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第4章
◇とくべつな存在-美姫Side-(5)
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*
「で、逃げて帰ってきたの?」
その日の夕食は、私たちは旅館のバーベキューコーナーでバーベキューを楽しんでいた。
昼間の自由行動のとき、私が男の人に絡まれた話を聞いて、明日香は私と一緒に行動しなかったことに罪悪感を感じてるみたいだった。
だけど広夢くんに助けてもらったんだと話した瞬間、少しホッとした表情を浮かべた反面、そのあとの話を聞いた明日香は、串に刺さったお肉を食べながら爆笑していた。
「だ、だって……っ」
あのときの私は、広夢くんが怖かったわけでもないのに、心臓がドキドキ騒ぎ立てて、顔中が熱くなって、とにかく恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなくなってしまったんだ。
前も広夢くんと一緒にいたとき、似たようなことがあったな……。
だけど、そのときとはまるで比べ物にならない。
「認めちゃいなよ。広夢くんのことが好きなんでしょ?」
ドキン! と一層強く跳ねた胸を、思わずぎゅっとつかむ。
まだ好きだと認めたわけでもないのに、顔中に熱が一気に集まってくる。
「美姫、すっごいピュア! 今まで美姫は男子と関わるのを極力避けて生きてきたから、仕方ないか」
「か、からかわないでよね。もうっ!」
「でも、いいと思うよ、広夢くん」
「明日香は前も広夢くんのこと、そんな風に言ってたよね」
確か以前も明日香は広夢くんのことを、いいなって言ってた記憶がある。
「や、確かに言ったけど、そうじゃなくて。美姫の相手にってこと。美姫ってさ、私以外に自分の過去を打ち明けたのって広夢くんが初めてじゃない?」
それは、明日香の言う通りだった。
あの誘拐事件があったあと、おばあちゃんと一緒に暮らすことになったのもあり、中学に入るタイミングで今の実家があるところに引っ越した私。
犯人は捕まったとはいえ、一度事件になると周りからの目は痛くて私もお母さんも居心地が悪かったことから、引っ越し先ではその誘拐事件に私が関わっていたことを一切伏せて生きてきた。
ただ一人。引っ越し先で一番に仲良くなって、中学高校と一緒に上がってきた明日香を除いては……。
その明日香でさえ、話したのは高校に入学してからだったのだから。
私が男子が苦手だということが明日香にバレて、その理由を問いただされたんだよね。
あのとき私が過去を話す気になったのも、他でもない明日香が相手だったからだ。
「それってつまり美姫が認めようとしてないだけで、美姫の中で広夢くんが特別だってことだと思うよ」
広夢くんが、とくべつ……?
広夢くんに聞かれたときは思わず全否定しちゃったけど、本当は──。
「それに美姫の話を聞いてても、美姫にとって広夢くんは信頼できて安心できる男子って私は捉えたけどな~」
違う? と小首をかしげて問いかけてくる明日香に、反論する言葉が見つからない。
私にとって、広夢くんは特別なの……?
私は、広夢くんのことが──。
無意識に美味しそうにタレのついたお肉を頬張る広夢くんの姿を視界に入れていることに気づいて、さらに恥ずかしくなる。
それでも江畑くんと一緒にバーベキューを食べている広夢くんを見続けていると、そこに丸山さんを先頭にクラスの女子が広夢くんと江畑くんを囲むように集まってきたのだ。
私みたいにビクビクすることもなく、堂々と広夢くんや江畑くんと話す丸山さんを見ていると、何だか急にやるせない気持ちになる。
「美姫? 美姫!」
「あ、ごめんね。何?」
「何って。今、広夢くんの方見て何考えてた?」
「……え? や、別に」
「いいのよ、強がらなくて。それが美姫の気持ちなんだから。その気持ちとちゃんと向き合ってあげて」
これが、私の気持ち……?
