俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

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第4章

◇とくべつな存在-美姫Side-(1)

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 沖縄旅行2日目。

 午後の自由時間では、私は明日香を含む同じクラスの子たちと沖縄の海岸でビーチバレーを楽しんでいた。


 空高く舞うボールをパシンと跳ね返すと、相手側のコートに綺麗に落ちた。

 それと同時に、ピーと審判役の子が試合終了の笛を吹く。


「さすがヒメ! やっぱりヒメが居てくれると百人力だよね!」

「そんなことないよ。みんなが上手にパスを繋いでくれたから」


 クラスの女子を半分に分けて行っていたビーチバレーは、突然の思いつきで始めたのもあり、真ん中のネットすらなかった。

 だけど、そのわりに盛り上がったように思う。



「じゃあ、次は海入ろ~」


 リーダー格の体育会系の女子がそう言う声で、みんな海岸に置いてた浮き輪やボールを持って、三々五々と海の中へ向かう。



「あ。じゃあ、私、一回更衣室戻るね」


 ビーチバレーをすると聞いて、水着の上にパーカーを羽織ってきていた私。


 そこまではよかったんだけど、そのときは泳ぐと思ってなかったから、タオルを忘れてきてしまったんだ。



「え!? じゃあ、私も一緒に行こうか?」


 心配そうにこちらに走ってくるのは、明日香。


「大丈夫。私がうっかりしてたのがいけないの。せっかくの自由時間なんだから、明日香は先にみんなと泳いでて?」


「わかった。じゃああの辺りにいると思うから」


 明日香は少し迷うような表情をしたけれど、そう言ってみんなの輪の中に戻っていった。


 せっかくの修学旅行だもん。

 こんなことに付き合わせるなんて、やっぱり悪いもんね。


 あとから考えてみても、明日香は私と一緒に来なくて正解だったと思う。


 海岸から5分ほど離れたところにある更衣室に戻った私は、パーカーを脱いで、代わりに少し大判のタオルを手に取った。


 パーカーを脱いだことによりあらわになった、白地にピンクの花柄のビキニの水着は、修学旅行前に明日香が見立ててくれたもの。

 明日香とは色違いで、明日香は白地にブルーの花柄模様だ。


 明日香は大丈夫って言ってくれたけど、私には少し肌が出すぎてる感じがして何か羽織ってないと落ち着かない。


 海に入ってしまえば、気にならなくなるかな……?


 そう思いながら、手に取った大判のタオルを羽織るようにかけて更衣室をあとにした。


 ちょうど更衣室へと続く道から砂浜へと降りたときだった。


 前方から、いかつい30代前後の大人の男性が二人、歩いてきた。


 二人とも金髪で海パン姿。

 どちらもサングラスをかけていて、その顔はよくわからない。


 考えすぎかもしれないけど、二人ともずっと顔がこちらを向いていて、なんとなくイヤな感じがあった。


 早くみんなのところに戻ってしまおう。


 そう思って、男性二人を避けるように向きをかえて歩き始めたとき。


 どういうわけか、私と同じように向きをかえた男性二人がこちらに歩いてきたのだ。


 ……えっ!?


 だけどどんなに避けようとしても避けきれず、私の肩は男性のうちの一人の腕にぶつかってしまった。


「いってぇなぁ」

「す、すみません……っ」


 大きな声でそう言われて、思わずあとずさりしながら謝る。


「まぁ、いいけどよ。嬢ちゃん、可愛いし」

「実は、この海岸に入ってくるところから見てたんだ~!」


 見てたのに、私にぶつかったの!?

 私が避けきれなかったのも悪いけど、なんとなくそれだけが原因じゃない気がする。


 でも下手に文句を言って絡まれるのは嫌だし、早くこの二人から解放されたかった私は、もう一度頭を下げて二人の前をあとにしようとした。


「いえ。本当にすみませんでした」


 ガシッ。

 ……え?


 だけど、二人から遠ざかろうとしたとき、私は二人のうちの一人に腕をつかまれていた。


 や、やだやだやだやだ。怖い怖い怖い……っ。


 それまでは何とか冷静を保っていたけれど、触れられたことで、一気に全身に鳥肌が立った。


 カタカタと身体の芯が震え出す。


「何? まさか俺たちが怖いの?」


 怖いと叫んで、突き飛ばして走って逃げることができたなら、どれだけいいだろう。


 だけど、恐怖で喉はカラカラで、声を出そうにもそのやり方を忘れたかのように、声が出ない。


 その上、身体中が震えて、思うように身体に力も入らない。


 すぐ近くには、私たちの学校の生徒たちでにぎわう空間があるというのに、果てしなくそこが遠くに感じる。


 誰か、助けて……っ!



「ぶつかってきておきながら、怖いは失礼じゃね? ってか、本当に悪いと思ってるなら、ちょっと来いよ」

「や……っ」


 二人は私の前後に立つと、一人の人は私の腕を引いてもう一人の人は私の背中を押した。
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