俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

文字の大きさ
上 下
43 / 79
第4章

◆真剣勝負の行方-広夢Side-(3)

しおりを挟む
「冗談だよ。よく描けてると思うよ、広夢にしては」

「“広夢にしては”が余計なんだよ!」


 結人から顔をそらせば、再び美姫と持田が楽しそうに会話してる姿が目に入ってイライラする。

 くっそ、何をそんなに二人で楽しく話してるんだよ。


 どいつもこいつも、マジでイライラする……!


「広夢くん、広夢くん」


 そのとき、通路を挟んで隣の女子にツンツンと袖を引っ張られた。


 何だよっ!


 内心イライラしたまま、振り向けば口の中に何かを突っ込まれる。


「んぐ……っ」

「やーん。んぐっだって! かーわーいーい!」

「可愛くねぇから。変なもん食わせんな!」

「変なものだなんてひどーい! ちゃんとしたお菓子だよ~?」


 口に突っ込まれた細長いものの持ち手を持ってみれば、どうやらそれはイチゴ味のポッキーのようだ。

 さすがに口に入ったものを突き返すのも気が引けるので、いただくことにした。

 口の中に、いちごの甘酸っぱい味が広がっていく。


「最近、広夢くん、以前よりチャラい感じがなくなったよね~? さては好きな子でもできた?」

「ゲホッゲホッ……」


 唐突に聞かれた言葉に、思わず激しくむせてしまう。


 そもそも、俺は元々チャラくないし。

 それに好きな子って……。



「大丈夫~? じゃあやっぱりウワサは本当なんだ」


 その声に隣の女子の顔をちゃんと視界に入れると、同じクラスの丸山まるやまがつまらなさそうにそう言っている。


 丸山とはそんなに親しいってほどではないが、去年から同じクラスで、時々話す程度の女子だ。



「う、ウワサ……?」

「ヒメに本気で惚れた広夢くんが、生徒会長からヒメを奪うのに必死だってウワサ。有名だよ?」

「はぁ!? 持田から奪うって、何だそれ。第一、美姫は持田のじゃねーし」

「聞いた!? 広夢くん、ヒメのこと美姫って呼んでる!」

「聞いた聞いた! え、もしかして広夢くん、ヒメと付き合ってるとか!?」


 丸山の隣に座っていた女子も一緒に会話に入ってきて、余計に騒ぎ立てられる。


「や。付き合ってなんかねぇから」


 あちゃー。

 もう今となっては美姫って呼ぶのが普通になってたとはいえ、この子たちの前ではあえてヒメって呼び方に戻しておいた方が良かったかも……。


「本当? じゃあ、今度うちらと遊びに行こうよ~」

「はぁ?」


 だから、何でそうなる!

 何で俺が美姫と付き合ってなかったら、この子たちと遊ばなきゃなんないわけ?


 席も少し離れてるし、機内の音もそれなりにしている空間の中。まさか美姫にこの会話を聞かれてないかと、特にやましいことを話しているわけではないのに気になって、美姫の方を見てしまう。


 すると、バチっと音がしそうな勢いで美姫と目が合って、ヤバイくらいに心臓の鼓動が速まった。


「……ぐっ」


 だけどその瞬間、また口の中にポッキーを突っ込まれる感触に丸山の方へと向き直る。

 ったく、何すんだよ!



「今ヒメの方見てたでしょ?」

「そ、んなわけねーだろ」

「うっそだぁ。動揺してるの丸わかりだもん」


 クククと笑う丸山とその隣の女子。


 口の中に突っ込まれたいちごポッキーを仕方なく咀嚼しながら、ふと思う。


 まさか、今のも美姫に見られてた?


 俺がうっかりしていたとはいえ、離れたところからなら女子に“あーん”されてたようにも見えなくもない光景。


 さっき美姫と目が合ったことを思えば、見られてたとしても不思議じゃない。


 だけど、再び今度はさりげなく美姫の方を見るも、すでに美姫はこちらを見ることなく持田の話を聞いてるようだった。


 それからも丸山のマシンガントークに付き合わされて、沖縄に到着する頃には、すっかり俺は疲れ果ててしまっていた。


 隣の座席だったはずの結人は、いつの間にか寝ていて、全然俺のことを助ける気すらなかったし……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【短編集2】恋のかけらたち

美和優希
恋愛
魔法のiらんどの企画で書いた恋愛小説の短編集です。 甘々から切ない恋まで いろんなテーマで書いています。 【収録作品】 1.百年後の未来に、きみと(2020.04.24) →誕生日に、彼女からどこにでも行ける魔法のチケットをもらって──!? 魔法のiらんど企画「#つながる魔法で続きをつくろう」 で書いたSSです。 2.優しい鈴の音と鼓動(2020.11.08) →幼なじみの凪くんは最近機嫌が悪そうで意地悪で冷たい。嫌われてしまったのかと思っていたけれど──。 3.歌声の魔法(2020.11.15) →地味で冴えない女子の静江は、いつも麗奈をはじめとしたクラスメイトにいいように使われていた。そんなある日、イケメンで不真面目な男子として知られる城野に静江の歌と麗奈への愚痴を聞かれてしまい、麗奈をギャフンと言わせる作戦に参加させられることになって──!? 4.もしも突然、地球最後の日が訪れたとしたら……。(2020.11.23) →“もしも”なんて来てほしくないけれど、地球消滅の危機に直面した二人が最後に見せたものは──。 5.不器用なサプライズ(2021.01.08) →今日は彼女と付き合い始めて一周年の記念日。それなのに肝心のサプライズの切り出し方に失敗してしまって……。 *()内は初回公開・完結日です。 *いずれも「魔法のiらんど」で公開していた作品になります。サービス終了に伴い、ページ分けは当時のままの状態で公開しています。 *現在は全てアルファポリスのみの公開です。 アルファポリスでの公開日*2025.02.11 表紙画像は、イラストAC(がらくった様)の画像に文字入れをして使わせていただいてます。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

キケンな放課後☆生徒会室のお姫様!?

美和優希
恋愛
入学早々、葉山優芽は校内で迷子になったところを個性豊かなイケメン揃いの生徒会メンバーに助けてもらう。 一度きりのハプニングと思いきや、ひょんなことから紅一点として生徒会メンバーの一員になることになって──!? ☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆ 初回公開*2013.12.27~2014.03.08(他サイト) アルファポリスでの公開日*2019.11.23 *表紙イラストは、イラストAC(小平帆乃佳様)のイラスト素材に背景+文字入れをして使わせていただいてます。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...