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第2章
◆あいつのことは渡さない-広夢Side-(2)
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俺の記憶が正しければ、美姫はこのスポーツ大会ではテニスに出てるはずだ。
まさか、俺のことを見に来てくれたとか?
そんなわけもなく、美姫はこちらではなく横を向いて、隣に立つ宮園と何か話しているようだったけれど。
まぁさっきの俺の名前を呼ぶ声も、美姫のものではなかったしな……。
でも今の俺のシュート、見てくれたのかな?
柄にもなくそんな乙女のようなことを思いながら、ちっとも俺のことを視界に入れようとしない美姫のことを見ていると、不意に彼女がこちらを向いた。
目が合った瞬間、バチっと音がするようだった。
なんとも言えない緊張感が俺を包み込む。
思わず美姫に向かって手を掲げかけたとき、
「……広夢くん、危ない」
なんとなく彼女の口の形がそう言ったような気がした。
「……てぇっ」
そのとき、俺の左の頬骨付近に、ドカッと衝撃が走る。
「おい広夢! 何ぼやっとしてんだよ! まだ試合、終わってねーぞ!?」
ボールの飛んできた方向から、結人が怒鳴りながらこちらに走ってくる。
幸いにも俺の頬で弾かれたボールは、近くにいた他のチームメイトが守ってくれたからよかったものの。どうやら俺は、真横から固いバスケットボールを受け止めたようだ。
美姫が見てる前で、かっこ悪ぃ……。
実際この試合には勝ったし、試合中何度も俺はシュートを決めたけれど、このたった一回の失態のせいで何だか気分は浮かないままだった。
『ヒメに見惚れすぎだろ』
試合が終わったあと、俺は散々結人にからかわれた。
あのとき俺が何に意識を奪われていたのか、どうやら結人にはお見通しだったようだ。
美姫の前であんな大失態を晒してしまったし、マジで最悪。
結人にからかわれるのにも疲れて、俺は一人体育館から出てブラブラとする。
「……あ」
そのとき、二人の男女の姿が俺の目に留まった。
またしても、見たくないものを見てしまったな……。
無意識のうちに、俺はテニスコートの方に来ていたようだ。
一昨日の夜から昨日まで降り続いた雨を微塵も感じさせないテニスコートでは、ラケットにボールが当たる乾いた音が、耳障りのように響いている。
そのテニスコートの周りに所々に設置されたベンチ。
そのひとつに、美姫と持田が並んで座っていたのだ。
何かしら白い冊子を持った美姫の表情はわからない。
だけどそんな美姫の隣で、一人楽しそうに笑っている持田の顔が飛び込んでくる。
「ヒメと生徒会長。並ぶと、美男美女って感じで素敵よね~」
「本当、お似合いだよね。付き合ってないのかな~?」
どこからともなくそんな声が聞こえて、思わず睨み付けてしまう。
すると1年生の女の子二人が、ビクッと肩を震わせたのが見えた。
ああ、もう、俺は何やってんだ……。
別にこの女の子二人に何の罪もないのに、俺も一体何にイライラしてんだよ……。
「ビックリした~……。けど今の人、めっちゃかっこよくなかった!? 私、生徒会長より好みかも」
そそくさと女の子二人に背を向けたとき、どちらかがそう言ってるのが聞こえて、俺は逃げるようにその場をあとにした。
「……あ」
少し歩いて顔を上げたとき、美姫もさっきいたベンチからこちらに歩いてきていたようで、思わず目が合った。
今の間に持田との話が終わったのか?
「ひ、広夢く、ん……」
少し恥ずかしそうに、弱々しく俺の名前を呼ぶ美姫。
美姫が俺に気がないことなんて、重々承知してるけどさ。
頬を少し赤くしながら顔をそらすところとか、勘違いするからやめろよな。
「その、顔、大丈夫?」
「……顔?」
「あ、っと。その、ボールが結構強くぶつかってたから」
「あー平気。あれくらいどうってことねぇよ」
そういや、美姫に最高にかっこ悪いところ見られてたんだっけな。
持田とのツーショットにイライラして忘れかけてたけど。
「そっ、か。ならよかった」
もともと俺としゃべるとき、たどたどしかった美姫の言葉が余計に酷くなってるのは、きっと気のせいじゃないと思う。
やっぱり昨日のことが原因なのだろう。
まさか、俺のことを見に来てくれたとか?
