俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

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第2章

◆あいつのことは渡さない-広夢Side-(1)

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「お前、絶対バカだろ。誰にでも言いたくないことのひとつやふたつあるだろ」


 そんな容赦ない言葉を結人に突きつけられて、再び深いため息を吐き出す。


 体育館の中から漏れる熱気と声援とボールの跳ねる音は、体育館裏にあるこの芝生の広場にもよく聞こえている。


 昨夜まで降り続いた雨は夜中のうちに止んで、スポーツ大会の今日は気持ちいいくらいの晴天になった。


 俺も結人も、このスポーツ大会ではバスケに出ることになっている。


 1回戦を無事に突破して2回戦に進むことになった俺は、その空いた時間に昨夜の美姫とのことを結人に話していたんだ。


「……ていうか、そこまでヒメが知られたくないことって何? 何か気になるところばかり伏せられて、余計気になるんですけど」

「あ? さすがにそれを俺の口から言うわけにはいかねぇだろ」


 もちろん美姫が男が苦手なことも、暗闇が苦手なことも伏せて話している。

 男が苦手なことに関して言えば、美姫からも誰にも言うなと言われているし……。


 とはいえ、そういった話を学校内で聞いたことがないこと、そして理由を聞いて怒らせてしまったことから考えても、きっとよっぽど美姫にとって触れられたくないことだったんだろう。


 ちょっと考えたらわかりそうなものなのに、そのことに気づけなかった自分を呪いたくなる。


「なら尚更お前が首突っ込んでいい話じゃないのは明らかじゃん。相手はあの学園のヒメだろ?」

「そうだけどさ。俺としては、少しは美姫に近づけたと思ったんだよ」


 停電になったとき、震えながらも俺をすがった小さな手。

 恐る恐るでも俺の小指を美姫が握りしめてきたときは驚いたが、どういうわけか俺の中にデジャヴのような感覚も走った。

 あのデジャヴ感は、一体何だったのだろう。


 思い返す度に、あのときのように俺にすがる美姫の姿ばかりが脳内に再生されては身悶えてしまって、全くもってそのデジャヴの正体は思い出せないのだが。


 ……ったく、可愛いすぎだろ。


 けれどあのときの美姫の姿から少しは俺に気を許してくれたのかと思いきや、そうではなかったようだ。

 期待させられた分、突き放されたときのダメージは結構なものだった。


「何だそれ。広夢って愛想よく女の相手してるわりに、どの子とも深く関わることはない感じだったのにさ。お前、マジでヒメに惚れてんじゃねーの?」

「……は? だから何でそうなるんだよ」


 俺が美姫に、惚れてる……?

 前も結人に似たようなことを言われたけど、そんなに結人は俺に美姫のことを好きにさせたいのだろうか。


「や。普通にお前のこと見てたらわかるっての」

「あ、いたいた! 広夢、結人! 2回戦始まるぞー!」


 そのとき、良くも悪くも同じバスケに出ることになっているクラスメイトの男子から声がかかる。


「ったく、もう順番回ってきたのかよ……」


 思わず本音を口に出しながら、体育館の近くに建つ時計塔を見る。

 すると、思いの外俺と結人がここで長々と話していただけのようだった。


「そんなこと言うなよな~。一番の戦力のお前らがいないと、俺らのクラスの優勝が遠退くだろ~?」


 ほらほら、とおだてられながら、俺は結人とともに体育館の中へと戻ることにした。




 ピーーーーーーーー。

 試合開始の笛の音が鳴り響く。


 それと同時に、結人の手が最初にバスケットボールに触れた。


 すかさずそれを拾って、ゴール付近までドリブルする俺らのクラスの男子。


 だけど、相手のクラスの連中も黙って見てるわけではない。


 シュートのポーズを取ろうとしたところ、一瞬にして相手連中に囲まれた男子はシュートをあきらめる。


「広夢ーっ!」


 そして、ちょうどノーマークだった俺を見つけて、こちらにパスを放つ。


 軽々とそれを受け取った俺は数回ドリブルすると、慌ててこちらに駆けてくる相手連中どもを横目に、スリーポイントのラインからシュートを放った。


 大きく弧を描いてゴールネットに吸い込まれるバスケットボール。


 瞬間、キャアアアアアアっと二階からこの試合を見てくれてるのであろう、女子の悲鳴のような声が響き渡る。


「……しゃあっ!」


 俺はそんなにぎやかな声を聞きながらその場でガッツポーズを作った。


 なんとなく面倒臭くて部活とか入ってなかったけど、もともと運動は嫌いじゃない。

 それにやるなら手を抜くのは嫌いなので、本気で勝負するのが俺のモットーだ。


 結人をはじめチームメイトの皆とハイタッチをして、次の相手チームからのボールに備える。


 滑り出しから良好だった俺らの試合は、点を取られることもあったが、常にリードを保っていた。


 俺が何回目かのシュートを決めたときだった。


「広夢くーーーーんっ!」


 一際大きな声で、俺の名前を呼ぶ女子の声が聞こえた。


 このざわつきの中でその声が聞こえたのは、本当にたまたまだったんだと思う。


 ふと、そっちの方へと顔を上げると。


「……美姫」


 俺の目には、美姫の姿が飛び込んできた。
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