俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

文字の大きさ
上 下
54 / 79
第4章

◆素直になって-広夢Side-(1)

しおりを挟む
 美姫から彼女の過去の話を聞いたのは、俺が美姫のことを思い出した直後のことだった。


 美姫のその当時の記憶から、俺のことはすっかり抜け落ちてしまってるみたいだったけれど……。


 だけど美姫の話を聞いて、美姫はあのときの女の子に間違いないんだと確信した。



 ──つまり俺は過去、一度美姫に会っていたんだ。



 何で今まで気づかなかったんだろう?

 こんなに彼女のそばにいたというのに。


 あの頃はまだ小学生だったし、仕方ないところもあるのだろうけれど。



 男性恐怖症を克服するだなんて、随分無茶させちゃったんだろうな……。

 美姫はそのことに関しては自分が決めたことだからと言ってたけどさ。


 まあそのおかげで美姫との距離を縮めることができたと言ってもいいくらいなんだから、俺にとってはある意味結果オーライだったのかもしれないけれど。


 でもこれ、下手すれば余計に男に対するトラウマを植え付けただけだったよなとも思わなくもない。


 そんなことを考えてしまって、美姫に何かを言われたわけではないけれど、配慮のない自分に少し落ち込んでいたのは事実。



 しかも美姫のことを特別だと思ってる、だなんて、どう聞いても告白染みたことを言ってしまったし……。



「はぁぁ~」


 次の日になっても、あの美姫との会話を思い出す度にいろんな意味でため息が出る。


 しかもその俺の告白染みた言葉に対しては、嘘だと思われてるかもしれないっていう……。


 ちゃんと“好きだ”ってはっきり伝えられなかった俺も悪いんだろうけどさ。



「またため息かよ。今朝から5回目。昨日のバーベキューのときからは20回目」

「お前、いちいち数えんなよな~」

「そりゃ数えたくもなるだろ。昨日の自由行動で海で泳いでたときのテンションと、まるで違うじゃないか」


 その通りなことを言われて、言い返す言葉もない。

 そもそも、言い返す気力すら今の俺にはないのだけれど。


 目の前の水槽の中には、沖縄のサンゴ礁を再現したという空間が広がっている。


 3日目の今日は、俺たちは沖縄の水族館に来ていたんだ。


「ってか、昨日の自由行動でお前が突然抜けたあとからおかしいよな。どうせヒメと密会してたんだろ? 何があった?」

「密会って、お前なぁ。そんなつもりで俺は……っ」


 思わず口を開きかけて、ハッとする。


 そうだ。美姫がナンパ野郎に絡まれたことは、俺と学年主任と担任以外には知られてないんだ。


 それなのに俺がここで口を滑らすわけにもいかないので、不本意ながらに密会ということにしておいた。



「……美姫に、俺の中で美姫が特別だって伝えた」


「は? マジで? 急にどうした」


「どうしたもこうしたも、そういう雰囲気になったんだよ」


 さすがに美姫との会話を勝手に暴露してしまうわけにはいかないので、そこに関してははぐらかす。


 だけど、結人はそこには触れることなく、


「で、ヒメはなんて?」


 淡々とそう聞いてくる。



「信じてもらえなかったよ。嘘だって言われて。他の女子と仲良くしてるからどうとか言ってさ」


「まぁ、お前見た目チャラいもんな」


 おいっ!

 親友なら少しはフォローしろよ!


 あのとき、嫉妬してるのか聞いたら、全否定してたとはいえ顔を真っ赤にしていた美姫。


 おいてけぼりを喰らった俺はその場は呆気に取られたとはいえ、あんな表情を見せられて全く期待してないといえば嘘になる。


 でも……。相手はあの“ヒメ”だ。


 もし、俺の気持ちに気づいてる上で、美姫の本心からの言葉だとしたら……。


 俺、この修学旅行から帰ったら、どうやって過ごせばいいんだよ……。



「広夢、さっきからネチネチうざい」


「わっ、何だよいきなり。しかもネチネチって何?」


 いろいろ頭の中でぐじゃぐじゃ考えていると、隣から結人にキレられて思わず身をそらす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【短編集2】恋のかけらたち

美和優希
恋愛
魔法のiらんどの企画で書いた恋愛小説の短編集です。 甘々から切ない恋まで いろんなテーマで書いています。 【収録作品】 1.百年後の未来に、きみと(2020.04.24) →誕生日に、彼女からどこにでも行ける魔法のチケットをもらって──!? 魔法のiらんど企画「#つながる魔法で続きをつくろう」 で書いたSSです。 2.優しい鈴の音と鼓動(2020.11.08) →幼なじみの凪くんは最近機嫌が悪そうで意地悪で冷たい。嫌われてしまったのかと思っていたけれど──。 3.歌声の魔法(2020.11.15) →地味で冴えない女子の静江は、いつも麗奈をはじめとしたクラスメイトにいいように使われていた。そんなある日、イケメンで不真面目な男子として知られる城野に静江の歌と麗奈への愚痴を聞かれてしまい、麗奈をギャフンと言わせる作戦に参加させられることになって──!? 4.もしも突然、地球最後の日が訪れたとしたら……。(2020.11.23) →“もしも”なんて来てほしくないけれど、地球消滅の危機に直面した二人が最後に見せたものは──。 5.不器用なサプライズ(2021.01.08) →今日は彼女と付き合い始めて一周年の記念日。それなのに肝心のサプライズの切り出し方に失敗してしまって……。 *()内は初回公開・完結日です。 *いずれも「魔法のiらんど」で公開していた作品になります。サービス終了に伴い、ページ分けは当時のままの状態で公開しています。 *現在は全てアルファポリスのみの公開です。 アルファポリスでの公開日*2025.02.11 表紙画像は、イラストAC(がらくった様)の画像に文字入れをして使わせていただいてます。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

キケンな放課後☆生徒会室のお姫様!?

美和優希
恋愛
入学早々、葉山優芽は校内で迷子になったところを個性豊かなイケメン揃いの生徒会メンバーに助けてもらう。 一度きりのハプニングと思いきや、ひょんなことから紅一点として生徒会メンバーの一員になることになって──!? ☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆ 初回公開*2013.12.27~2014.03.08(他サイト) アルファポリスでの公開日*2019.11.23 *表紙イラストは、イラストAC(小平帆乃佳様)のイラスト素材に背景+文字入れをして使わせていただいてます。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...