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第4章
◆素直になって-広夢Side-(3)
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「ってか、本人の口から何を聞いたわけでもないのに落ち込みすぎだろ。あんなの、持田がお前をおとしいれようとしてるだけかもしれないだろ?」
「まぁ、そうだけどさ……」
その通りなんだけど、一度そうかもしれないと思ったらなかなか前向きに考えることなんてできなくて。
残りの修学旅行中、ずっと頭の片隅で美姫の好きな奴についてああだこうだと一人考えていた気がする。
修学旅行が終わり、夏休みに突入する。
俺と美姫の3ヶ月の同居生活も残すところあと数週間、といったところになった。
だけど……。
「おはよう」
「あ、おはよ……」
偶然部屋から出たところで顔を合わせた美姫は、俺からあからさまに顔をそらして台所の方へ消えていく。
修学旅行から帰ってから、どことなくよそよそしいところがある美姫。
俺、何かしたかな……?
変わらずごはんは作ってくれるし、一緒に食べて片付けもしているし、男性恐怖症克服の特訓も続いてる。
だからきっと、嫌われてしまったというわけではないのだろう。
美姫の好きな奴がいるって話は結局その真偽さえわからないままだし、胸がモヤモヤしっぱなしだ。
でも、もし本当に美姫に好きな奴がいるのだとしたら、俺がここに住んでるのってかなり美姫にとって迷惑だよな。
それに男性恐怖症を克服するって名目の特訓も、好きな奴ができたなら、そいつにしてもらった方がずっといいだろうし……。
そこまで考えて、自然とため息が漏れる。
まだ、そうとは限らない。
とはいえ、真実を確認できるほどの勇気が俺にないのも確かだった。
そんな7月下旬のことだ。
この日は俺も美姫も出かけることなく、のんびり掃除をしたり片付けをしたり、俺も美姫の指示のもと家事を手伝っていた。
お昼は暑いし素麺にしようということで、俺は美姫が茹でてくれた素麺を冷やして器に盛っていた。
ちょうど二人分にわけて、美姫の方へと顔を向けたとき。
踏み台に乗って、シンクの上の部分についた棚に手を伸ばしていた美姫が、大きくバランスを崩すのが見えた。
「ひゃ……っ」
おいおい、大丈夫かよ……っ!
「……おっと、危ない」
慌ててその場に駆け寄って、何とか後ろに大きく傾いた美姫の身体を支えることに成功した俺。
その美姫の手には、未開封の素麺のつゆが握られている。
「無理しなくても、言ってくれたら取ったのに」
きっと俺が違うことをしてたから、美姫は俺に遠慮したんだろうけど。
「あ、……っと、ごめんなさ……っ」
だけど、俺の顔を見るなり、美姫はそこで固まってしまったのだ。
「え? ……あ、悪い」
思わず間一髪で美姫を支えたことで、まるで美姫をお姫さま抱っこするかのような格好になっている。
一瞬怖がらせてしまったのかとも思ったが、その割りに美姫は震えていなかった。
「……え、や、……。ううん、何でもない……ありがとう」
何とか美姫をその場に立たせてあげるも、美姫はどこか困惑したような表情を浮かべたまま。
何にせよ、他に好きな奴がいるなら、今のに戸惑ってしまっても不思議じゃないか……。
美姫が怪我をするのを防げたのはよかったけど、何となく後ろめたい気持ちになってしまった。
「じゃ、じゃあ、これテーブルに運んどくな」
「う、うん、ありがとう」
その場から逃げるように、俺は先程盛り付けた二人分の素麺をダイニングテーブルに置きに行った。
その間、美姫のスマホが着信を告げた。
「まぁ、そうだけどさ……」
その通りなんだけど、一度そうかもしれないと思ったらなかなか前向きに考えることなんてできなくて。
残りの修学旅行中、ずっと頭の片隅で美姫の好きな奴についてああだこうだと一人考えていた気がする。
修学旅行が終わり、夏休みに突入する。
俺と美姫の3ヶ月の同居生活も残すところあと数週間、といったところになった。
だけど……。
「おはよう」
「あ、おはよ……」
偶然部屋から出たところで顔を合わせた美姫は、俺からあからさまに顔をそらして台所の方へ消えていく。
修学旅行から帰ってから、どことなくよそよそしいところがある美姫。
俺、何かしたかな……?
変わらずごはんは作ってくれるし、一緒に食べて片付けもしているし、男性恐怖症克服の特訓も続いてる。
だからきっと、嫌われてしまったというわけではないのだろう。
美姫の好きな奴がいるって話は結局その真偽さえわからないままだし、胸がモヤモヤしっぱなしだ。
でも、もし本当に美姫に好きな奴がいるのだとしたら、俺がここに住んでるのってかなり美姫にとって迷惑だよな。
それに男性恐怖症を克服するって名目の特訓も、好きな奴ができたなら、そいつにしてもらった方がずっといいだろうし……。
そこまで考えて、自然とため息が漏れる。
まだ、そうとは限らない。
とはいえ、真実を確認できるほどの勇気が俺にないのも確かだった。
そんな7月下旬のことだ。
この日は俺も美姫も出かけることなく、のんびり掃除をしたり片付けをしたり、俺も美姫の指示のもと家事を手伝っていた。
お昼は暑いし素麺にしようということで、俺は美姫が茹でてくれた素麺を冷やして器に盛っていた。
ちょうど二人分にわけて、美姫の方へと顔を向けたとき。
踏み台に乗って、シンクの上の部分についた棚に手を伸ばしていた美姫が、大きくバランスを崩すのが見えた。
「ひゃ……っ」
おいおい、大丈夫かよ……っ!
「……おっと、危ない」
慌ててその場に駆け寄って、何とか後ろに大きく傾いた美姫の身体を支えることに成功した俺。
その美姫の手には、未開封の素麺のつゆが握られている。
「無理しなくても、言ってくれたら取ったのに」
きっと俺が違うことをしてたから、美姫は俺に遠慮したんだろうけど。
「あ、……っと、ごめんなさ……っ」
だけど、俺の顔を見るなり、美姫はそこで固まってしまったのだ。
「え? ……あ、悪い」
思わず間一髪で美姫を支えたことで、まるで美姫をお姫さま抱っこするかのような格好になっている。
一瞬怖がらせてしまったのかとも思ったが、その割りに美姫は震えていなかった。
「……え、や、……。ううん、何でもない……ありがとう」
何とか美姫をその場に立たせてあげるも、美姫はどこか困惑したような表情を浮かべたまま。
何にせよ、他に好きな奴がいるなら、今のに戸惑ってしまっても不思議じゃないか……。
美姫が怪我をするのを防げたのはよかったけど、何となく後ろめたい気持ちになってしまった。
「じゃ、じゃあ、これテーブルに運んどくな」
「う、うん、ありがとう」
その場から逃げるように、俺は先程盛り付けた二人分の素麺をダイニングテーブルに置きに行った。
その間、美姫のスマホが着信を告げた。
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