俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

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第3章

◇真夜中に、膝枕で-美姫Side-(2)

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「遅くまで頑張ってるんだね」

「美姫もだろ? お互いお疲れさんだな」

「あ、でも、私はもう今日は終わりにする予定」

「そっかぁ。俺はもうちょい頑張る予定」


 広夢くんは最後はアクビ混じりにそう言って、両手を上に突き上げて背筋を伸ばした。


 最近、広夢くんは空いた時間は勉強をしていることが多いみたい。


 以前までは、テレビを見てたりゲームをしてたりしてるイメージだったのに。


 やっぱりテストが近づいて来たからなのかな……?


 以前は、夜はそれなりの時間には寝ているみたいで、この時間帯には真っ暗になっていた広夢くんの部屋。


 だけどいつからか、夜の遅い時間帯でも常に広夢くんの部屋から明かりが漏れているようになった。


 それか、こうしてここのリビングで参考書や教科書と向き合っているか……。


 私は台所まで行くと、自分の麦茶を追加するついでにもうひとつ別のマグカップにアイスコーヒーを淹れて広夢くんのところに持っていく。



「良かったら……」

「お、サンキュー! わざわざ俺のために淹れてくれたの?」

「や。別に、麦茶を追加しに行ったついでだから」

「またまた~」


 と笑う広夢くんは、いつもと同じようにも見えなくもないけど、よく見ると少し疲れて見える。


 広夢くんは私からアイスコーヒーを受けとると、ローテーブルの近くにあるソファーに座り直した。


「あ、良かったら美姫も座って。ちょっと話そ?」


 ソファーの端に寄って、私が座るには充分すぎるくらいのスペースを作ってくれる広夢くん。


「……ありがとう」


 どうしようかとも迷ったけれど、あまりに広夢くんが空いたスペースをポンポン叩くもんだから、少しだけと思って広夢くんの隣にちょこんと腰を下ろした。


「広夢くんは、いつも何時まで勉強してるの?」


 そして、広夢くんに少し気になっていたことを聞いてみる。


「何々? 美姫、俺のことが気になるの?」

「そ、そういうわけじゃない、けど。いつも遅くまで起きてるのかな、って思って……」


 ちょっと意地悪だけど、基本的には真面目で優しい広夢くん。


 一緒に過ごしてみると広夢くんがそういう人だってわかるけど、今まで何となくチャラそうなイメージがあったのは、彼の発言の仕方のせいなんだろうなと思う。


 きっとそういったところが、人懐っこくて取っつきやすいと人に感じさせるのだろうけれど。


「うーん、その日にもよるけど、3時頃かな。さすがに3時間は寝ないと次の日死にそうになるから、遅くても4時には寝てるかな」

「えぇえっ? ちょっと無理しすぎじゃない?」


 実際夜ご飯のときに広夢くんと顔を合わせたときは気づかなかったけれど、近くで広夢くんの顔を見ると、目の下の隈が結構くっきりして顔色も悪そうに見える。



「どーってことないって! や、実は今度のテストで負けたくない奴がいてな、俺みたいに今までまともに勉強して来なかった奴は、このくらいしないと太刀打ちできなくてさ」

「でも、いくらなんでも身体壊したら元も子もないよ?」

「まぁ、そうなんだけどな……」


 ヘラヘラっと苦笑いを浮かべる広夢くん。

 きっとそこまでして負けたくない相手なのだろう。


 広夢くんは私の淹れてきたコーヒーに手を伸ばすと、それをくーっと喉に流し込む。


「わ、私でよければ……っ」

「……え?」

「私でよければ力になるから、言ってね」



 私に力になれることがあって、私が広夢くんの力になることで広夢くんがちょっとでも無理せずに済むのなら、と思ったけれど……。


「ありがとう。でも、できれば美姫には迷惑かけないようにしたいんだ。美姫の足引っ張ったら意味ねーだろ?」

「そんな、足引っ張るなんて。そんなことないよ?」


 広夢くんの身体が心配でそう言うと、広夢くんは、「それなら」と何かを考えるように上を向いて目を伏せる。


 そしてそのまま瞳だけこちらを向けて、広夢くんはこう言った。


「……じゃあ、15分だけ美姫の時間ちょうだい」

「……え?」

「俺、今、猛烈に眠くてさ、15分後に起こして。あ、でも、美姫がもう寝るつもりだったんなら別にいいよ」

「……いいよ。おやすみ」

「え、マジで!? じ、じゃあよろしく……」


 広夢くんは一瞬驚いた顔をこちらに向けたあと、コーヒーの入ったマグカップをローテーブルの上に置いて腕を組むと、再びさっきと同じように上を向いて目を伏せた。
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