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第4章
◆真剣勝負の行方-広夢Side-(4)
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そんなこんなで、沖縄に到着したあと。俺らは沖縄の歴史を感じられる施設を順にまわって、本日最後のメニューの民族衣装の着付け体験に来ている。
衣装自体は、羽織ればそれっぽく見えるような、簡単に着れるもののようだが、さすがに全員が着るほどの時間はないので、クラスで数名ずつ着ている感じだ。
「すげぇな。美姫の絵のまんまだ」
目の前でクラスメイトがキャッキャとさわぎながら身につける衣装は、美姫が修学旅行のしおりの表紙絵に描いていたもので、思わず感嘆の言葉が口を飛び出す。
「そこであえてヒメの絵を持ってくるところが、広夢だね。せめてそこは写真と同じだ、とか他にも言い方なくない?」
「別にいいだろ? ってか、写真と一緒~っとか、俺がそんな一般的なコメントしそうに見える?」
「いや、全く。むしろ、似合わなさすぎて笑える」
「お前なぁ。似合わなさすぎて笑えるとか、失礼すぎだろ」
まるで俺が一般的なコメントをしたら変みたいじゃねーか。
おかしげに笑う結人を見る限り、きっと悪気なんてなく、ただいつものごとく俺のことをいじってるだけなんだろうけど。
ひとつため息を落としかけたとき、一際「可愛い~!」と甲高い声が聞こえる。
女子が何に興奮してるのかそちらを見やると、美姫が着付け衣装を着せてもらっているのが見えた。
美姫は「そんなことないよ」と口にしながら、照れているような表情を浮かべている。
衣装はもちろん似合っているが、反応まで可愛い過ぎだろ。
そうやって少し離れたこの位置から美姫を見ていると、不意にこちらを向いた美姫と目があってドキンと胸が跳ねる。
せめて似合ってると一言、俺も言いに行こうかと足を動かしかけたとき、女子たちが別の方向へ向かって黄色い声を上げた。
「……は? 何でまたあいつが出てくんだよ。クラス違うだろうが」
俺もそちらを見て、思わず低い声でぼやいていた。
美姫の近くに現れたのは、どういうわけか男性用の民族衣装を着た持田だった。
クラスごととはいえ、隣のクラスの持田も近くで試着をしていたということなのだろう。
飛行機の中といい、今といい、何ならここに来るまでの間も、何かと持田は美姫のそばに現れていて、余計に面白くない気持ちにさせられる。
「キャー、写真撮らせてー!」
女子たちは絵になるような二人に向けて、興奮気味にスマホやらカメラやらを構えている。
何だかんだでみんなに写真を撮られる二人から目を離せずにいると、不意に持田がこちらを向いた。
瞬間、持田の顔がまるで勝ち誇ったように笑う。
同時に、俺のイライラは更に増した。
「広夢、せっかくの修学旅行なのに、また怖い顔してるよ?」
「うるせっ、これもそれもあいつが……っ!」
結人の言葉に思わず突っかかるように言い返してしまいそうになったとき。
「あ、いたいた! 広夢くん、結人くん、これ着て写真撮ろ~!」
どこからともなく、女子のそんな声が聞こえてくる。
「……え?」
見ると、丸山を先頭にクラスの女子が数人、試着担当の人と男性用の民族衣装を持ってこちらに詰め寄ってくる。
「広夢くんも結人くんも、こんなところで突っ立ってないで試着しようよ!」
「で、一緒に写真撮ろう?」
「絶対二人が着たら似合うんだから! 私たちも一緒に撮りたい!」
そうこうしてる間に、ここぞとばかりに押し寄せてくる女子の群れ。
「え……? あ……」
あれよあれよという間に、試着担当の人に俺も結人も民族衣装姿にさせられる。
そして俺らが着替え終えると、いつの間に誰が呼んできていたのか学校が雇ってるカメラマンのおじさんまで近くにいて、民族衣装を着た俺と結人を中心にまさかのハーレム的な集合写真を撮らされる羽目になったのだった。
*
「もう、何なんだよ。俺の修学旅行初日は。呪われてんのか?」
試着体験を終えた俺はクタクタになった身体をバスの座席の背もたれに預けて、1日目に泊まる旅館に向かう。
疲れを知らない浮かれた車内の空気に反して、俺は盛大なため息を落としていた。
