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第4章
◆素直になって-広夢Side-(5)
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「……む、無理だよ」
だけど、美姫から返ってきたのはそんな弱々しい言葉。
「は? 何が無理なんだよ」
市民病院なら、確かこの近くのバス停から病院経由のバスが出ている。
だから行こうと思えば、俺らの力でも充分行けるはずなのに……。
「……行ったって無駄だから。行ったところで、おばあちゃんには私のことはわからない」
「何言って……」
美姫が言ってる意味がわからなかった。
だけど、もっと詳しく話を聞こうとするも、
「もういいでしょ? 広夢くんには関係ないんだから。お腹すいたでしょ? お昼食べよう?」
もうこれ以上聞くなと言わんばかりに、突き放されてしまった。
とりあえずその場は、素直に身を引いたけれど……。
美姫は、本当にこのままでいいって思っているのだろうか。
多分だけど、それは違うと思う。
おばあさんのことを話してくれたときに見せた涙こそが、美姫の本心なんじゃないかって。
無理だなんて言ってたけど、美姫は本当はおばあさんのことが大好きなんじゃないかって。
本当は、おばあさんに会いたいんじゃないかって。そう思ったんだ。
美姫にとっては余計なお世話かもしれないし、あまりしつこくすると嫌われてしまうかもしれないけれど、その日の夜、俺はもう一度美姫のおばあさんのことについて話そうと思った。
お昼に一度突き放されてしまってからほとんど美姫と話さずにいたから、まともにこうやって向かい合って話すのはあのお昼のとき以来だ。
先に風呂を済ませていた俺は、リビングでテレビを見るふりをしながら美姫を待ち伏せした。
「……美姫」
美姫が風呂から上がってリビングに戻ってきたところで、テレビを消して美姫を呼び止める。
「な、何?」
少し、警戒したように俺を見る美姫。
最近ではこういうことはなくなっていただけに、なんだか美姫との距離が再びできてしまったように見えて悲しい。
「あのさ、昼のことだけどやっぱり……」
「広夢くんには関係ないって言ったでしょ」
俺が全部を話し終える前に返ってきたのは、そんな冷たさを含む言葉。
「そうだけどさ……っ。美姫は、それでいいの?」
すぐさま自分の部屋の方へと足を向けた美姫の背に、問いかける。
「おばあさんの体力が持たないかもって言ってたのは美姫じゃん。万が一最悪の結果になれば、美姫はもうおばあさんと会えないんだよ。そうなったとき、美姫は本当に後悔しない?」
その場にピタリと足を止めて、部屋に入る様子のなくなった美姫。
だからといって、こちらを向いて目を合わせてくれることもないけれど、きっと美姫なりに考えてくれてるんだと信じたい……。
時間的には数分くらいだと思う。
「広夢くんは何も知らないから、そんなこと言えるんだよ」
美姫は泣くのを堪えたような表情でそう言って、こちらを向いた。
「……私のおばあちゃんね、私のこと覚えてないの」
「え?」
美姫が言ってることを理解するのに、少し時間がかかった。
や、言ってる言葉の意味自体はわかるのだけれど、おばあさんが美姫のことを覚えてないって……。
「おばあちゃんは、認知症を患ってるの。もともとすごくしっかりしたおばあちゃんで、今私たちが使ってるこの部屋でずっと一人で暮らしてたんだけど、私が小学5年生の頃くらいによく物忘れをするようになって……」
少しためらいがちではあったけれど、ぽつりぽつりと美姫はおばあさんとの思い出を話し始めた。
だけど、美姫から返ってきたのはそんな弱々しい言葉。
「は? 何が無理なんだよ」
市民病院なら、確かこの近くのバス停から病院経由のバスが出ている。
だから行こうと思えば、俺らの力でも充分行けるはずなのに……。
「……行ったって無駄だから。行ったところで、おばあちゃんには私のことはわからない」
「何言って……」
美姫が言ってる意味がわからなかった。
だけど、もっと詳しく話を聞こうとするも、
「もういいでしょ? 広夢くんには関係ないんだから。お腹すいたでしょ? お昼食べよう?」
もうこれ以上聞くなと言わんばかりに、突き放されてしまった。
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多分だけど、それは違うと思う。
おばあさんのことを話してくれたときに見せた涙こそが、美姫の本心なんじゃないかって。
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本当は、おばあさんに会いたいんじゃないかって。そう思ったんだ。
美姫にとっては余計なお世話かもしれないし、あまりしつこくすると嫌われてしまうかもしれないけれど、その日の夜、俺はもう一度美姫のおばあさんのことについて話そうと思った。
お昼に一度突き放されてしまってからほとんど美姫と話さずにいたから、まともにこうやって向かい合って話すのはあのお昼のとき以来だ。
先に風呂を済ませていた俺は、リビングでテレビを見るふりをしながら美姫を待ち伏せした。
「……美姫」
美姫が風呂から上がってリビングに戻ってきたところで、テレビを消して美姫を呼び止める。
「な、何?」
少し、警戒したように俺を見る美姫。
最近ではこういうことはなくなっていただけに、なんだか美姫との距離が再びできてしまったように見えて悲しい。
「あのさ、昼のことだけどやっぱり……」
「広夢くんには関係ないって言ったでしょ」
俺が全部を話し終える前に返ってきたのは、そんな冷たさを含む言葉。
「そうだけどさ……っ。美姫は、それでいいの?」
すぐさま自分の部屋の方へと足を向けた美姫の背に、問いかける。
「おばあさんの体力が持たないかもって言ってたのは美姫じゃん。万が一最悪の結果になれば、美姫はもうおばあさんと会えないんだよ。そうなったとき、美姫は本当に後悔しない?」
その場にピタリと足を止めて、部屋に入る様子のなくなった美姫。
だからといって、こちらを向いて目を合わせてくれることもないけれど、きっと美姫なりに考えてくれてるんだと信じたい……。
時間的には数分くらいだと思う。
「広夢くんは何も知らないから、そんなこと言えるんだよ」
美姫は泣くのを堪えたような表情でそう言って、こちらを向いた。
「……私のおばあちゃんね、私のこと覚えてないの」
「え?」
美姫が言ってることを理解するのに、少し時間がかかった。
や、言ってる言葉の意味自体はわかるのだけれど、おばあさんが美姫のことを覚えてないって……。
「おばあちゃんは、認知症を患ってるの。もともとすごくしっかりしたおばあちゃんで、今私たちが使ってるこの部屋でずっと一人で暮らしてたんだけど、私が小学5年生の頃くらいによく物忘れをするようになって……」
少しためらいがちではあったけれど、ぽつりぽつりと美姫はおばあさんとの思い出を話し始めた。
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