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第4章
◇とくべつな存在-美姫Side-(3)
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「無理しなくていいよ」
「ほ、本当だもん……っ」
「だああっ! もう、マジでそう言うのやめろ!」
突然顔を真っ赤にして怒り出した広夢くん。
今の、怒る要素あった?
むしろ、私の方が信じてもらえなくて、怒りたいくらいなのに……っ!
「これで、信じてくれる?」
私は、広夢くんの小指を握っていた手を離すと、今度は広夢くんの手に自分の手を重ねて握った。
繋がれた手のひらを広夢くんに見せると、
「やっぱり美姫って天然……?」
とボソッと返される。
「いや、違うと思う」
今まで天然だなんて、言われたことないし……。
「や、天然だろ」
だけど、即座に広夢くんにそう突っ込まれた。
そんなに私を天然にしたいのかな……?
「じゃあ……」
「あ……っ」
「こうされても平気か?」
次の瞬間には、広夢くんと繋いでいた手は、指と指まで綺麗に絡められていて……。
──怖くはない。怖くはないのに、ドキドキして苦しくなる。
何、これ……。
「って、ごめん。調子乗った」
そこでパッと離れてしまう広夢くんの手。
それと同時に、ポカポカと温かかった心が一気に冷え込むようだった。
「え……」
「え?」
よっぽど私が変な顔をしていたのか、目を丸くする広夢くん。
「や。これは、その……っ」
だけど、そこで再びパッと広夢くんの手が私の目の前に差し出される。
「いいよ」
「……え?」
「俺の勘違いだったら滅茶苦茶恥ずいけど、もし安心できるなら繋いでて……」
広夢くんは、気づいてくれたんだ。
私の心の声に。
「……ありがとう」
広夢くんの手に、そっと手を重ねる。
そんな広夢くんだから、きっと話したくなったんだと思う。
「あのね。よかったら、聞いてもらえるかな……」
以前も広夢くんが気にしてくれたことのあった、私が男の人が苦手になった経緯を……。
あれは、私が小学6年生の夏のことだった。
雨上がりの下校時、私は大学生だと思われるお兄さんに声をかけられたんだ。
『この近くに郵便局ってある?』
小学校からわりと近い位置に私立の大学があり、大学生がこの近辺にいることは、普通のことだった。
『ありますよ。少し歩きますけど』
その頃の私は疑うということを知らなくて、素直にそうこたえていた。
郵便局は隣の小学校区との境目にあって、私の家のある方向にあったことから、私は自然とそのお兄さんと同じ方向に向かって歩くことになった。
『今、何年生?』
『6年生です』
『へぇ。そのわりに、しっかりした身体つきしてるね。可愛いし、結構モテるんじゃない?』
『そんなことないですよ』
道案内は最初にしたのに、同じ方向だということからずっと話しかけられていたのは覚えてる。
『あ。私、この角曲がるので。郵便局はこの通りをまっすぐ行ったところなので、迷わず行けると思います』
だけど、お兄さんは郵便局に用があったわけではなかったんだ。
『え? 本当? じゃあ、俺もそっち行こうかな?』
はじめは意味がわからなかった。
子どもながらに家までついてこられたら気持ち悪いと思って、家の前はあえて通らないように、家から遠ざかるようにルートを変えて歩いた。
『あ、俺の友達も呼んでいい?』
『この辺りって校区違うくない? 本当に家、こっちなの? 俺、小学校、美姫ちゃんの隣の学区に通ってたからわかるよ?』
その辺りの会話から、だんだんと身の危険を感じ始めた。
第一、私は名乗ってないのに、何で私の名前、知ってるの。
『よ、用事を思い出して……』
だけどあとから思えば、家を突き止められても、私は家に逃げ帰るべきだったのかもしれない。
『何の用事? そういえば、俺の友人がそこまで迎えに来てるんだ。よかったら乗っていきなよ』
ビクッと背筋に悪寒が走る。
逃げなきゃ。逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ。
怖い。怖い怖い怖い怖い。
「ほ、本当だもん……っ」
「だああっ! もう、マジでそう言うのやめろ!」
突然顔を真っ赤にして怒り出した広夢くん。
今の、怒る要素あった?
