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第4章
◆素直になって-広夢Side-(4)
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「……はい、もしもし?」
美姫は、日頃あまり電話をしない。
そんな美姫のところに電話をかけてくるのは、美姫の親からのことが多いようだ。
そりゃこんな可愛い女の子が親と別居してるんだもんな。
親の目から見ても心配だろう。
再び台所に戻ると、美姫は今さっきの間にも手早く素麺のつゆを二人分用意してくれたようだった。
それも運んでおこうと思ったところで、
「……え、おばあちゃんが!?」
ビクッと肩を震わせて深刻そうな声色でそう言った美姫に、俺は思わず一瞬その場に足を止めた。
いい知らせの電話じゃないのは美姫の顔を見れば明らかで、その表情は強ばって見える。
だけど、ここで俺が立ち止まってあからさまに美姫の話を立ち聞きするのも気が引けるので、俺は無理やり手足を動かして、素麺のつゆの入った汁椀もテーブルの上に運んだ。
「……うん、……うん。わかった。…………それはまた、考えさせて。……うん。また……」
電話が終わったのか美姫は画面をタップすると、キッチン台にスマホを置いて小さく息を吐き出した。
その表情はどことなく覇気がなく、何かを思い悩んでいるようにも見える。
「……あの、美姫?」
「ああ、ごめんね。広夢くん、一人にやらせて……」
美姫に声をかけると、そんな暗い表情をパッと引っ込めてこちらを向く。
だけど、何だかそれも無理してるように見えて仕方がない。
「俺がこんなこと聞いていいかわからないし、嫌だったらこたえなくていいから。……電話、あまり良い内容じゃなかったの?」
「……え?」
美姫は微かに肩を揺らして俺を見る。
その瞳はどこか潤んで見えて、思わず胸が締め付けられるようだった。
すぐには何もこたえない美姫。
やっぱり聞かれたくないことだったのかな、と数分前の自分の行動に後悔しかけたとき。
「……おばあちゃんが、入院、した、って……」
今にも消えてしまいそうなか細い声で、美姫はそう言った。
「え……っ!?」
美姫のおばあさんが、入院……?
「7月に入る前から、体調を崩しちゃってたみたいで……。近くの診療所では夏風邪だって最初は診断されてたみたいなんだけどなかなか治らなくて、むしろ症状は日に日に悪化していくばかりだったんだって。それで今日総合病院に連れて行ったら、肺炎で入院することになった、って……」
美姫の話を聞くところ、美姫のおばあさんとお母さんは一緒に住んでいたんだそうだ。
そしておばあさんが入院することになったのは、ここからもそう遠くはない市民病院らしい。
「……でも、おばあちゃんはかなり高齢で身体も弱ってるから、体力が持たないかもって……」
ポタッと美姫の瞳から透明の雫が一粒こぼれ落ちる。
かなり高齢で身体も弱ってるから、体力が持たない、って。
その先に続く、美姫の予想する最悪の末路は言われなくても想像ついた。
でもだからって……っ。
「……美姫がおばあさんのこと信じないでどうすんだよ」
「でも……、」
「でももクソもねぇだろ!? 行こう!」
思わず美姫の腕をガシッとつかむと、ビクッと美姫が肩を震わすのが見えた。
いきなり美姫の身体に触れてしまった上、結構大きな声を出しちゃったからな……。
「ひ、広夢く……っ。行く、って、どこに……?」
だけど怯んだのはその一瞬だけで、美姫は逃げることなく俺の瞳を見つめ返してくる。
「美姫のおばあさんのところだよ。美姫の可愛い顔見せたら、病気なんて吹っ飛ぶかもしれないだろ?」
病は気から、って言葉を聞いたことがある。
確か、病気が治るも悪化するも、本人の気持ちに左右される部分があるとかっていう意味だ。
俺は医者でも何でもないから、そんなことしたって本当に効果があるのかなんてわからない。
だけど、もしそれが少しでも美姫のおばあさんを元気にさせるきっかけになり得るのなら、俺は美姫はこんなところで泣いてないでおばあさんに会いに行くべきだと思った。
