俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

文字の大きさ
上 下
28 / 79
第3章

◇男性恐怖症克服の第一歩-美姫Side-(4)

しおりを挟む
「あれ? 広夢くんは?」


 私が美術室を出る前まで広夢くんが作業をしていた机の上には、描きかけの親子のシーサーの絵が広げられたまま。

 美術室の中にもいないみたいだし、どこに行っちゃったんだろう?


「ああ。夏川くんなら、さっき先生に呼ばれて出て行ったよ」

「そうなんだ」

「そんなに夏川くんのことが気になる?」


 スッと席を立つと、こちらに歩いてくる持田くん。


「……え?」


 持田くんにずんずんと距離を詰められて、思わずあとずさりしてしまう。

 すると、トンと私の背に壁が触れた。


 それでも距離を詰めてくる持田くんに、再びさっき感じた恐怖が襲い来る。


 やだ、何が起こってるの?

 怖い、怖い怖い怖い怖い……。


 思わず反射的に身を縮こまらせるけれど、持田くんが私に触れてくる気配はなかった。


「僕が、怖い……?」


 その声に恐る恐る目を開けて見上げると、どこか確信めいた瞳をした持田くんがこちらを見ている。


「え、……っと」


 どうしよう。

 普通にしなきゃいけないのに、喉からついて出たのは弱々しい震え声。


「僕が、じゃないか。男の人が怖いんだよね。僕、わかっちゃった」


 優しい笑みはいつもの持田くんと変わらないのに、その声の雰囲気はやっぱり怖くて。

 私の弱味がバレてしまったから、そう感じているのかも知れないけれど──。


「大丈夫。怖がらないで。篠原さんの嫌がることはしないから」


 私の様子を察してなのか、まるで小さい子どもに言うみたいに優しい声色になる持田くん。


「篠原さんが、好きだから」

「……え?」

「やっぱり気づいてないか。僕は、篠原さんが好きだよ」

「……っ」


 そんなこと、言われても……。

 持田くんのことは嫌いじゃないけど、男の人はやっぱり怖いし、付き合うなんて考えられない。


「ごめんなさい、私……」

「……いいよ、すぐには無理だってわかってる。だけど、僕にもチャンスがほしい」

「……え?」

「僕のことを利用していいから、篠原さんの男性恐怖症を克服するお手伝いをさせてほしいんだ」


 男性恐怖症を克服する、お手伝い……?



「で、無事に男性に対する苦手を克服できたとき。──僕のことも怖いと感じなくなったとき、僕と付き合うことを考えてほしい」

「で、でも、……」

「ダメかな……?」


 そのとき、美術室内にスパコーンと乾いた音が響いた。

 それと同時に持田くんは左へよろける。


「そんなのダメに決まってんだろうが!」


 何事かと思えば、どうやら広夢くんが何かしらの冊子で持田くんの後頭部を叩いたみたい。


「何するんだよ。ってか、いつからそこにいたんだよ」


「いつからだろうな? お前の注意力が散漫なんじゃねーの?」


 今いる美術室には、前側と後ろ側と二つの出入り口がある。


 私が持田くんと話してたのは、美術室の後ろ側のドアのそば。


 後ろ側のドアは私がさっき使ったときに閉めたままだけど、前側のドアは開いたままだった。


 だからきっと広夢くんは、美術室の前側のドアから私たちに気づかれないように静かに入ってきたんだろう。


「く……っ」


 持田くんが歯を食いしばって広夢くんを睨む。


「美姫のこと、困らせんな」


 広夢くんも持田くんのことを睨み付けると、低い声で言い放った。


「別に困らせてるつもりじゃない。僕は、篠原さんのことを思って……。っていうか、夏川くんには関係ないだろ!?」

「あるね。だってそれ、俺の役回りだから」

「は?」

「俺が実行中なのに横取りしようとしてんじゃねーよ」

「……きゃっ」


 そのとき、広夢くんに手首をつかまれて、ぐいっと引っ張られる。


 その弾みで、私は持田くんの目の前から広夢くんの背後へと動かされた。


 その手はすぐに離されて、一瞬わき起こった恐怖は広夢くんが私から離れたことにより消えていったけれど。広夢くんにつかまれていた場所が、じんじんと熱を持ってるようだった。


 び、びっくりした……。



「ほら、さっき先生が参考になるから取りに来いって言いに来た去年の修学旅行のしおりも借りてきたから、さっさと続きやろうぜ」


 だけど広夢くんは何でもないかのようにそう言うと、広夢くんが作業していた机の方へ行ってしまう。


 持田くんはまだ何か言いたそうな顔をしていたけれど、


「篠原さん。僕、あきらめるつもりはないから。さっきの話、良かったら考えておいて」


 私とすれ違い際、囁くような声でそう言ってイラスト作成の作業に戻った。



 広夢くんに腕を掴まれたのはさっきの一瞬だったというのに。

 その一瞬に感じた恐怖からも解放されてるというのに。

 作業に戻ったあとも、どういうわけか、ドキドキと脈打つ鼓動がおさまらなかった。


 今日は立て続けに男の人と接触してしまったし、さっきも私は広夢くんに助けてもらったとはいえ、あんな風に男の人に強く引っ張られるのはあのとき以来だから、私自身なかなか身体の緊張が取れないのかもしれないけれど……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【短編集2】恋のかけらたち

美和優希
恋愛
魔法のiらんどの企画で書いた恋愛小説の短編集です。 甘々から切ない恋まで いろんなテーマで書いています。 【収録作品】 1.百年後の未来に、きみと(2020.04.24) →誕生日に、彼女からどこにでも行ける魔法のチケットをもらって──!? 魔法のiらんど企画「#つながる魔法で続きをつくろう」 で書いたSSです。 2.優しい鈴の音と鼓動(2020.11.08) →幼なじみの凪くんは最近機嫌が悪そうで意地悪で冷たい。嫌われてしまったのかと思っていたけれど──。 3.歌声の魔法(2020.11.15) →地味で冴えない女子の静江は、いつも麗奈をはじめとしたクラスメイトにいいように使われていた。そんなある日、イケメンで不真面目な男子として知られる城野に静江の歌と麗奈への愚痴を聞かれてしまい、麗奈をギャフンと言わせる作戦に参加させられることになって──!? 4.もしも突然、地球最後の日が訪れたとしたら……。(2020.11.23) →“もしも”なんて来てほしくないけれど、地球消滅の危機に直面した二人が最後に見せたものは──。 5.不器用なサプライズ(2021.01.08) →今日は彼女と付き合い始めて一周年の記念日。それなのに肝心のサプライズの切り出し方に失敗してしまって……。 *()内は初回公開・完結日です。 *いずれも「魔法のiらんど」で公開していた作品になります。サービス終了に伴い、ページ分けは当時のままの状態で公開しています。 *現在は全てアルファポリスのみの公開です。 アルファポリスでの公開日*2025.02.11 表紙画像は、イラストAC(がらくった様)の画像に文字入れをして使わせていただいてます。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

キケンな放課後☆生徒会室のお姫様!?

美和優希
恋愛
入学早々、葉山優芽は校内で迷子になったところを個性豊かなイケメン揃いの生徒会メンバーに助けてもらう。 一度きりのハプニングと思いきや、ひょんなことから紅一点として生徒会メンバーの一員になることになって──!? ☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆ 初回公開*2013.12.27~2014.03.08(他サイト) アルファポリスでの公開日*2019.11.23 *表紙イラストは、イラストAC(小平帆乃佳様)のイラスト素材に背景+文字入れをして使わせていただいてます。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

処理中です...