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第4章
◇踏み出す勇気-美姫Side-(2)
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「……美姫もおばあさんも辛い想いをしてきたってことなんだよな」
「……おばあちゃん、も……?」
広夢くんの口調は、決して私を責め立てる内容のものではなかった。
でも、おばあちゃんも辛い想いをしてたんだと言われて責められているように聞こえて、私は真剣にこちらを見つめる広夢くんから目をそらしたくなる。
「だって美姫のおばあさんは、美姫のことも美姫との思い出も思い出せなくなってしまったんだろ? どんどん大切な思い出を忘れていくって、とても寂しいことなんじゃないかな。少なくとも俺は、大切な人との思い出を忘れてしまうのは寂しいし、辛いなって思う」
大切な人との、思い出……。
そうかも、しれないけれど……。
「どうかな。だっておばあちゃんはもう、私のことなんて……」
「病気のせいで美姫のことを上手く思い出せなくなってしまっただけでさ、美姫のことを嫌いになったわけじゃないと思うよ」
「そんなの、何でわかるの? 広夢くんは何もわかってない。すでにおばあちゃんに忘れられてる上に、私はもう1年以上もおばあちゃんとは会ってないの。私がおばあちゃんに会いに行ったところで、何もおばあちゃんのためにならない。だから、行っても無駄だよ」
「……ごめん。わかったようなこと言って。俺が無神経だった」
少し寂しげな広夢くんの表情に胸が痛む。
広夢くんは私を励まそうとしてくれてただけ。
おばあちゃんのことを思って言ってくれてるのも伝わってきてるのに……。
広夢くんを困らせることしか言えない自分に、うんざりする。
でも、他に何て言えばいいの?
それは事実に変わりないのに……。
「これで、最後にするから。俺の話、聞いてもらえる?」
「何……?」
「俺は美姫のために、おばあさんに会いに行ってほしい」
「……え?」
私の、ため……?
「美姫に、後悔してほしくないから。今、美姫が意地を張って会いに行かないで、もう二度とおばあさんに会えなくなったら、きっと美姫は後悔する気がするんだ」
「こ、後悔、なんて……っ」
「美姫が後悔しないって言い切れるなら、もう俺は何も言わない。偉そうに好き勝手しゃべって、気分悪くさせてごめんな」
「私、は……っ」
だけどそのとき、今まで思い出さないように蓋をしていた、おばあちゃんとの思い出の数々が走馬灯のように駆け巡る。
『美姫ちゃん、いらっしゃい』
──いつ遊びに行っても、笑顔で出迎えてくれたおばあちゃん。
『勉強しないで食べていけるほど、世の中甘くない』
──遊んでばかりいたら、そんな風に叱られた。
『美姫ちゃんは賢いね。おばあちゃんの自慢だよ』
──だけど頑張ったらその分うんと褒めてもらえて、もっと頑張ろうって思えた。
『美姫ちゃん、元気?』
──物忘れが酷くなっても、私のことがわからなくなるまで、私の顔色の変化に気づいてそう聞いてくれたおばあちゃん。
おばあちゃん……。
涙が次から次へとあふれて止まらない。
「……っ!?」
そのとき、ふわりと広夢くんの手が私の頬に触れて、私の肩がビクンと跳ねる。
広夢くんが私の涙を指先で拭ったんだ。
「あ、ごめん……」
「ううん。私こそ、泣いてしまってごめんね」
「美姫は、おばあさんに会いたい?」
「……会いたい……おばあちゃんに、会いたいよ……っ」
忘れられたから、思い出してもらえないから……。それならもう二度と、おばあちゃんのそばに行ったらいけないような気がしてた。
「じゃあ、それでいいだろ? それなら会いに行こうよ」
「……うん」
「やっと、素直になったな」
また拒絶されるのが怖くて。
また私の存在を否定されるのが怖くて。
ずっと逃げてばかりだったけど、本当はおばあちゃんに会いたかった。
私のよく知ってるあのおばあちゃんではなくなってしまっても、おばあちゃんはおばあちゃんに変わりないのだから……。
