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第3章
◇男性恐怖症克服の第一歩-美姫Side-(4)
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「あれ? 広夢くんは?」
私が美術室を出る前まで広夢くんが作業をしていた机の上には、描きかけの親子のシーサーの絵が広げられたまま。
美術室の中にもいないみたいだし、どこに行っちゃったんだろう?
「ああ。夏川くんなら、さっき先生に呼ばれて出て行ったよ」
「そうなんだ」
「そんなに夏川くんのことが気になる?」
スッと席を立つと、こちらに歩いてくる持田くん。
「……え?」
持田くんにずんずんと距離を詰められて、思わずあとずさりしてしまう。
すると、トンと私の背に壁が触れた。
それでも距離を詰めてくる持田くんに、再びさっき感じた恐怖が襲い来る。
やだ、何が起こってるの?
怖い、怖い怖い怖い怖い……。
思わず反射的に身を縮こまらせるけれど、持田くんが私に触れてくる気配はなかった。
「僕が、怖い……?」
その声に恐る恐る目を開けて見上げると、どこか確信めいた瞳をした持田くんがこちらを見ている。
「え、……っと」
どうしよう。
普通にしなきゃいけないのに、喉からついて出たのは弱々しい震え声。
「僕が、じゃないか。男の人が怖いんだよね。僕、わかっちゃった」
優しい笑みはいつもの持田くんと変わらないのに、その声の雰囲気はやっぱり怖くて。
私の弱味がバレてしまったから、そう感じているのかも知れないけれど──。
「大丈夫。怖がらないで。篠原さんの嫌がることはしないから」
私の様子を察してなのか、まるで小さい子どもに言うみたいに優しい声色になる持田くん。
「篠原さんが、好きだから」
「……え?」
「やっぱり気づいてないか。僕は、篠原さんが好きだよ」
「……っ」
そんなこと、言われても……。
持田くんのことは嫌いじゃないけど、男の人はやっぱり怖いし、付き合うなんて考えられない。
「ごめんなさい、私……」
「……いいよ、すぐには無理だってわかってる。だけど、僕にもチャンスがほしい」
「……え?」
「僕のことを利用していいから、篠原さんの男性恐怖症を克服するお手伝いをさせてほしいんだ」
男性恐怖症を克服する、お手伝い……?
「で、無事に男性に対する苦手を克服できたとき。──僕のことも怖いと感じなくなったとき、僕と付き合うことを考えてほしい」
「で、でも、……」
「ダメかな……?」
そのとき、美術室内にスパコーンと乾いた音が響いた。
それと同時に持田くんは左へよろける。
「そんなのダメに決まってんだろうが!」
何事かと思えば、どうやら広夢くんが何かしらの冊子で持田くんの後頭部を叩いたみたい。
「何するんだよ。ってか、いつからそこにいたんだよ」
「いつからだろうな? お前の注意力が散漫なんじゃねーの?」
今いる美術室には、前側と後ろ側と二つの出入り口がある。
私が持田くんと話してたのは、美術室の後ろ側のドアのそば。
後ろ側のドアは私がさっき使ったときに閉めたままだけど、前側のドアは開いたままだった。
だからきっと広夢くんは、美術室の前側のドアから私たちに気づかれないように静かに入ってきたんだろう。
「く……っ」
持田くんが歯を食いしばって広夢くんを睨む。
「美姫のこと、困らせんな」
広夢くんも持田くんのことを睨み付けると、低い声で言い放った。
「別に困らせてるつもりじゃない。僕は、篠原さんのことを思って……。っていうか、夏川くんには関係ないだろ!?」
「あるね。だってそれ、俺の役回りだから」
「は?」
「俺が実行中なのに横取りしようとしてんじゃねーよ」
「……きゃっ」
そのとき、広夢くんに手首をつかまれて、ぐいっと引っ張られる。
その弾みで、私は持田くんの目の前から広夢くんの背後へと動かされた。
その手はすぐに離されて、一瞬わき起こった恐怖は広夢くんが私から離れたことにより消えていったけれど。広夢くんにつかまれていた場所が、じんじんと熱を持ってるようだった。
び、びっくりした……。
「ほら、さっき先生が参考になるから取りに来いって言いに来た去年の修学旅行のしおりも借りてきたから、さっさと続きやろうぜ」
だけど広夢くんは何でもないかのようにそう言うと、広夢くんが作業していた机の方へ行ってしまう。
持田くんはまだ何か言いたそうな顔をしていたけれど、
「篠原さん。僕、あきらめるつもりはないから。さっきの話、良かったら考えておいて」
私とすれ違い際、囁くような声でそう言ってイラスト作成の作業に戻った。
広夢くんに腕を掴まれたのはさっきの一瞬だったというのに。
その一瞬に感じた恐怖からも解放されてるというのに。
作業に戻ったあとも、どういうわけか、ドキドキと脈打つ鼓動がおさまらなかった。
今日は立て続けに男の人と接触してしまったし、さっきも私は広夢くんに助けてもらったとはいえ、あんな風に男の人に強く引っ張られるのはあのとき以来だから、私自身なかなか身体の緊張が取れないのかもしれないけれど……。
私が美術室を出る前まで広夢くんが作業をしていた机の上には、描きかけの親子のシーサーの絵が広げられたまま。
美術室の中にもいないみたいだし、どこに行っちゃったんだろう?