せっかくの修学旅行にって言われても、愚痴も言いたくなるって話だ。
持田は何かと美姫の近くにいるし、俺は美姫に声をかけるタイミングすらないし、マジでイライラしかしない。
衣装自体は、羽織ればそれっぽく見えるような、簡単に着れるもののようだが、さすがに全員が着るほどの時間はないので、クラスで数名ずつ着ている感じだ。
「すげぇな。美姫の絵のまんまだ」
目の前でクラスメイトがキャッキャとさわぎながら身につける衣装は、美姫が修学旅行のしおりの表紙絵に描いていたもので、思わず感嘆の言葉が口を飛び出す。
「そこであえてヒメの絵を持ってくるところが、広夢だね。せめてそこは写真と同じだ、とか他にも言い方なくない?」
「別にいいだろ? ってか、写真と一緒~っとか、俺がそんな一般的なコメントしそうに見える?」
「いや、全く。むしろ、似合わなさすぎて笑える」
「お前なぁ。似合わなさすぎて笑えるとか、失礼すぎだろ」
まるで俺が一般的なコメントをしたら変みたいじゃねーか。
おかしげに笑う結人を見る限り、きっと悪気なんてなく、ただいつものごとく俺のことをいじってるだけなんだろうけど。
ひとつため息を落としかけたとき、一際「可愛い~!」と甲高い声が聞こえる。
女子が何に興奮してるのかそちらを見やると、美姫が着付け衣装を着せてもらっているのが見えた。
美姫は「そんなことないよ」と口にしながら、照れているような表情を浮かべている。
衣装はもちろん似合っているが、反応まで可愛い過ぎだろ。
そうやって少し離れたこの位置から美姫を見ていると、不意にこちらを向いた美姫と目があってドキンと胸が跳ねる。
せめて似合ってると一言、俺も言いに行こうかと足を動かしかけたとき、女子たちが別の方向へ向かって黄色い声を上げた。
「……は? 何でまたあいつが出てくんだよ。クラス違うだろうが」
俺もそちらを見て、思わず低い声でぼやいていた。
美姫の近くに現れたのは、どういうわけか男性用の民族衣装を着た持田だった。
クラスごととはいえ、隣のクラスの持田も近くで試着をしていたということなのだろう。
飛行機の中といい、今といい、何ならここに来るまでの間も、何かと持田は美姫のそばに現れていて、余計に面白くない気持ちにさせられる。
「キャー、写真撮らせてー!」
女子たちは絵になるような二人に向けて、興奮気味にスマホやらカメラやらを構えている。
何だかんだでみんなに写真を撮られる二人から目を離せずにいると、不意に持田がこちらを向いた。
瞬間、持田の顔がまるで勝ち誇ったように笑う。
同時に、俺のイライラは更に増した。
「広夢、せっかくの修学旅行なのに、また怖い顔してるよ?」
「うるせっ、これもそれもあいつが……っ!」
結人の言葉に思わず突っかかるように言い返してしまいそうになったとき。
「あ、いたいた! 広夢くん、結人くん、これ着て写真撮ろ~!」
どこからともなく、女子のそんな声が聞こえてくる。
「……え?」
見ると、丸山を先頭にクラスの女子が数人、試着担当の人と男性用の民族衣装を持ってこちらに詰め寄ってくる。
「広夢くんも結人くんも、こんなところで突っ立ってないで試着しようよ!」
「で、一緒に写真撮ろう?」
「絶対二人が着たら似合うんだから! 私たちも一緒に撮りたい!」
そうこうしてる間に、ここぞとばかりに押し寄せてくる女子の群れ。
「え……? あ……」
あれよあれよという間に、試着担当の人に俺も結人も民族衣装姿にさせられる。
そして俺らが着替え終えると、いつの間に誰が呼んできていたのか学校が雇ってるカメラマンのおじさんまで近くにいて、民族衣装を着た俺と結人を中心にまさかのハーレム的な集合写真を撮らされる羽目になったのだった。
*
「もう、何なんだよ。俺の修学旅行初日は。呪われてんのか?」
試着体験を終えた俺はクタクタになった身体をバスの座席の背もたれに預けて、1日目に泊まる旅館に向かう。
疲れを知らない浮かれた車内の空気に反して、俺は盛大なため息を落としていた。
せっかくの修学旅行にって言われても、愚痴も言いたくなるって話だ。
持田は何かと美姫の近くにいるし、俺は美姫に声をかけるタイミングすらないし、マジでイライラしかしない。
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