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第3章
◆俺の本気を見せてやる-広夢Side-(5)
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*
「うっわ。お前、何やってんの」
図書室での勉強会のあとから、人生で初めて勉強に身を捧げることにした俺。
翌日も学校に着くなり、教科書やら参考書やらノートやらを机の上に広げている。
そんな俺を見て、結人が開口一番に驚きを隠せない声でそう言った。
「見りゃわかるだろ! 勉強だ、勉強!」
「や、そうだけど。まだテスト期間にも入ってないのにか?」
まぁそれも無理もない。
いつも俺は、テスト期間に突入してからじゃないと、テスト範囲表を見ることすらしない奴だったもんな。
「今回はワケが違うんだよ!」
「ワケって何だよ。昨日のヒメと持田との勉強会で、どうせ持田に何か言われたんだろ?」
呆れたような、でも、心配してるような声でそう問いかけてくる結人。
だけど、それさえもこたえる時間が惜しくて勉強を続けていると、俺の右手からスッとシャーペンが抜き取られた。
「お前なぁ、人が話してるときくらい手止めろ」
「……うわっ。お前、邪魔すんなよな?」
「今のはお前が悪い。で、持田に何言われた」
まるで人質のように取り上げられた、俺のシャーペン。
まぁ確かにそうだよな。
俺が逆の立場だったら、きっと結人と同じことを思うだろう。
昨日、俺をあの二人の勉強会に送り込んだ結人には、聞く権利があってもおかしくない。
俺は、結人に何て言われるだろう? と思いながらも、昨日の持田とのやり取りを手短に話した。
「は? お前、本気で言ってんの?」
「うるせぇな。仕方ねーだろ、勢いと流れでそうなっちまったんだから」
「勢いと流れって何だよ。持田に煽られてカチンときた広夢が、その無謀な戦いに挑んだんたろ?」
さすがは結人。俺のことをよくわかってる。
「相手は学年二位だぞ!?」
「わーってるよ。でも、あんだけバカにされたのに、ここで尻尾丸めるなんてカッコ悪いことできねぇよ!」
シャーペンを抜き取られた拳をぎりりと握りしめる。
悔しい、悔しい、悔しい……。
あんな奴に、負けたくない!
あんな奴に、美姫を取られたくないんだ……っ!
そんな俺に、結人は無言でシャーペンを返してくる。
「……結人?」
「お前、マジで世話が焼ける奴だな」
「うるせーな。放っとけ」
だけど、結人はまるで救いの手を差しのべるようにこう言ったんだ。
「ま、俺もどこまで太刀打ちできるかわからんが、お前のそのプライドのために協力してやるよ」
「マジでっ!? 恩に着るぜ!」
結人は俺とは対照的に、基本的には真面目な奴だ。
だから、テスト勉強も何気にコツコツ進めてるタイプで、地味に頭がいい。
美姫や持田と比べたらそこまでじゃなくても、いわゆる成績上位組だ。
さすがに美姫に勉強を教えてもらうなんて、美姫の足を引っ張るようなことはしたくなかった俺。
そんな俺に結人の一言は、救われるようだった。
その日から俺は放課後、修学旅行実行委員の仕事のない日は学校では教室に残って結人と勉強をして、家でも美姫と飯食ったり家事の手伝いをしたりしたあとは寝る間を惜しんで勉強に勤しんだ。
「おい、結人。その問題、答え間違ってねぇか?」
「あ? あ、本当だ。広夢のが合ってる」
最初は結人に呆れられることの方が多かった。
協力してやるなんて結人は言ってくれたけど、結人の足を引っ張ってるだけのような気がしていたし。
だけど6月半ばが過ぎて、いよいよテスト期間に突入するっていう頃までに一通りの基礎を終わらせた俺は、こうして結人と互角に勉強の話をできるくらいに成長していた。
「お前さ、やってなかっただけで、実はめちゃくちゃ頭良いんじゃね?」
「あー、それは自分でも思った」
だけど、それでもまだまだ結人に教えられることの方が多い。
明日から、学校全体がテスト開始の1週間前に入る。
きっとあいつ、持田に勝つにはこの程度で満足していたらダメなのだろう。
短期間とはいえ、人生で一番と言っていいくらいに勉強をしてここまで来たんだ。
何となくだけど、このまま順調にいけばいける気がするんだ。
俺の本気を見せてやる!
