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第3章
◇男性恐怖症克服の第一歩-美姫Side-(3)
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*
もう、先生は何でこの二人をくっつけちゃうかな……。
各々の担当も決まり各グループごとの作業に取りかかることになったのだけれど、向かいの机で作業する広夢くんと持田くんの二人の間の会話は全く途絶える様子を見せない。
「それは何を描いた絵? 新種の怪物?」
「うるせっ。どっからどう見ても、シーサーだろうが! そう言うお前は、美術の成績5とか偉そうなこと言っときながら、小学生の遠足のしおりみたいな絵ばっか描きやがって!」
「これは、僕たちが旅行用のリュックを背負って歩いてるところ。夏川くんの頭じゃ理解できないか」
「お前、マジでムカつく」
作業をするために三人で美術室に移動してきてから、二人はずっとこの調子だ。
でも、ずっと目の前の二人のやり取りを見ていると、何かのコントにも見えなくもないんだよね。
「……何だかんだで、ある意味仲がいいとか?」
何気なくそんな二人を見ながら呟くと、
「いいわけねーだろ!?」
「いいわけないでしょ!?」
目の前の二人は全く同じタイミングでこちらを向いて、同時にそう言ってくる。
「あ、ご、ごめんなさいぃぃ……」
ですよね……。
でもある意味、息はあってると思うんだけどなぁ。
修学旅行のしおりのイラストは、主に表紙、日程スケジュールのページ用に4つ、裏表紙に入れる予定になっている。
今のところ、私が表紙、広夢くんが裏表紙、持田くんが日程スケジュール用のページのイラストを描いている。
「うっわ、美姫すげぇ。さすがというか、なんというか……」
そのとき、私の方の手元へと視線を移した広夢くんが、感嘆の声を漏らす。
「そ、そうかな……?」
修学旅行先が沖縄ということもあり、私は首里城を背景に、民族衣装を着た女の人を描いている。
「うん、まるでパンフレットから飛び出してきたみたいな絵だよ」
持田くんにまでそう言われて、二人に褒められたことで、何となく照れくさいような気持ちになる。
「……それは褒めすぎだと思うのですが」
先生から借りた沖縄のパンフレットの写真を参考に描いてみたけど、上手く描けてるか自分では判断がつかなかったから嬉しい。
「そんなことないって。あ、使ってないパンフレットがあれば僕にも貸してもらえる? 今描いてるのが終わったら参考にする」
「あ、うん……」
椅子の上にごっそり置いてあったパンフレットを、持田くんの方へ差し出す。
持田くんがそれらを受け取ろうとしたとき、持田くんの手が私の手を包み込むように触れた。
やだ。怖い……っ。
瞬間、全身に鳥肌が立って、思わずビクッと身震いして手を引っ込めてしまう。
それにより、バサバサバサっと机の上に広がる資料。
「あ、ご、ごめ……っ。わ、私……」
「いいよ、僕こそごめん。ちょっと触れちゃったね」
急いで散らばった資料をかき集めるも身体中に走った恐怖はすぐには取れなくて、資料を持つ私の指先は自分で見ても明らかなくらいに震えている。
「おま……っ! 今の、あからさまにわざとだろ!?」
その瞬間、広夢くんはイスから立ち上がって持田くんに怒鳴った。
「いきなり何? 証拠でもあるの?」
「じゃあ、わざとじゃないって証拠はあんのかよ!」
「いいよ、広夢くん……っ!」
広夢くんは、私が男の人が苦手なのを知ってるから、そう言ってくれてるんだよね?
