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第2章
◆あいつのことは渡さない-広夢Side-(3)
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『そ、そんなの……っ、あなたには関係ないでしょ』
あのときの美姫から感じたのは、明らかな拒絶。
俺は結人にも言われたけれど、きっと美姫の踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまったのだろう。
生徒会のスポーツ大会当日の準備があるからと朝早く家を出ていった美姫とは、実は今日顔を合わせるのは初めて。
俺が起きたときには、まだ温かさの残った朝ごはんが机の上に並べられていた。
昨日の今日でそれにも驚いたけれど、学校でこんな風に美姫から俺に話しかけてくるって何気に初めてのことだ。
俺は昨日のことで、美姫に嫌われたわけではなかったってことなのか?
「あのさ、昨日は……」
「昨日はごめんね!」
嫌われてようが嫌われてなかろうが、謝るくらいはさせてもらおうと思って、口を開きかけたとき。俺の言葉を遮るように、美姫がそう言った。
まさか美姫に謝られるなんて思ってなかった俺は、一瞬ぽかんとしてしまう。
「や、あんなに冷たい言い方するつもり、なかったのに。広夢くんに優しくしてもらっておきながら、あんなこと……」
そんな中、美姫は一生懸命に言葉を紡ぐ。
学園のヒメってイメージからは想像つかないようなこんな弱々しい姿は、きっとこの学園内では俺だけが知ってる美姫の姿だ。
「いいよ。俺だって調子乗って美姫のことに踏み込みすぎたんだし。気分悪くさせてごめん」
ふるふると小さく首を横にふる美姫。
俺はいいって言ってるのに、納得いかないのか?
頑固だな。そこもまた、可愛いんだけど。
頑なに自分が悪いんだという姿勢を崩さない美姫に、ほんの少し歩み寄る。
俺がうつむいてしまった美姫に顔を上げるように声をかけるより先に、美姫が顔を上げた。
「……っあ」
きっと美姫の口から少し驚いた声が漏れたのは、きっと俺が今の間に美姫と距離を詰めていたことに、美姫は気づいてなかったのだろう。
だけど、一歩あとずさりしそうになったその足を踏みとどめて、美姫は小さく口を開いた。
「……わ、私のこと、嫌いにならないで」
「……え」
耳が拾った言葉は、今まで聞いた彼女の声のどれよりも弱々しくて、一瞬聞き間違いかと思った。
「広夢くんのこと、嫌いじゃないから。嫌われたく、ない……」
こいつ、まさか、無自覚……?
ほんの少し潤んだ瞳に、少し赤みを帯びた頬。
こんなの、反則だろ。
思わず美姫のことを抱きしめたい衝動に駆られるけれど、グッとそれを抑え込む。
「……嫌いになんてならねーから」
嫌いになんて、なるものか。
むしろ、俺は────。
「ありがとう……」
「──篠原さん、ここにいたんだ」
そこでまるで美姫の声を阻むように、無情にも第三者の声が割り込まれた。
その声に美姫はビクッと小さく両肩を揺らして、その声の主の方を見る。
「あ、持田くん。どうしたの?」
またお前かよ。
何だか邪魔された気分で、さらに持田に対するイライラが募る。
そんな俺とは対照的に、持田は澄ました表情で美姫に言う。
「午後からの運営について、先生が再度確認したいことがあるから体育教官室にすぐ来てほしいって」
「わかった。広夢くん、ごめんね!」
美姫は俺に小さく両手を合わせると、急いでその場をあとにした。
美姫の走っていった方向をぼんやり眺めていると、何となく視線を感じて振り返る。
すると持田はさっきと同じ位置に立ったまま、何か言いたげな雰囲気で俺を見ていた。
「……何だよ」
「別に」
フッとまるで俺をあざ笑うようにそう言うと、持田は美姫が走っていった方向へ駆けていった。
何あれ。すっげぇムカつく。
生徒会長かなんだか知らないが、嫌な感じな奴だ。
でも、直感でわかってしまった。
あいつは、美姫が好きなんだと。
そう思うだけで、異様に腹立たしさが増したのだった。
気分転換に外に出たはずなのに、余計にイライラして体育館内に戻った俺。
「は? 何で余計に機嫌悪くなってんだよ」
結人に真っ先にそう言われたが、説明するのもイライラするから無視しておいた。
美姫のテニスを見に行こうと結人に誘われたときは若干心が揺れたが、俺らのクラスの女子テニスは1回戦敗退だったらしい。
それで俺らの2回戦のときに試合を観に来てくれてたんだな。
運動もできる美姫なら個人戦なら勝ち残れただろうに、クラスごとのグループ戦だから仕方ない。
それからの俺らの試合は順調に勝ち進み、ついに2年生男子バスケの決勝戦──。
試合開始の挨拶でコート中央に整列したとき、俺は思わず眉間にシワが寄るのを感じた。
何でこいつがいるんだよ……。
またこいつと顔を合わせるなんて、最悪……。
俺の目の前に立っているのは、さっきのイラつきの原因の持田。
そういえばこいつ、隣のクラスだったんだっけ。
俺があからさまに持田のことを睨み付けていると、それに気づいた結人に「顔、顔」と肘でつつかれた。
きっと小声で忠告してくるくらいに、俺が怖い顔をしてたってことなんだろうな。
あのときの美姫から感じたのは、明らかな拒絶。
俺は結人にも言われたけれど、きっと美姫の踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまったのだろう。
生徒会のスポーツ大会当日の準備があるからと朝早く家を出ていった美姫とは、実は今日顔を合わせるのは初めて。
俺が起きたときには、まだ温かさの残った朝ごはんが机の上に並べられていた。
昨日の今日でそれにも驚いたけれど、学校でこんな風に美姫から俺に話しかけてくるって何気に初めてのことだ。
俺は昨日のことで、美姫に嫌われたわけではなかったってことなのか?