その日はもう夜になってしまっていたので、次の日の面会時間に、おばあちゃんに会いに行くことにした。
「……おばあちゃん、も……?」
広夢くんの口調は、決して私を責め立てる内容のものではなかった。
でも、おばあちゃんも辛い想いをしてたんだと言われて責められているように聞こえて、私は真剣にこちらを見つめる広夢くんから目をそらしたくなる。
「だって美姫のおばあさんは、美姫のことも美姫との思い出も思い出せなくなってしまったんだろ? どんどん大切な思い出を忘れていくって、とても寂しいことなんじゃないかな。少なくとも俺は、大切な人との思い出を忘れてしまうのは寂しいし、辛いなって思う」
大切な人との、思い出……。
そうかも、しれないけれど……。
「どうかな。だっておばあちゃんはもう、私のことなんて……」
「病気のせいで美姫のことを上手く思い出せなくなってしまっただけでさ、美姫のことを嫌いになったわけじゃないと思うよ」
「そんなの、何でわかるの? 広夢くんは何もわかってない。すでにおばあちゃんに忘れられてる上に、私はもう1年以上もおばあちゃんとは会ってないの。私がおばあちゃんに会いに行ったところで、何もおばあちゃんのためにならない。だから、行っても無駄だよ」
「……ごめん。わかったようなこと言って。俺が無神経だった」
少し寂しげな広夢くんの表情に胸が痛む。
広夢くんは私を励まそうとしてくれてただけ。
おばあちゃんのことを思って言ってくれてるのも伝わってきてるのに……。
広夢くんを困らせることしか言えない自分に、うんざりする。
でも、他に何て言えばいいの?
それは事実に変わりないのに……。
「これで、最後にするから。俺の話、聞いてもらえる?」
「何……?」
「俺は美姫のために、おばあさんに会いに行ってほしい」
「……え?」
私の、ため……?
「美姫に、後悔してほしくないから。今、美姫が意地を張って会いに行かないで、もう二度とおばあさんに会えなくなったら、きっと美姫は後悔する気がするんだ」
「こ、後悔、なんて……っ」
「美姫が後悔しないって言い切れるなら、もう俺は何も言わない。偉そうに好き勝手しゃべって、気分悪くさせてごめんな」
「私、は……っ」
だけどそのとき、今まで思い出さないように蓋をしていた、おばあちゃんとの思い出の数々が走馬灯のように駆け巡る。
『美姫ちゃん、いらっしゃい』
──いつ遊びに行っても、笑顔で出迎えてくれたおばあちゃん。
『勉強しないで食べていけるほど、世の中甘くない』
──遊んでばかりいたら、そんな風に叱られた。
『美姫ちゃんは賢いね。おばあちゃんの自慢だよ』
──だけど頑張ったらその分うんと褒めてもらえて、もっと頑張ろうって思えた。
『美姫ちゃん、元気?』
──物忘れが酷くなっても、私のことがわからなくなるまで、私の顔色の変化に気づいてそう聞いてくれたおばあちゃん。
おばあちゃん……。
涙が次から次へとあふれて止まらない。
「……っ!?」
そのとき、ふわりと広夢くんの手が私の頬に触れて、私の肩がビクンと跳ねる。
広夢くんが私の涙を指先で拭ったんだ。
「あ、ごめん……」
「ううん。私こそ、泣いてしまってごめんね」
「美姫は、おばあさんに会いたい?」
「……会いたい……おばあちゃんに、会いたいよ……っ」
忘れられたから、思い出してもらえないから……。それならもう二度と、おばあちゃんのそばに行ったらいけないような気がしてた。
「じゃあ、それでいいだろ? それなら会いに行こうよ」
「……うん」
「やっと、素直になったな」
また拒絶されるのが怖くて。
また私の存在を否定されるのが怖くて。
ずっと逃げてばかりだったけど、本当はおばあちゃんに会いたかった。
私のよく知ってるあのおばあちゃんではなくなってしまっても、おばあちゃんはおばあちゃんに変わりないのだから……。
その日はもう夜になってしまっていたので、次の日の面会時間に、おばあちゃんに会いに行くことにした。
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