一片の余裕も許さないとばかりに、俺は再びノートにシャーペンを走らせたのだった。
「うっわ。お前、何やってんの」
図書室での勉強会のあとから、人生で初めて勉強に身を捧げることにした俺。
翌日も学校に着くなり、教科書やら参考書やらノートやらを机の上に広げている。
そんな俺を見て、結人が開口一番に驚きを隠せない声でそう言った。
「見りゃわかるだろ! 勉強だ、勉強!」
「や、そうだけど。まだテスト期間にも入ってないのにか?」
まぁそれも無理もない。
いつも俺は、テスト期間に突入してからじゃないと、テスト範囲表を見ることすらしない奴だったもんな。
「今回はワケが違うんだよ!」
「ワケって何だよ。昨日のヒメと持田との勉強会で、どうせ持田に何か言われたんだろ?」
呆れたような、でも、心配してるような声でそう問いかけてくる結人。
だけど、それさえもこたえる時間が惜しくて勉強を続けていると、俺の右手からスッとシャーペンが抜き取られた。
「お前なぁ、人が話してるときくらい手止めろ」
「……うわっ。お前、邪魔すんなよな?」
「今のはお前が悪い。で、持田に何言われた」
まるで人質のように取り上げられた、俺のシャーペン。
まぁ確かにそうだよな。
俺が逆の立場だったら、きっと結人と同じことを思うだろう。
昨日、俺をあの二人の勉強会に送り込んだ結人には、聞く権利があってもおかしくない。
俺は、結人に何て言われるだろう? と思いながらも、昨日の持田とのやり取りを手短に話した。
「は? お前、本気で言ってんの?」
「うるせぇな。仕方ねーだろ、勢いと流れでそうなっちまったんだから」
「勢いと流れって何だよ。持田に煽られてカチンときた広夢が、その無謀な戦いに挑んだんたろ?」
さすがは結人。俺のことをよくわかってる。
「相手は学年二位だぞ!?」
「わーってるよ。でも、あんだけバカにされたのに、ここで尻尾丸めるなんてカッコ悪いことできねぇよ!」
シャーペンを抜き取られた拳をぎりりと握りしめる。
悔しい、悔しい、悔しい……。
あんな奴に、負けたくない!
あんな奴に、美姫を取られたくないんだ……っ!
そんな俺に、結人は無言でシャーペンを返してくる。
「……結人?」
「お前、マジで世話が焼ける奴だな」
「うるせーな。放っとけ」
だけど、結人はまるで救いの手を差しのべるようにこう言ったんだ。
「ま、俺もどこまで太刀打ちできるかわからんが、お前のそのプライドのために協力してやるよ」
「マジでっ!? 恩に着るぜ!」
結人は俺とは対照的に、基本的には真面目な奴だ。
だから、テスト勉強も何気にコツコツ進めてるタイプで、地味に頭がいい。
美姫や持田と比べたらそこまでじゃなくても、いわゆる成績上位組だ。
さすがに美姫に勉強を教えてもらうなんて、美姫の足を引っ張るようなことはしたくなかった俺。
そんな俺に結人の一言は、救われるようだった。
その日から俺は放課後、修学旅行実行委員の仕事のない日は学校では教室に残って結人と勉強をして、家でも美姫と飯食ったり家事の手伝いをしたりしたあとは寝る間を惜しんで勉強に勤しんだ。
「おい、結人。その問題、答え間違ってねぇか?」
「あ? あ、本当だ。広夢のが合ってる」
最初は結人に呆れられることの方が多かった。
協力してやるなんて結人は言ってくれたけど、結人の足を引っ張ってるだけのような気がしていたし。
だけど6月半ばが過ぎて、いよいよテスト期間に突入するっていう頃までに一通りの基礎を終わらせた俺は、こうして結人と互角に勉強の話をできるくらいに成長していた。
「お前さ、やってなかっただけで、実はめちゃくちゃ頭良いんじゃね?」
「あー、それは自分でも思った」
だけど、それでもまだまだ結人に教えられることの方が多い。
明日から、学校全体がテスト開始の1週間前に入る。
きっとあいつ、持田に勝つにはこの程度で満足していたらダメなのだろう。
短期間とはいえ、人生で一番と言っていいくらいに勉強をしてここまで来たんだ。
何となくだけど、このまま順調にいけばいける気がするんだ。
俺の本気を見せてやる!
一片の余裕も許さないとばかりに、俺は再びノートにシャーペンを走らせたのだった。
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