「あのさ、昨日は……」
「昨日はごめんね!」
嫌われてようが嫌われてなかろうが、謝るくらいはさせてもらおうと思って、口を開きかけたとき。俺の言葉を遮るように、美姫がそう言った。
まさか美姫に謝られるなんて思ってなかった俺は、一瞬ぽかんとしてしまう。
「や、あんなに冷たい言い方するつもり、なかったのに。広夢くんに優しくしてもらっておきながら、あんなこと……」
そんな中、美姫は一生懸命に言葉を紡ぐ。
学園のヒメってイメージからは想像つかないようなこんな弱々しい姿は、きっとこの学園内では俺だけが知ってる美姫の姿だ。
「いいよ。俺だって調子乗って美姫のことに踏み込みすぎたんだし。気分悪くさせてごめん」
ふるふると小さく首を横にふる美姫。
俺はいいって言ってるのに、納得いかないのか?
頑固だな。そこもまた、可愛いんだけど。
頑なに自分が悪いんだという姿勢を崩さない美姫に、ほんの少し歩み寄る。
俺がうつむいてしまった美姫に顔を上げるように声をかけるより先に、美姫が顔を上げた。
「……っあ」
きっと美姫の口から少し驚いた声が漏れたのは、きっと俺が今の間に美姫と距離を詰めていたことに、美姫は気づいてなかったのだろう。
だけど、一歩あとずさりしそうになったその足を踏みとどめて、美姫は小さく口を開いた。
「……わ、私のこと、嫌いにならないで」
「……え」
耳が拾った言葉は、今まで聞いた彼女の声のどれよりも弱々しくて、一瞬聞き間違いかと思った。
「広夢くんのこと、嫌いじゃないから。嫌われたく、ない……」
こいつ、まさか、無自覚……?
ほんの少し潤んだ瞳に、少し赤みを帯びた頬。
こんなの、反則だろ。
思わず美姫のことを抱きしめたい衝動に駆られるけれど、グッとそれを抑え込む。
「……嫌いになんてならねーから」
嫌いになんて、なるものか。
むしろ、俺は────。
「ありがとう……」
「──篠原さん、ここにいたんだ」
そこでまるで美姫の声を阻むように、無情にも第三者の声が割り込まれた。
その声に美姫はビクッと小さく両肩を揺らして、その声の主の方を見る。
「あ、持田くん。どうしたの?」
またお前かよ。
何だか邪魔された気分で、さらに持田に対するイライラが募る。
そんな俺とは対照的に、持田は澄ました表情で美姫に言う。
「午後からの運営について、先生が再度確認したいことがあるから体育教官室にすぐ来てほしいって」
「わかった。広夢くん、ごめんね!」
美姫は俺に小さく両手を合わせると、急いでその場をあとにした。
美姫の走っていった方向をぼんやり眺めていると、何となく視線を感じて振り返る。
すると持田はさっきと同じ位置に立ったまま、何か言いたげな雰囲気で俺を見ていた。
「……何だよ」
「別に」
フッとまるで俺をあざ笑うようにそう言うと、持田は美姫が走っていった方向へ駆けていった。
何あれ。すっげぇムカつく。
生徒会長かなんだか知らないが、嫌な感じな奴だ。
でも、直感でわかってしまった。
あいつは、美姫が好きなんだと。
そう思うだけで、異様に腹立たしさが増したのだった。
気分転換に外に出たはずなのに、余計にイライラして体育館内に戻った俺。
「は? 何で余計に機嫌悪くなってんだよ」
結人に真っ先にそう言われたが、説明するのもイライラするから無視しておいた。
美姫のテニスを見に行こうと結人に誘われたときは若干心が揺れたが、俺らのクラスの女子テニスは1回戦敗退だったらしい。
それで俺らの2回戦のときに試合を観に来てくれてたんだな。
運動もできる美姫なら個人戦なら勝ち残れただろうに、クラスごとのグループ戦だから仕方ない。
それからの俺らの試合は順調に勝ち進み、ついに2年生男子バスケの決勝戦──。
試合開始の挨拶でコート中央に整列したとき、俺は思わず眉間にシワが寄るのを感じた。
何でこいつがいるんだよ……。
またこいつと顔を合わせるなんて、最悪……。
俺の目の前に立っているのは、さっきのイラつきの原因の持田。
そういえばこいつ、隣のクラスだったんだっけ。
俺があからさまに持田のことを睨み付けていると、それに気づいた結人に「顔、顔」と肘でつつかれた。
きっと小声で忠告してくるくらいに、俺が怖い顔をしてたってことなんだろうな。
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