俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

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第4章

◆真剣勝負の行方-広夢Side-(7)

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「大丈夫。俺、……広夢だから」

「ひ、ろむ、く……っ」


 恐る恐る顔を上げる美姫が、俺を視界に映す。


 いつもは凛としている表情も、強気な態度もない。声も弱々しく、その小さな身体は小刻みに震えて余計に小さく見えた。


 美姫はへなへなへなと、まるで力が抜けるかのようにその場に座り込んでしまった。


「美姫っ!? あいつらに何された?」


 美姫は、静かに首を横にふる。

 まだ何もされてないってことか?

 それならいいのだが……。


 だけど美姫は俺と目すら合わせることなく、うつむいてしまう。


「何で美姫はここに? あいつらに連れてこられたの?」


 弱々しくうなずく美姫。


「……更衣室からみんなのいるところに戻る途中に、前から歩いてきたあの人たちと肩がぶつかってしまって……」


 それで、あんな執拗に絡まれてたのか?


 男の人が苦手な美姫が、故意に男にぶつかるなんてまず考えられない。


 まさかとは思うが、美姫をナンパするためにわざと男たちが美姫にぶつかっていったのか?


 その場を見てたわけじゃないから、本当に偶然ぶつかってしまっただけの可能性もある。


 だけどあの男二人の様子を見た限り、美姫にわざとぶつかった上での行動だと言われても不思議じゃない雰囲気は充分に出ていた。


 今も隣で小さく身体を震わせている美姫。


 自分として、いち早くに駆けつけたつもりだったけれど、どうしてもっと早く気づけなかったんだと責めてしまう。


「……そうだったんだ。怖かったな」



 美姫の方へ手を伸ばすも、あからさまに美姫の身体が再び強ばるのがわかって、その手を引っ込めた。


 俺、何しようとしてんだよ。

 さっきの今で、今の美姫は男という存在自体を拒絶してるというのに。


 そんな美姫を慰めようとしたとはいえ、美姫に触れること自体、今はご法度だろうが。


 思わず美姫の頭をポンポンとしそうになった自分の手を、もう片方の手で痛いくらいに握りしめる。


 美姫を余計に怖がらせることしかできないなんて……。


「ごめん。やっぱここは女の子の方がいいよな? 宮園のこと、探してくる」


 美姫は宮園と仲が良いから、きっとここは彼女にそばにいてもらった方がいいだろう。


 だけど、俺がそう言って踵を返そうとしたとき。


「──行かないで」


「……え?」


 今にも消えてしまいそうな声で、まるですがるように俺を見上げて美姫はそう言った。


「……ひとりは、いや。そばにいて」


 潤んだ瞳で、それは反則だろ。

 無自覚なお姫さまは、これだから困る。


 っていうか、こんなに震えて、俺の存在さえも恐怖に感じてるんじゃないのか?


 だけどそう言われた以上、美姫を一人にするなんて俺にはできない。



「わかった。でも、とりあえず美姫の気分を変えるためにも移動しようか」


 ここは美姫がイヤな目に遭った場所だと思うと、美姫もつらいだろうから、場所は変えた方が美姫のためかなと思ったんだ。


「……うん」


 ところがさっきの恐怖から上手く身体に力が入らないのか、身体を動かそうとするもなかなか立ち上がろうとしない美姫。


 また、拒まれるかもしれない。怖がられるかもしれない。


 そうは思うけど、そんな美姫に俺は手を差し伸べていた。


 美姫は驚いたような、戸惑うような表情で俺を見上げる。


「やっぱり、怖いよな」


 わかっててやってショックを受けるなんて、俺は一体何をしてるんだか。


 でも……。

 これまでの美姫との思い出が頭の中を駆け巡る。


 男性恐怖症を克服するという名目の特訓は、修学旅行前日にはしばらく両手を握り合っていられるところまできていたんだ。


 だから俺は、どこかで期待していたんだと思う。


 俺のことだけは拒まないんじゃないかとか、そんな勝手な都合のいいことを。


 だけどそんなことは全然なくて、チクリと胸が痛んだのは俺だけの秘密。



「……これなら大丈夫?」


 いつか暗闇が怖いと言った美姫にしたのと同じように、俺は右手の小指を立てて改めて美姫に差し出す。


「……うん」


 まるですがるように、だけど恐る恐る俺の小指を握りしめる美姫。


 そのデジャヴ感に、思わず大きく胸が脈打った。


 デジャヴとは言っても、あの暗闇の中で手を差し伸べたときに同じようなことをしたからではない。

 あのときも、今回感じたのと同じようなデジャヴを感じていたのだから。



 だけど、今回はまた違う。

 俺は、あの日感じたデジャヴの正体に気づいたんだ。


 ああ、そういうことだったんだ。と妙に納得してしまう。


 俺が美姫を好きになったのは、必然だったんだって、そう思った。
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