「篠原さん」
だけど自分の心に問いかけようとしたところで、その思考は他の声により遮られた。
「……あ、持田くん」
それと同時に、私の隣で「このタイミングで出てくる相手が違う!」と明日香が小声で叫ぶ声が聞こえたけれど、幸いにも、持田くんにその言葉は聞こえなかったみたい。
「このあとデザートに入るんだけど、その準備に一緒に来てもらってもいいかな」
「あ、うん」
明日香にごめんねと小さく手を合わせて、私は持田くんのあとに続いた。
「で、逃げて帰ってきたの?」
その日の夕食は、私たちは旅館のバーベキューコーナーでバーベキューを楽しんでいた。
昼間の自由行動のとき、私が男の人に絡まれた話を聞いて、明日香は私と一緒に行動しなかったことに罪悪感を感じてるみたいだった。
だけど広夢くんに助けてもらったんだと話した瞬間、少しホッとした表情を浮かべた反面、そのあとの話を聞いた明日香は、串に刺さったお肉を食べながら爆笑していた。
「だ、だって……っ」
あのときの私は、広夢くんが怖かったわけでもないのに、心臓がドキドキ騒ぎ立てて、顔中が熱くなって、とにかく恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなくなってしまったんだ。
前も広夢くんと一緒にいたとき、似たようなことがあったな……。
だけど、そのときとはまるで比べ物にならない。
「認めちゃいなよ。広夢くんのことが好きなんでしょ?」
ドキン! と一層強く跳ねた胸を、思わずぎゅっとつかむ。
まだ好きだと認めたわけでもないのに、顔中に熱が一気に集まってくる。
「美姫、すっごいピュア! 今まで美姫は男子と関わるのを極力避けて生きてきたから、仕方ないか」
「か、からかわないでよね。もうっ!」
「でも、いいと思うよ、広夢くん」
「明日香は前も広夢くんのこと、そんな風に言ってたよね」
確か以前も明日香は広夢くんのことを、いいなって言ってた記憶がある。
「や、確かに言ったけど、そうじゃなくて。美姫の相手にってこと。美姫ってさ、私以外に自分の過去を打ち明けたのって広夢くんが初めてじゃない?」
それは、明日香の言う通りだった。
あの誘拐事件があったあと、おばあちゃんと一緒に暮らすことになったのもあり、中学に入るタイミングで今の実家があるところに引っ越した私。
犯人は捕まったとはいえ、一度事件になると周りからの目は痛くて私もお母さんも居心地が悪かったことから、引っ越し先ではその誘拐事件に私が関わっていたことを一切伏せて生きてきた。
ただ一人。引っ越し先で一番に仲良くなって、中学高校と一緒に上がってきた明日香を除いては……。
その明日香でさえ、話したのは高校に入学してからだったのだから。
私が男子が苦手だということが明日香にバレて、その理由を問いただされたんだよね。
あのとき私が過去を話す気になったのも、他でもない明日香が相手だったからだ。
「それってつまり美姫が認めようとしてないだけで、美姫の中で広夢くんが特別だってことだと思うよ」
広夢くんが、とくべつ……?
広夢くんに聞かれたときは思わず全否定しちゃったけど、本当は──。
「それに美姫の話を聞いてても、美姫にとって広夢くんは信頼できて安心できる男子って私は捉えたけどな~」
違う? と小首をかしげて問いかけてくる明日香に、反論する言葉が見つからない。
私にとって、広夢くんは特別なの……?
私は、広夢くんのことが──。
無意識に美味しそうにタレのついたお肉を頬張る広夢くんの姿を視界に入れていることに気づいて、さらに恥ずかしくなる。
それでも江畑くんと一緒にバーベキューを食べている広夢くんを見続けていると、そこに丸山さんを先頭にクラスの女子が広夢くんと江畑くんを囲むように集まってきたのだ。
私みたいにビクビクすることもなく、堂々と広夢くんや江畑くんと話す丸山さんを見ていると、何だか急にやるせない気持ちになる。
「美姫? 美姫!」
「あ、ごめんね。何?」
「何って。今、広夢くんの方見て何考えてた?」
「……え? や、別に」
「いいのよ、強がらなくて。それが美姫の気持ちなんだから。その気持ちとちゃんと向き合ってあげて」
これが、私の気持ち……?
「篠原さん」
だけど自分の心に問いかけようとしたところで、その思考は他の声により遮られた。
「……あ、持田くん」
それと同時に、私の隣で「このタイミングで出てくる相手が違う!」と明日香が小声で叫ぶ声が聞こえたけれど、幸いにも、持田くんにその言葉は聞こえなかったみたい。
「このあとデザートに入るんだけど、その準備に一緒に来てもらってもいいかな」
「あ、うん」
明日香にごめんねと小さく手を合わせて、私は持田くんのあとに続いた。
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