おばあさんだって、きっと美姫に会いたいはず……。
美姫は、日頃あまり電話をしない。
そんな美姫のところに電話をかけてくるのは、美姫の親からのことが多いようだ。
そりゃこんな可愛い女の子が親と別居してるんだもんな。
親の目から見ても心配だろう。
再び台所に戻ると、美姫は今さっきの間にも手早く素麺のつゆを二人分用意してくれたようだった。
それも運んでおこうと思ったところで、
「……え、おばあちゃんが!?」
ビクッと肩を震わせて深刻そうな声色でそう言った美姫に、俺は思わず一瞬その場に足を止めた。
いい知らせの電話じゃないのは美姫の顔を見れば明らかで、その表情は強ばって見える。
だけど、ここで俺が立ち止まってあからさまに美姫の話を立ち聞きするのも気が引けるので、俺は無理やり手足を動かして、素麺のつゆの入った汁椀もテーブルの上に運んだ。
「……うん、……うん。わかった。…………それはまた、考えさせて。……うん。また……」
電話が終わったのか美姫は画面をタップすると、キッチン台にスマホを置いて小さく息を吐き出した。
その表情はどことなく覇気がなく、何かを思い悩んでいるようにも見える。
「……あの、美姫?」
「ああ、ごめんね。広夢くん、一人にやらせて……」
美姫に声をかけると、そんな暗い表情をパッと引っ込めてこちらを向く。
だけど、何だかそれも無理してるように見えて仕方がない。
「俺がこんなこと聞いていいかわからないし、嫌だったらこたえなくていいから。……電話、あまり良い内容じゃなかったの?」
「……え?」
美姫は微かに肩を揺らして俺を見る。
その瞳はどこか潤んで見えて、思わず胸が締め付けられるようだった。
すぐには何もこたえない美姫。
やっぱり聞かれたくないことだったのかな、と数分前の自分の行動に後悔しかけたとき。
「……おばあちゃんが、入院、した、って……」
今にも消えてしまいそうなか細い声で、美姫はそう言った。
「え……っ!?」
美姫のおばあさんが、入院……?
「7月に入る前から、体調を崩しちゃってたみたいで……。近くの診療所では夏風邪だって最初は診断されてたみたいなんだけどなかなか治らなくて、むしろ症状は日に日に悪化していくばかりだったんだって。それで今日総合病院に連れて行ったら、肺炎で入院することになった、って……」
美姫の話を聞くところ、美姫のおばあさんとお母さんは一緒に住んでいたんだそうだ。
そしておばあさんが入院することになったのは、ここからもそう遠くはない市民病院らしい。
「……でも、おばあちゃんはかなり高齢で身体も弱ってるから、体力が持たないかもって……」
ポタッと美姫の瞳から透明の雫が一粒こぼれ落ちる。
かなり高齢で身体も弱ってるから、体力が持たない、って。
その先に続く、美姫の予想する最悪の末路は言われなくても想像ついた。
でもだからって……っ。
「……美姫がおばあさんのこと信じないでどうすんだよ」
「でも……、」
「でももクソもねぇだろ!? 行こう!」
思わず美姫の腕をガシッとつかむと、ビクッと美姫が肩を震わすのが見えた。
いきなり美姫の身体に触れてしまった上、結構大きな声を出しちゃったからな……。
「ひ、広夢く……っ。行く、って、どこに……?」
だけど怯んだのはその一瞬だけで、美姫は逃げることなく俺の瞳を見つめ返してくる。
「美姫のおばあさんのところだよ。美姫の可愛い顔見せたら、病気なんて吹っ飛ぶかもしれないだろ?」
病は気から、って言葉を聞いたことがある。
確か、病気が治るも悪化するも、本人の気持ちに左右される部分があるとかっていう意味だ。
俺は医者でも何でもないから、そんなことしたって本当に効果があるのかなんてわからない。
だけど、もしそれが少しでも美姫のおばあさんを元気にさせるきっかけになり得るのなら、俺は美姫はこんなところで泣いてないでおばあさんに会いに行くべきだと思った。
おばあさんだって、きっと美姫に会いたいはず……。
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