ちゃんにも迷惑かけてないか心配だな」
「何だよ、それ……」
「お前のことだから、また夜遅くまで遊び呆けて、美姫ちゃんにも迷惑かけてたんじゃないのか?」
「はぁ!? お前に言われたくねーよ」
お前のような奴に言われたくねーよ。
都合のいいときだけ父親ヅラして、基本、俺のことなんて放置で。
父さんこそ、仕事が終わっても真っ直ぐ家に帰ってくることなんて、ほとんどなかったじゃないか!
父さんこそ、他の女作って遊び歩いてたんじゃねーのかよ!
イライラが頂点に達していた俺は、その感情を思わずぶつけていた。
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