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第4章
◇とくべつな存在-美姫Side-(2)
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怖い怖い怖い怖い……。
それだけで、動悸が激しくなって、呼吸も苦しくなる。
こんなの、まるであの日の記憶を繰り返してるみたい……。
「嬢ちゃんはあそこに群がってた修学旅行生か? 奇遇だな、俺らも観光客なんだ」
「心配しなくても、集合時間までには終わらせるから」
ガハハと笑う二人の声が、この世の終わりの音に聞こえる。
何でこんなときに限って、声も出ないし、身体も思うように動かないの……っ。
精一杯の力を出せたところで、さすがに男の人二人の力には敵わないとは思うけれど。
視界が何度も涙で滲むけれど、泣いたら終わりだと思って、唇を噛み締める。
連れてこられたのは、海岸に来るときに道端から見えていた、古い建物の裏だった。
「……っ」
どんと背中を押されて、思わずその場にバランスを崩してこけた。
「あ~あ、転けちゃった。でもその水着、いいね。タオル取ってお兄さんたちに見せてよ」
その声にゾクッとして、羽織っていたタオルを胸の前できつく持ち直す。
「ほら、立って」
その瞬間、男の人の手が私の腕をつかんで、無理やり立たせてくる。
「や。離して……っ」
「嬢ちゃん、そんなに怯えなくていいだろ? まだ何もしてないってのに」
「さっきの場所だと、学生が溢れてるから静かなところに連れてきただけじゃん」
さっきよりも息の荒い、まるで獣のような二人の男性がこちらに近づいてくる。
いやだ、怖いよ……っ。
その場に縮こまって震えることしかできない自分にも、嫌気がさす。
「ねぇ、ちょっとお兄さんたちの相手してよ。キミみたいな可愛い子、すごくタイプなんだ」
そのときだった!
「先生っ! こっちです! うちの生徒が痴漢の被害に遭ってます」
広夢くんが、助けてくれたんだ──。
*
私を助けてくれた広夢くんに連れられて、私たちは更衣室の近くにある休憩室のようなところに移動した。
ログハウス風の造りで、自由に人が出入りできるようになっているようだった。
誰もいない、それほど広くない室内。
木で作られたベンチに私を座らせると、広夢くんも適度な距離を保って私の隣に腰を下ろす。
「……ありがとう。助けてくれて」
「や。俺も、もう少し早く駆けつけられてたら、ここまで美姫に怖い思いをさせずに済んだのに……」
申し訳なさそうな、やるせないような表情の広夢くん。
広夢くんは、何も悪くないのに……。
「ううん。むしろごめんね、巻き込んじゃって。広夢くんにも、嫌な思いさせちゃった」
「そんなのいいから!」
少し怒鳴るような雰囲気の広夢くんの声に、思わず小さくビクリとする。
怒らせちゃったかな……?
「そんなのいいから。むしろ巻き込んで。俺でよければ、もっと俺のこと頼ってほしい」
だけど、次に届いたのは優しくそう言う広夢くんの声。
広夢くんの方を見ると、捉えて離さないかのようにじっと私を見つめる広夢くんの瞳と目が合った。
「……まぁ、俺のことも怖いなら、無理しなくていいけど」
「そんなことない……っ」
私の手は変わらず、ここに来る前に広夢くんから差し出された彼の小指を握ったまま。
今日だって、最初は触れるのも恐る恐るだったくせに、いつの間にか不思議なくらい怖くなくなっていた。
むしろ、今はこの手を離される方が不安で堪らない……。
「こ、こわく、ないよ。広夢くん、のこと……」
そう伝えるも、何となく恥ずかしくなって、広夢くんから顔をそらしてしまう。
何でだろう?