「ああ。夏川くんなら、さっき先生に呼ばれて出て行ったよ」
「そうなんだ」
「そんなに夏川くんのことが気になる?」
スッと席を立つと、こちらに歩いてくる持田くん。
「……え?」
持田くんにずんずんと距離を詰められて、思わずあとずさりしてしまう。
すると、トンと私の背に壁が触れた。
それでも距離を詰めてくる持田くんに、再びさっき感じた恐怖が襲い来る。
やだ、何が起こってるの?
怖い、怖い怖い怖い怖い……。
思わず反射的に身を縮こまらせるけれど、持田くんが私に触れてくる気配はなかった。
「僕が、怖い……?」
その声に恐る恐る目を開けて見上げると、どこか確信めいた瞳をした持田くんがこちらを見ている。
「え、……っと」
どうしよう。
普通にしなきゃいけないのに、喉からついて出たのは弱々しい震え声。
「僕が、じゃないか。男の人が怖いんだよね。僕、わかっちゃった」
優しい笑みはいつもの持田くんと変わらないのに、その声の雰囲気はやっぱり怖くて。
私の弱味がバレてしまったから、そう感じているのかも知れないけれど──。
「大丈夫。怖がらないで。篠原さんの嫌がることはしないから」
私の様子を察してなのか、まるで小さい子どもに言うみたいに優しい声色になる持田くん。
「篠原さんが、好きだから」
「……え?」
「やっぱり気づいてないか。僕は、篠原さんが好きだよ」
「……っ」
そんなこと、言われても……。
持田くんのことは嫌いじゃないけど、男の人はやっぱり怖いし、付き合うなんて考えられない。
「ごめんなさい、私……」
「……いいよ、すぐには無理だってわかってる。だけど、僕にもチャンスがほしい」
「……え?」
「僕のことを利用していいから、篠原さんの男性恐怖症を克服するお手伝いをさせてほしいんだ」
男性恐怖症を克服する、お手伝い……?
「で、無事に男性に対する苦手を克服できたとき。──僕のことも怖いと感じなくなったとき、僕と付き合うことを考えてほしい」
「で、でも、……」
「ダメかな……?」
そのとき、美術室内にスパコーンと乾いた音が響いた。
それと同時に持田くんは左へよろける。
「そんなのダメに決まってんだろうが!」
何事かと思えば、どうやら広夢くんが何かしらの冊子で持田くんの後頭部を叩いたみたい。
「何するんだよ。ってか、いつからそこにいたんだよ」
「いつからだろうな? お前の注意力が散漫なんじゃねーの?」
今いる美術室には、前側と後ろ側と二つの出入り口がある。
私が持田くんと話してたのは、美術室の後ろ側のドアのそば。
後ろ側のドアは私がさっき使ったときに閉めたままだけど、前側のドアは開いたままだった。
だからきっと広夢くんは、美術室の前側のドアから私たちに気づかれないように静かに入ってきたんだろう。
「く……っ」
持田くんが歯を食いしばって広夢くんを睨む。
「美姫のこと、困らせんな」
広夢くんも持田くんのことを睨み付けると、低い声で言い放った。
「別に困らせてるつもりじゃない。僕は、篠原さんのことを思って……。っていうか、夏川くんには関係ないだろ!?」
「あるね。だってそれ、俺の役回りだから」
「は?」
「俺が実行中なのに横取りしようとしてんじゃねーよ」
「……きゃっ」
そのとき、広夢くんに手首をつかまれて、ぐいっと引っ張られる。
その弾みで、私は持田くんの目の前から広夢くんの背後へと動かされた。
その手はすぐに離されて、一瞬わき起こった恐怖は広夢くんが私から離れたことにより消えていったけれど。広夢くんにつかまれていた場所が、じんじんと熱を持ってるようだった。
び、びっくりした……。
「ほら、さっき先生が参考になるから取りに来いって言いに来た去年の修学旅行のしおりも借りてきたから、さっさと続きやろうぜ」
だけど広夢くんは何でもないかのようにそう言うと、広夢くんが作業していた机の方へ行ってしまう。
持田くんはまだ何か言いたそうな顔をしていたけれど、
「篠原さん。僕、あきらめるつもりはないから。さっきの話、良かったら考えておいて」
私とすれ違い際、囁くような声でそう言ってイラスト作成の作業に戻った。
広夢くんに腕を掴まれたのはさっきの一瞬だったというのに。
その一瞬に感じた恐怖からも解放されてるというのに。
作業に戻ったあとも、どういうわけか、ドキドキと脈打つ鼓動がおさまらなかった。
今日は立て続けに男の人と接触してしまったし、さっきも私は広夢くんに助けてもらったとはいえ、あんな風に男の人に強く引っ張られるのはあのとき以来だから、私自身なかなか身体の緊張が取れないのかもしれないけれど……。
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