むしろ、私の方が信じてもらえなくて、怒りたいくらいなのに……っ!
「これで、信じてくれる?」
私は、広夢くんの小指を握っていた手を離すと、今度は広夢くんの手に自分の手を重ねて握った。
繋がれた手のひらを広夢くんに見せると、
「やっぱり美姫って天然……?」
とボソッと返される。
「いや、違うと思う」
今まで天然だなんて、言われたことないし……。
「や、天然だろ」
だけど、即座に広夢くんにそう突っ込まれた。
そんなに私を天然にしたいのかな……?
「じゃあ……」
「あ……っ」
「こうされても平気か?」
次の瞬間には、広夢くんと繋いでいた手は、指と指まで綺麗に絡められていて……。
──怖くはない。怖くはないのに、ドキドキして苦しくなる。
何、これ……。
「って、ごめん。調子乗った」
そこでパッと離れてしまう広夢くんの手。
それと同時に、ポカポカと温かかった心が一気に冷え込むようだった。
「え……」
「え?」
よっぽど私が変な顔をしていたのか、目を丸くする広夢くん。
「や。これは、その……っ」
だけど、そこで再びパッと広夢くんの手が私の目の前に差し出される。
「いいよ」
「……え?」
「俺の勘違いだったら滅茶苦茶恥ずいけど、もし安心できるなら繋いでて……」
広夢くんは、気づいてくれたんだ。
私の心の声に。
「……ありがとう」
広夢くんの手に、そっと手を重ねる。
そんな広夢くんだから、きっと話したくなったんだと思う。
「あのね。よかったら、聞いてもらえるかな……」
以前も広夢くんが気にしてくれたことのあった、私が男の人が苦手になった経緯を……。
あれは、私が小学6年生の夏のことだった。
雨上がりの下校時、私は大学生だと思われるお兄さんに声をかけられたんだ。
『この近くに郵便局ってある?』
小学校からわりと近い位置に私立の大学があり、大学生がこの近辺にいることは、普通のことだった。
『ありますよ。少し歩きますけど』
その頃の私は疑うということを知らなくて、素直にそうこたえていた。
郵便局は隣の小学校区との境目にあって、私の家のある方向にあったことから、私は自然とそのお兄さんと同じ方向に向かって歩くことになった。
『今、何年生?』
『6年生です』
『へぇ。そのわりに、しっかりした身体つきしてるね。可愛いし、結構モテるんじゃない?』
『そんなことないですよ』
道案内は最初にしたのに、同じ方向だということからずっと話しかけられていたのは覚えてる。
『あ。私、この角曲がるので。郵便局はこの通りをまっすぐ行ったところなので、迷わず行けると思います』
だけど、お兄さんは郵便局に用があったわけではなかったんだ。
『え? 本当? じゃあ、俺もそっち行こうかな?』
はじめは意味がわからなかった。
子どもながらに家までついてこられたら気持ち悪いと思って、家の前はあえて通らないように、家から遠ざかるようにルートを変えて歩いた。
『あ、俺の友達も呼んでいい?』
『この辺りって校区違うくない? 本当に家、こっちなの? 俺、小学校、美姫ちゃんの隣の学区に通ってたからわかるよ?』
その辺りの会話から、だんだんと身の危険を感じ始めた。
第一、私は名乗ってないのに、何で私の名前、知ってるの。
『よ、用事を思い出して……』
だけどあとから思えば、家を突き止められても、私は家に逃げ帰るべきだったのかもしれない。
『何の用事? そういえば、俺の友人がそこまで迎えに来てるんだ。よかったら乗っていきなよ』
ビクッと背筋に悪寒が走る。
逃げなきゃ。逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ。
怖い。怖い怖い怖い怖い。
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