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第3章
◇男性恐怖症克服の第一歩-美姫Side-(6)
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「俺思ったんだ。この前の停電したときのことも、思い出してみてよ。美姫は、自分から俺の小指を握って来ただろ?」
何だかその言い方は少し語弊があるような気がする。
それ以上に、あの記憶を連想させる闇が怖くて怖くて……。
広夢くんのことも怖くなかったわけじゃないけど、やむを得ずしたことだったのに……。
「でもそのとき、男=完全拒否っていうわけじゃないんだろうなって思ったわけさ。だから……」
「……っ」
不意にこちらに向かって手が伸びてきて、思わず身構える。
だけど、その手はダイニングテーブルの中央付近に静かに下ろされた。
「ちょっとずつ慣れる方法ってのがいいのかなって」
「それって……」
「美姫から触れて」
触れるって、広夢くんの手を、ってこと?
「そんなの、無理だよ……」
「無理じゃない。現に、美姫は俺に触れたことあるじゃん」
「あ、あれは……。じ、事故みたいなもので……」
「じゃあ、今もその美姫の言う事故が起こったと想定して」
そんな無茶言わないでよ……。
広夢くんの伸ばされた手を見つめたまま、動くことができずにいると、さらに広夢くんは意地悪を言ってくる。
「じゃあ、俺から美姫に触れようか?」
「それは……っ」
「それはさすがに美姫の気持ちがまいるだろ? 美姫は突然男から近づかれることにものすごい恐怖心を抱いてるんだから。だから、美姫から触れる方がまだ怖くないはずだと思う」
そうかも、しれないけれど……。
でも、固まったまま動けずにいる私を見てなのだろう。
広夢くんは小さく息を吐き出して、私に問いかける。
「……美姫は、男性恐怖症を克服するのは、嫌?」
「……え?」
「美姫が“変わりたい”と思うなら、頑張ってみて」
“変わりたい”というのは、私の男性恐怖症を克服する、ということ。
私、本当にこのままでいいの?
ずっと、過去に怯えたまま。
ずっと、あの日の恐怖にとらわれたまま。
それで、本当にいいの?
男性恐怖症を克服するっていうのは、きっと私にとって、私のあの過去を克服するっていうことなんだと思う。
ずっと、怖かった。
怖くて、逃げて、それでも怖くて……。
自分は一生、あの日の傷に怯えながら生きていくんだって思ってた。
“変わろう”と思うことさえ、できないくらいに……。
でも、広夢くんとなら、それができる……?
私は、“変われる”の──?
目の前の広夢くんは、優しく微笑んでくれている。
「大丈夫。美姫がその気なら、俺から美姫に触れることはないから。約束する」
恐る恐る右手を伸ばす。
カタカタと小刻みに震える右手を左手で押さえるけれど、左手も震えてるから、全くもって意味なかった。
大丈夫、怖くない。
怖くない、怖くない、怖くない……。
何度も心の中でそう唱えて、怖くない、と自分に言い聞かせる。
そっと私の右手の中指が、広夢くんがこっちに伸ばしている手の中指にツンっと触れる。
「あ……っ」
思わず引っ込めてしまいそうになった私の右手を、左手で押さえる。
心臓がバクバクとうるさいくらいに音を立てる。
きっと、私が男の人に触れたから。
でもここで負けたら、何も変わらない。
大丈夫、大丈夫。
怖くない、怖くない、怖くない……。
自分にエールを送りながら思いっきり指先を伸ばして、広夢くんの人さし指と中指を、きゅっとつかむ。
「ほら、できた。すげぇじゃん」
広夢くんに触れるまで、怖くて怖くてたまらなかったのに。
広夢くんが優しくそう言ってくれた言葉に、胸の中に、じんわりと達成感のようなものが広がっていく。
まだやっぱり怖いけれど、恐怖以外の感情が私の中に生まれたのも確かだった。
何だかその言い方は少し語弊があるような気がする。
それ以上に、あの記憶を連想させる闇が怖くて怖くて……。
広夢くんのことも怖くなかったわけじゃないけど、やむを得ずしたことだったのに……。
「でもそのとき、男=完全拒否っていうわけじゃないんだろうなって思ったわけさ。だから……」
「……っ」
不意にこちらに向かって手が伸びてきて、思わず身構える。
だけど、その手はダイニングテーブルの中央付近に静かに下ろされた。
「ちょっとずつ慣れる方法ってのがいいのかなって」
「それって……」
「美姫から触れて」
触れるって、広夢くんの手を、ってこと?
「そんなの、無理だよ……」
「無理じゃない。現に、美姫は俺に触れたことあるじゃん」
「あ、あれは……。じ、事故みたいなもので……」
「じゃあ、今もその美姫の言う事故が起こったと想定して」
そんな無茶言わないでよ……。
広夢くんの伸ばされた手を見つめたまま、動くことができずにいると、さらに広夢くんは意地悪を言ってくる。
「じゃあ、俺から美姫に触れようか?」
「それは……っ」
「それはさすがに美姫の気持ちがまいるだろ? 美姫は突然男から近づかれることにものすごい恐怖心を抱いてるんだから。だから、美姫から触れる方がまだ怖くないはずだと思う」
そうかも、しれないけれど……。
でも、固まったまま動けずにいる私を見てなのだろう。
広夢くんは小さく息を吐き出して、私に問いかける。
「……美姫は、男性恐怖症を克服するのは、嫌?」
「……え?」
「美姫が“変わりたい”と思うなら、頑張ってみて」
“変わりたい”というのは、私の男性恐怖症を克服する、ということ。
私、本当にこのままでいいの?
ずっと、過去に怯えたまま。
ずっと、あの日の恐怖にとらわれたまま。
それで、本当にいいの?
男性恐怖症を克服するっていうのは、きっと私にとって、私のあの過去を克服するっていうことなんだと思う。
ずっと、怖かった。
怖くて、逃げて、それでも怖くて……。
自分は一生、あの日の傷に怯えながら生きていくんだって思ってた。
“変わろう”と思うことさえ、できないくらいに……。
でも、広夢くんとなら、それができる……?
私は、“変われる”の──?
目の前の広夢くんは、優しく微笑んでくれている。
「大丈夫。美姫がその気なら、俺から美姫に触れることはないから。約束する」
恐る恐る右手を伸ばす。
カタカタと小刻みに震える右手を左手で押さえるけれど、左手も震えてるから、全くもって意味なかった。
大丈夫、怖くない。
怖くない、怖くない、怖くない……。
何度も心の中でそう唱えて、怖くない、と自分に言い聞かせる。
そっと私の右手の中指が、広夢くんがこっちに伸ばしている手の中指にツンっと触れる。
「あ……っ」
思わず引っ込めてしまいそうになった私の右手を、左手で押さえる。
心臓がバクバクとうるさいくらいに音を立てる。
きっと、私が男の人に触れたから。
でもここで負けたら、何も変わらない。
大丈夫、大丈夫。
怖くない、怖くない、怖くない……。
自分にエールを送りながら思いっきり指先を伸ばして、広夢くんの人さし指と中指を、きゅっとつかむ。
「ほら、できた。すげぇじゃん」
広夢くんに触れるまで、怖くて怖くてたまらなかったのに。
広夢くんが優しくそう言ってくれた言葉に、胸の中に、じんわりと達成感のようなものが広がっていく。
まだやっぱり怖いけれど、恐怖以外の感情が私の中に生まれたのも確かだった。
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