俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

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第3章

◆俺の本気を見せてやる-広夢Side-(3)

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「もちろん、そのつもりだよ」


 うっわ! 何だこの展開。

 俺には全く見せない爽やかな笑みを張りつけて、そうこたえる持田を思わず二度見した。


「江畑くんはいいの?」

「俺? 俺は、あんま大人数でわいわいするの好きじゃないから」


 じゃあ、と片手を上げて、結人は教室の中へと戻っていった。


 何だか、とんでもないことになったぞ?


「じゃあ放課後。図書室ね」


 美姫が何を思っているのかわからない。

 ただ昼休みで少しざわついた空間の中、俺の耳には美姫の凛とした声だけが異様に大きく聞こえた。




 そして放課後。

 俺は学園の端っこに位置する、大きな図書室に来ていた。


 図書室には1階部分と2階部分があり、1階が主に本の貸出し、2階がコンピューター室および生徒用の自習スペースになっている。


 図書室自体そうそう来る場所じゃない俺にとって、2階の自習スペースに入るのは、入学以来初めてだ。



 テストが近づいてきたとはいえまだテスト直前というわけでもないからか、自習スペースは完全に俺らの貸しきり状態だった。


 美姫の話では、テスト前1週間からテストが終わるまでの期間だけものすごく混むんだと言っていた。

 まぁそりゃそうだろうな。



 他の人たちがいないということでピリピリした雰囲気もなく、ちょっとくらい小声で話しても大丈夫そうな感じなのには少しホッとしたけれど……。


「だって、夏川くんに聞いたってこたえられないでしょ?」


 俺の心は全然平穏なんて保たれていなかった。


 ……まぁ確かに俺の頭じゃこたえられないけどよ。


 事の発端は、持田がまるで俺なんかいないかのように、何かと美姫に小声で話しかけていたことからだ。


『美姫にばっかり話しかけてんじゃねーよ』って思わず言ってしまったのに対する持田の返しが、さっきの言葉だ。


「わかったなら邪魔しないで」


 ピシャリと言い放たれてイライラが増す。

 学年二位とはいえ、自分だってその問題が解けないくせに偉そうに……。


 美姫は持田の質問した問題の答えをノートにさらさらと書いて、時おり小声で何か話している。


 図書室っていうのを意識してるんだろうな、美姫は。


 向かいに座る俺の位置からは、美姫が何を説明してるのかまではわからない。


 ただそんな美姫の小さな声を聞き取ろうとする持田が、美姫と距離を詰めてるのが若干気になる。

 美姫も時々、手、震えてるし……。

 まぁ持田も美姫の男性恐怖症について知ってしまったから驚いてはなさそうだけど、知ってしまったならもっと気を遣ってやれよな。ったく……。


 あー、イライラする。

 メリっという感触とともに、シャーペンの芯が潰れたのがわかった。

 おかげさまで俺は全く勉強ははかどってない、主に持田のせいで。



「……あ、美姫、」


 持田への解説が終わったのだろうタイミングを見計らって、美姫に声をかける。


 はかどってないなりに進んだところで、ちょっと美姫に確認したいことがあったから。


 だけど……。



「何? 夏川くん」


「や、誰もお前なんかに用ないんだけど」


 美姫が顔を上げたのと同時に返事を寄越して来たのは、どういうわけか、持田だった。


「わからないところ教えてもらえるなら、どっちが答えたって一緒でしょ? 篠原さん、夏川くんのことは僕が教えるからいいよ」

「でも……」

「篠原さんには、かわりにこの問題を見ててほしいんだ」

「う、うん……」



 持田は持っていた問題集から1枚の紙を取り出し、美姫に手渡す。


 美姫は申し訳なさそうに俺の方を見ていたが、その顔も持田がこちらに身を乗り出して来たことにより見えなくなった。


 うっわ。近づいてくんなよ、気持ち悪い……。


「で、何? そんな基礎の問題がわからなくて、篠原さんの時間奪おうとしてたの?」


 すると、不意に美姫には聞こえないような声で、そう耳打ちしてくる。


 こいつ、それを言うためにわざわざ……っ!


 バッと身を離して睨み付けるも、持田は余裕をもて余した爽やかな笑みを張りつけている。
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