俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

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第4章

◇とくべつな存在-美姫Side-(6)

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 このバーベキューの段取りも、修学旅行実行委員の仕事のひとつ。

 バーベキューなんて事前に練習できないから、ほぼぶっつけ本番なんだけどね。


 広夢くんはバーベキューセットの準備を担当して、私や持田くんはバーベキューの運営の手伝いを担当している。


 この担当決めは完全にアミダくじで決まったから、私が持田くんと一緒になったのは本当の偶然。


 このあとみんなの前に出す予定のデザート用のテーブルを、旅館の食堂に取りに行く。



「そういえば、今日の海での自由行動、大丈夫だった?」


 突然、なんの突拍子もなく持田くんに聞かれてビクリとする。



 広夢くんに助けられて大事に至らずに済んだとはいえ、頭の中に浮かぶのは、あの男性二人に絡まれたこと。


 とはいえ、まさか持田くんがあのときのことを知ってるわけではないんだよね?


 一応先生には報告したけれど、生徒であのことを知ってるのは、広夢くんと明日香だけのはずだから。



「ああ、篠原さんのクラスの女子が騒いでるところに遭遇したんだ。篠原さんが更衣室に戻ったっきり帰ってこないって聞いて……」


 私が訝しげに思っているのが顔に出ていたのか、持田くんは私の表情を見て付け加える。



「大丈夫。ちょっと具合が悪くなって休んでたけど、もうすっかり元気になったから」


 完全なる嘘っぱちだけど、とりあえず私は表向きではそういうことにしている。



「それならいいんだけど。まだ修学旅行も中日だし、気をつけてね」

「そうだね。ありがとう」


 純粋に私の体調を心配してくれる持田くんに、少し申し訳ない気持ちになる。


 食堂に着くと、机の足に滑車のついたテーブルにフルーツや小さなケーキがたくさん乗せられたものが用意されていた。


 食堂のスタッフの方に声をかけて、私たちはそのデザートの乗ったテーブルを動かす。



「……あ、ごめんね」


 移動中、角を曲がるときにちょっとしたことから私と持田くんの身体が少し触れた。


「う、ううん」


 内心ビクリとするも、持田くんが故意にぶつかってきたわけじゃないとわかっているからか、思いの外冷静に構えられている。


 海でのことがあったから、またトラウマみたいになってしまってたらどうしようと思っていたけれど、そうでもなくてよかった。



「好きだよ、篠原さん」


 だけどそのとき、唐突に持田くんの口からそんな言葉が紡がれる。


 思わず顔を上げると、私の瞳をじっと見つめる持田くんと目が合った。



「何驚いてるの。僕言ったよね? あきらめないって」

「え。えと。……あの」


 そう言って、テーブルに置かれた私の手に、手を重ねてくる持田くん。


 さすがに肩をビクリとさせてしまう。



「僕のことは、やっぱり怖い?」


 それと同時に聞こえたのは、そんな寂しそうな声。



「そ、そんなこと……っ」



 怖くない、けど、怖い、ような気がする。

 だけどその怖さも、以前と比べるとかなりマシだ。


 そのことから考えても、男性恐怖症自体はだいぶ克服してきてるんだろう。


 海で男性二人に絡まれたときは、あれは怖くて当然だと広夢くんが言ってくれてたし……。


 そんなことを思う一方で少しずつ迫ってくる持田くんに内心ビクビクしていると、持田くんは苦笑いを浮かべながら私から手を離していく。


「やっぱりちょっと怖そうだね。ごめんごめん。僕なりに篠原さんの男性恐怖症に配慮しながら攻めていこうとしてたつもりだけど、全然なびいてくれないからちょっと意地悪しちゃった」

「え、っと。ごめん、ね……」

「……篠原さんはさ、やっぱり好きな人って、いたことないの?」

「好きな、人……?」


 男性が苦手だった私は恋愛自体が無縁で、持田くんの言う通り、好きな人自体いたことがなかった。


 だから、イマイチその好き、っていうのがよくわからない。



「……ひとつ聞いてもいい? 好きってどんな気持ち?」


 こんな基本的なことを聞くなんて、持田くんに笑われてしまうかもしれない。



「まさかそう来るとは思わなかったよ。そうだな。……一緒にいるとドキドキして楽しくて、だけど他の人と一緒にいるのを見ると、イライラしたり不安になったりして、自分のものにしたくなったりするかな」

「そう、なんだ……」


「人によっても感じ方は違うと思うけど、僕にとって篠原さんは特別な女の子だよ」



 とくべつ……。


 じわりとあたたかい響きが胸の奥底に響く。


 こんなことを言ってしまっては持田くんに怒られるかもしれないけれど、好きってどんな気持ちを言うのか聞かされて私の頭の中に浮かんだのは、やっぱり広夢くんの姿だった。



「持田くんごめんね。……私、好きな人が、います」
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