「でも、」
「私は、大丈夫だから。持田くんを責めないで」
「わーったよ」
ドカリとイスに腰を下ろして、再びシーサーの絵を描き始める広夢くん。
ちょっと怒らせちゃったかな……。
「ごめんね。私、外の空気、吸ってくる。パンフレット、好きなの使ってくれていいから」
そうは言っても私の身体の震えはなかなか治まってくれない。
だから私は気分を変えるためにも、一旦作業していた美術室を出ることにした。
学校の廊下を足早に歩いているうちに、震えも動悸もおさまっていく。
私ったら、ちょっと手が触れただけなのに……。
でも、そのちょっとが耐えられないくらいに怖かった。
持田くんが意図的に私の手に触れてきたのかはわからない。
だけど、きっと嫌な思いさせちゃったよね……。
広夢くんのことも、怒らせちゃったみたいだし……。
また二人には改めて謝っておかないとな。
*
「篠原さん……!?」
再び美術室に戻ると、どういうわけか持田くんが一人机に向かって作業をしていた。
「あ……。さっきは、ごめんね」
「ううん、僕こそごめん。びっくりさせちゃったよね。もう平気?」
「……うん」
さっきの今だからか、いつもよりも少し身構えてしまうのは仕方ないこと。
でもそれ以外は普通にできている、はず。
もう、先生は何でこの二人をくっつけちゃうかな……。
各々の担当も決まり各グループごとの作業に取りかかることになったのだけれど、向かいの机で作業する広夢くんと持田くんの二人の間の会話は全く途絶える様子を見せない。
「それは何を描いた絵? 新種の怪物?」
「うるせっ。どっからどう見ても、シーサーだろうが! そう言うお前は、美術の成績5とか偉そうなこと言っときながら、小学生の遠足のしおりみたいな絵ばっか描きやがって!」
「これは、僕たちが旅行用のリュックを背負って歩いてるところ。夏川くんの頭じゃ理解できないか」
「お前、マジでムカつく」
作業をするために三人で美術室に移動してきてから、二人はずっとこの調子だ。
でも、ずっと目の前の二人のやり取りを見ていると、何かのコントにも見えなくもないんだよね。
「……何だかんだで、ある意味仲がいいとか?」
何気なくそんな二人を見ながら呟くと、
「いいわけねーだろ!?」
「いいわけないでしょ!?」
目の前の二人は全く同じタイミングでこちらを向いて、同時にそう言ってくる。
「あ、ご、ごめんなさいぃぃ……」
ですよね……。
でもある意味、息はあってると思うんだけどなぁ。
修学旅行のしおりのイラストは、主に表紙、日程スケジュールのページ用に4つ、裏表紙に入れる予定になっている。
今のところ、私が表紙、広夢くんが裏表紙、持田くんが日程スケジュール用のページのイラストを描いている。
「うっわ、美姫すげぇ。さすがというか、なんというか……」
そのとき、私の方の手元へと視線を移した広夢くんが、感嘆の声を漏らす。
「そ、そうかな……?」
修学旅行先が沖縄ということもあり、私は首里城を背景に、民族衣装を着た女の人を描いている。
「うん、まるでパンフレットから飛び出してきたみたいな絵だよ」
持田くんにまでそう言われて、二人に褒められたことで、何となく照れくさいような気持ちになる。
「……それは褒めすぎだと思うのですが」
先生から借りた沖縄のパンフレットの写真を参考に描いてみたけど、上手く描けてるか自分では判断がつかなかったから嬉しい。
「そんなことないって。あ、使ってないパンフレットがあれば僕にも貸してもらえる? 今描いてるのが終わったら参考にする」
「あ、うん……」
椅子の上にごっそり置いてあったパンフレットを、持田くんの方へ差し出す。
持田くんがそれらを受け取ろうとしたとき、持田くんの手が私の手を包み込むように触れた。
やだ。怖い……っ。
瞬間、全身に鳥肌が立って、思わずビクッと身震いして手を引っ込めてしまう。
それにより、バサバサバサっと机の上に広がる資料。
「あ、ご、ごめ……っ。わ、私……」
「いいよ、僕こそごめん。ちょっと触れちゃったね」
急いで散らばった資料をかき集めるも身体中に走った恐怖はすぐには取れなくて、資料を持つ私の指先は自分で見ても明らかなくらいに震えている。
「おま……っ! 今の、あからさまにわざとだろ!?」
その瞬間、広夢くんはイスから立ち上がって持田くんに怒鳴った。
「いきなり何? 証拠でもあるの?」
「じゃあ、わざとじゃないって証拠はあんのかよ!」
「いいよ、広夢くん……っ!」
広夢くんは、私が男の人が苦手なのを知ってるから、そう言ってくれてるんだよね?
「でも、」
「私は、大丈夫だから。持田くんを責めないで」
「わーったよ」
ドカリとイスに腰を下ろして、再びシーサーの絵を描き始める広夢くん。
ちょっと怒らせちゃったかな……。
「ごめんね。私、外の空気、吸ってくる。パンフレット、好きなの使ってくれていいから」
そうは言っても私の身体の震えはなかなか治まってくれない。
だから私は気分を変えるためにも、一旦作業していた美術室を出ることにした。
学校の廊下を足早に歩いているうちに、震えも動悸もおさまっていく。
私ったら、ちょっと手が触れただけなのに……。
でも、そのちょっとが耐えられないくらいに怖かった。
持田くんが意図的に私の手に触れてきたのかはわからない。
だけど、きっと嫌な思いさせちゃったよね……。
広夢くんのことも、怒らせちゃったみたいだし……。
また二人には改めて謝っておかないとな。
*
「篠原さん……!?」
再び美術室に戻ると、どういうわけか持田くんが一人机に向かって作業をしていた。
「あ……。さっきは、ごめんね」
「ううん、僕こそごめん。びっくりさせちゃったよね。もう平気?」
「……うん」
さっきの今だからか、いつもよりも少し身構えてしまうのは仕方ないこと。
でもそれ以外は普通にできている、はず。
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