俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

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第4章

◆真剣勝負の行方-広夢Side-(6)

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 2日目は、俺たちは朝から船に乗って、沖縄のとある島に渡った。


 午前中はそこでマリンスポーツを体験し、午後からは自由に海で泳いでOKとのことで俺は沖縄の青い海を満喫していた。


 昨夜は結人に感化されて、俺も何かしら美姫に行動を起こそうっていう気になったけれど、いざとなったら難しい。


 一緒に暮らしてるくせに、今までどうやって過ごしてきたんだよって感じだよな。



 この自由時間、俺は結人を含む同じクラスの修学旅行班の奴らと、青い海の中泳ぎ回っていた。


「じゃあ、今度はあの岩まで競争しようぜ!」

「負けた奴、今夜の風呂上がりに、全員分のジュースな!」


 まぁやってることと言えば、沖縄の海じゃなくてもいいようなことなのだが。


 班員のジュースを奢らされるとか堪ったもんじゃないから、もちろん俺も本気で泳ぐ。


「よしっ! ジュースもーらいっ!」


 ゴールの岩についたとき、まだ他の班員は誰一人としてゴールしてなくて、ガッツポーズを取る。


「……広夢、お前泳ぐの速すぎだろ」

「へへーん!」


 水泳部とかではないけれど、実は泳ぐのはかなり得意な方だ。


 そのとき、ふと岸の方に目をやった俺は、思わず目を見張った。


 俺ら修学旅行生でにぎわう海岸から少し外れた海岸沿いを、美姫が何者かに腕を引かれるようにして歩いていたからだ。

 見た感じ、男に、だ。

 だけど相手は持田じゃなくて、俺も知らない奴に見える。


 それも二人いる。

 美姫の手を引いて歩いてる奴の他に、もう一人美姫の後ろに知らない男が歩いてるのだから。


 肝心の美姫は……、ここから少し離れてるからはっきりと見えないのがもどかしいけれど。


 きっと、震えてる。



「悪い。俺、ちょっと抜ける」


 俺はその時点でゴールしていた奴らにそう告げると、一目散に美姫のいる岸の方へ泳ぎ始めたのだった。


 砂浜に上がると、みんなが遊んでる方とは少し外れた方向へと走る。


 さっきまで見えていたはずの美姫の姿が、俺からは見えない位置に消えてしまって、不安が募る。


 美姫が連れ去られたと思われる方向へと走る中、か細い声が耳に届いた。



「離して……っ」


 この声、美姫の声だ!

 いつもは凛とした声も、震えて弱々しく聞こえる。


 それだけ怖い思いをしているのだろう。



 一刻も早く美姫のところへ駆けつけようと、足を早める。


 すると、ちょうどもともと海の家があったのであろうボロ屋敷の裏から男二人の声が聞こえてきた。


「嬢ちゃん、そんなに怯えなくていいだろ? まだ何もしてないってのに」

「さっきの場所だと、学生が溢れてるから静かなところに連れてきただけじゃん」

「ねぇ、ちょっとお兄さんたちの相手してよ。キミみたいな可愛い子、すごくタイプなんだ」


 美姫が被害に遭ってるんだと直感で思った俺は、声の聞こえた方向へと回り込む。


 すると案の定、さっき遠目で見た男二人に美姫が囲まれている。


 その内の一人の男の手が、いやらしく美姫の身体に伸びる。


 ──やめろ。やめろやめろやめろやめろっ!


 その気持ち悪い手で、美姫にれんじゃねぇよ!


「先生っ! こっちです! うちの生徒が痴漢の被害に遭ってます」


 俺が男を押さえ込めればいいのだが、それにはまだ少し距離があった。


 そこで俺は、腹一杯に空気を吸い込んで、その男二人に向かってそう叫んだ。


 その声は当然のように男二人の耳にも届き、ぎょっとした感じに男がこちらを振り返る。



「こっちです! 先生っ! 早くっ!」 


 本当は、先生なんて声の届く位置にはいない。


 安易な方法だけど、とりあえず奴らの矛先を美姫からそらすことができるかなって思ったんだ。


「ヤベっ。逃げろ!」

「嬢ちゃん、悪いな」


 だけど、そんなことも知らない男二人は、慌てて尻尾を丸めて逃げ出した。


 俺が立っていた方向とは反対側に逃げていった男二人。


 静かになったそこには、肩にタオルをかけた美姫がぽつんと立っていた。


「……美姫?」


 極力、優しい声で声をかけたつもりだった。


 だけど、美姫はビクッ! と激しく肩を震わせた。


 きっとそれだけ怖かったのだろう。


 それもそうだ。

 あんなに男が苦手な美姫が、酷いナンパの被害に遭ってたんだから。
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