広夢くんも男の人にかわりないのに、広夢くんのそばはあったかくて、安心できるんだ。
以前、間違って広夢くんのお風呂上がり姿を見てしまったときは、男の人を感じさせる姿に恐怖心さえうまれたというのに。
あのときとは大差ない水着姿という格好でも、今日はそれによる恐怖心もうまれていなかった。
あの男の人たちのことは、怖くて怖くて堪らなかったのに……。
それだけで、動悸が激しくなって、呼吸も苦しくなる。
こんなの、まるであの日の記憶を繰り返してるみたい……。
「嬢ちゃんはあそこに群がってた修学旅行生か? 奇遇だな、俺らも観光客なんだ」
「心配しなくても、集合時間までには終わらせるから」
ガハハと笑う二人の声が、この世の終わりの音に聞こえる。
何でこんなときに限って、声も出ないし、身体も思うように動かないの……っ。
精一杯の力を出せたところで、さすがに男の人二人の力には敵わないとは思うけれど。
視界が何度も涙で滲むけれど、泣いたら終わりだと思って、唇を噛み締める。
連れてこられたのは、海岸に来るときに道端から見えていた、古い建物の裏だった。
「……っ」
どんと背中を押されて、思わずその場にバランスを崩してこけた。
「あ~あ、転けちゃった。でもその水着、いいね。タオル取ってお兄さんたちに見せてよ」
その声にゾクッとして、羽織っていたタオルを胸の前できつく持ち直す。
「ほら、立って」
その瞬間、男の人の手が私の腕をつかんで、無理やり立たせてくる。
「や。離して……っ」
「嬢ちゃん、そんなに怯えなくていいだろ? まだ何もしてないってのに」
「さっきの場所だと、学生が溢れてるから静かなところに連れてきただけじゃん」
さっきよりも息の荒い、まるで獣のような二人の男性がこちらに近づいてくる。
いやだ、怖いよ……っ。
その場に縮こまって震えることしかできない自分にも、嫌気がさす。
「ねぇ、ちょっとお兄さんたちの相手してよ。キミみたいな可愛い子、すごくタイプなんだ」
そのときだった!
「先生っ! こっちです! うちの生徒が痴漢の被害に遭ってます」
広夢くんが、助けてくれたんだ──。
*
私を助けてくれた広夢くんに連れられて、私たちは更衣室の近くにある休憩室のようなところに移動した。
ログハウス風の造りで、自由に人が出入りできるようになっているようだった。
誰もいない、それほど広くない室内。
木で作られたベンチに私を座らせると、広夢くんも適度な距離を保って私の隣に腰を下ろす。
「……ありがとう。助けてくれて」
「や。俺も、もう少し早く駆けつけられてたら、ここまで美姫に怖い思いをさせずに済んだのに……」
申し訳なさそうな、やるせないような表情の広夢くん。
広夢くんは、何も悪くないのに……。
「ううん。むしろごめんね、巻き込んじゃって。広夢くんにも、嫌な思いさせちゃった」
「そんなのいいから!」
少し怒鳴るような雰囲気の広夢くんの声に、思わず小さくビクリとする。
怒らせちゃったかな……?
「そんなのいいから。むしろ巻き込んで。俺でよければ、もっと俺のこと頼ってほしい」
だけど、次に届いたのは優しくそう言う広夢くんの声。
広夢くんの方を見ると、捉えて離さないかのようにじっと私を見つめる広夢くんの瞳と目が合った。
「……まぁ、俺のことも怖いなら、無理しなくていいけど」
「そんなことない……っ」
私の手は変わらず、ここに来る前に広夢くんから差し出された彼の小指を握ったまま。
今日だって、最初は触れるのも恐る恐るだったくせに、いつの間にか不思議なくらい怖くなくなっていた。
むしろ、今はこの手を離される方が不安で堪らない……。
「こ、こわく、ないよ。広夢くん、のこと……」
そう伝えるも、何となく恥ずかしくなって、広夢くんから顔をそらしてしまう。
何でだろう?
広夢くんも男の人にかわりないのに、広夢くんのそばはあったかくて、安心できるんだ。
以前、間違って広夢くんのお風呂上がり姿を見てしまったときは、男の人を感じさせる姿に恐怖心さえうまれたというのに。
あのときとは大差ない水着姿という格好でも、今日はそれによる恐怖心もうまれていなかった。
あの男の人たちのことは、怖くて怖くて堪らなかったのに……。
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