そんなわけもなく、美姫はこちらではなく横を向いて、隣に立つ宮園と何か話しているようだったけれど。
まぁさっきの俺の名前を呼ぶ声も、美姫のものではなかったしな……。
でも今の俺のシュート、見てくれたのかな?
柄にもなくそんな乙女のようなことを思いながら、ちっとも俺のことを視界に入れようとしない美姫のことを見ていると、不意に彼女がこちらを向いた。
目が合った瞬間、バチっと音がするようだった。
なんとも言えない緊張感が俺を包み込む。
思わず美姫に向かって手を掲げかけたとき、
「……広夢くん、危ない」
なんとなく彼女の口の形がそう言ったような気がした。
「……てぇっ」
そのとき、俺の左の頬骨付近に、ドカッと衝撃が走る。
「おい広夢! 何ぼやっとしてんだよ! まだ試合、終わってねーぞ!?」
ボールの飛んできた方向から、結人が怒鳴りながらこちらに走ってくる。
幸いにも俺の頬で弾かれたボールは、近くにいた他のチームメイトが守ってくれたからよかったものの。どうやら俺は、真横から固いバスケットボールを受け止めたようだ。
美姫が見てる前で、かっこ悪ぃ……。
実際この試合には勝ったし、試合中何度も俺はシュートを決めたけれど、このたった一回の失態のせいで何だか気分は浮かないままだった。
『ヒメに見惚れすぎだろ』
試合が終わったあと、俺は散々結人にからかわれた。
あのとき俺が何に意識を奪われていたのか、どうやら結人にはお見通しだったようだ。
美姫の前であんな大失態を晒してしまったし、マジで最悪。
結人にからかわれるのにも疲れて、俺は一人体育館から出てブラブラとする。
「……あ」
そのとき、二人の男女の姿が俺の目に留まった。
またしても、見たくないものを見てしまったな……。
無意識のうちに、俺はテニスコートの方に来ていたようだ。
一昨日の夜から昨日まで降り続いた雨を微塵も感じさせないテニスコートでは、ラケットにボールが当たる乾いた音が、耳障りのように響いている。
そのテニスコートの周りに所々に設置されたベンチ。
そのひとつに、美姫と持田が並んで座っていたのだ。
何かしら白い冊子を持った美姫の表情はわからない。
だけどそんな美姫の隣で、一人楽しそうに笑っている持田の顔が飛び込んでくる。
「ヒメと生徒会長。並ぶと、美男美女って感じで素敵よね~」
「本当、お似合いだよね。付き合ってないのかな~?」
どこからともなくそんな声が聞こえて、思わず睨み付けてしまう。
すると1年生の女の子二人が、ビクッと肩を震わせたのが見えた。
ああ、もう、俺は何やってんだ……。
別にこの女の子二人に何の罪もないのに、俺も一体何にイライラしてんだよ……。
「ビックリした~……。けど今の人、めっちゃかっこよくなかった!? 私、生徒会長より好みかも」
そそくさと女の子二人に背を向けたとき、どちらかがそう言ってるのが聞こえて、俺は逃げるようにその場をあとにした。
「……あ」
少し歩いて顔を上げたとき、美姫もさっきいたベンチからこちらに歩いてきていたようで、思わず目が合った。
今の間に持田との話が終わったのか?
「ひ、広夢く、ん……」
少し恥ずかしそうに、弱々しく俺の名前を呼ぶ美姫。
美姫が俺に気がないことなんて、重々承知してるけどさ。
頬を少し赤くしながら顔をそらすところとか、勘違いするからやめろよな。
「その、顔、大丈夫?」
「……顔?」
「あ、っと。その、ボールが結構強くぶつかってたから」
「あー平気。あれくらいどうってことねぇよ」
そういや、美姫に最高にかっこ悪いところ見られてたんだっけな。
持田とのツーショットにイライラして忘れかけてたけど。
「そっ、か。ならよかった」
もともと俺としゃべるとき、たどたどしかった美姫の言葉が余計に酷くなってるのは、きっと気のせいじゃないと思う。
やっぱり昨日のことが原因なのだろう。
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