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第2章
◇暗闇の中で-美姫Side-(4)
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*
……うぅ、気まずい。
あのお風呂での一件から1日。
何だか広夢くんと顔をあわせづらい。
広夢くんはあのあと何回も謝ってくれたけど、私自身、あんなことがあって、どんな風に広夢くんと接していいのかわからなかった。
「別に普通でいいと思うよ」
「……え?」
「広夢くんのこと。もちろん、美姫も一言謝った方がいいと思うけど」
次の日、生憎の雨空を眺めながらそう助言してくれるのは、明日香。
「それでいいのかな?」
「まぁ美姫が広夢くんと仲良くしたいわけじゃないなら、放置でもいいとは思うよ。口実ができて、男の人が苦手な美姫には好都合かもしれないし。ただ、広夢くんは美姫に嫌われたと思って傷ついてるかもしれないけどね」
頭の中を掠めるのは、一緒に住む約束を取り決めたときの広夢くんの姿。
“一緒に住むならさ、仲良くしたいじゃん”
無邪気にそう言った彼を、決して悪い人だと思えなかった。
「ごめん」と何回も謝り倒してくる広夢くんに対しても、顔をそらすことしかできなかった私。
現に今も同じ教室にいる広夢くんが元気なそうに見えているのも、私のせいなのかもしれない。
「だって間違いなく広夢くんのあのテンションの低さは美姫のせいだと思うし」
「……ぃ、えっ!?」
な、なんで明日香に私の考えてることがわかったの!?
「美姫の考えてることは何となくわかるよ。私を誰だと思ってるの」
「そ、そうでした……」
中学からの付き合いの明日香は、学園のみんなが私のことをヒメと呼んで一線引いていく中で変わらず私のそばにいてくれた。
そんな明日香は、この学園で一番私のことをわかってくれる大切な親友だ。
だからなのか、それともただ単に私がわかりやすいのか、明日香には私の考えていることを見抜かれることが多い。
考えすぎかもしれないとは思っていたけれど、明日香にまで広夢くんの元気のない理由が私にあるなんて言われると、何とも言えない罪悪感に襲われる。
「でも美姫を見てる感じ、広夢くんに嫌われることを望んでるわけじゃないんでしょ?」
私は明日香の言葉に小さくうなずく。
広夢くんのことは、必要以上に近づかれると怖いけど嫌じゃない。
むしろ優しい人なんじゃないかと思っているだけに、広夢くんを傷つけてしまうことは、私も辛い。
「珍しいね。たいてい美姫ってどんな男子も断固拒否って感じだったのにね」
「え、そう?」
「そうそう。美姫としゃべってるところを見る男子って、生徒会長くらいだったし」
「それは生徒会で一緒だから。話さないと仕事にならないし……」
確かに今までは、男の人と関わること自体で自分の中が一杯になって、こんな風に相手のことまで考える余裕なんてなかったもんな。
「……とりあえず、今夜広夢くんに謝ることからはじめるよ」
そう自分にも言い聞かせるように言ったのは、昼休みのこと。
【今夜は結人のところで夕飯食って帰ります】
だけど、その日の放課後になる頃には、広夢くんからそんなメッセージが入っていた。
広夢くんは初日のお弁当のおかずのハンバーグをとても喜んでくれてたから、今夜はハンバーグにして、そのとき広夢くんに謝ろうと思ってたのにな。
深い意味なんてなく、ただ単純に広夢くんは江畑くんの家に遊びに行っていて、そこでご馳走になって帰ってくる。
広夢くんと江畑くんは誰が見ても仲がいいし、全然おかしなことではないけれど……。
「……嫌われちゃったのかな」
気まずくなった次の日というタイミングなのもあって、思わずネガティブな言葉が口をついて出た。
そもそも男の人が苦手で、広夢くんのことも傷つけておきながら、そんな風に思う資格なんて私にはないのかもしれないけれど……。
でも、何でだろう?
やっぱりいきなり異様に近づかれると怖いって感じてしまうけど、嫌われたくないって思ってる。
自分でもわがままだと思うし、そんな自分が嫌になる。
早々夜ご飯もお風呂も済ませて、午後8時前。
……遅いなぁ。
夜ご飯をご馳走になってるなら、仕方ないのだろうけれど。
昨日降り始めた雨は、何回も強くなったり小雨になったり止んだりを繰り返している。
天気予報によると、この雨を降らしている低気圧がほぼ動くことなく停滞しているんだとか。
今日の放課後は、明日のスポーツ大会の直前の打ち合わせをしたけれど、晴れてくれる気がしない。
とりあえず雨天中止になった場合は通常授業に振り替えられるため、私はリビングのダイニングテーブルで英語の予習を進めることにした。
広夢くんがこの家に来てからは自分の部屋で予習復習をするのが日課になっていたけれど、今日はここで広夢くんの帰りを待とうと思ったんだ。
けれど意識して集中しようとしても、余計な心配ばかりが頭を掠めて全然進まない……。
そうしているうちに、外はゴロゴロと雷が鳴りはじめる。
かろうじてまだ雨は強まってないものの、広夢くんの帰りが心配になってくる。
……うぅ、気まずい。
あのお風呂での一件から1日。
何だか広夢くんと顔をあわせづらい。
広夢くんはあのあと何回も謝ってくれたけど、私自身、あんなことがあって、どんな風に広夢くんと接していいのかわからなかった。
「別に普通でいいと思うよ」
「……え?」
「広夢くんのこと。もちろん、美姫も一言謝った方がいいと思うけど」
次の日、生憎の雨空を眺めながらそう助言してくれるのは、明日香。
「それでいいのかな?」
「まぁ美姫が広夢くんと仲良くしたいわけじゃないなら、放置でもいいとは思うよ。口実ができて、男の人が苦手な美姫には好都合かもしれないし。ただ、広夢くんは美姫に嫌われたと思って傷ついてるかもしれないけどね」
頭の中を掠めるのは、一緒に住む約束を取り決めたときの広夢くんの姿。
“一緒に住むならさ、仲良くしたいじゃん”
無邪気にそう言った彼を、決して悪い人だと思えなかった。
「ごめん」と何回も謝り倒してくる広夢くんに対しても、顔をそらすことしかできなかった私。
現に今も同じ教室にいる広夢くんが元気なそうに見えているのも、私のせいなのかもしれない。
「だって間違いなく広夢くんのあのテンションの低さは美姫のせいだと思うし」
「……ぃ、えっ!?」
な、なんで明日香に私の考えてることがわかったの!?
「美姫の考えてることは何となくわかるよ。私を誰だと思ってるの」
「そ、そうでした……」
中学からの付き合いの明日香は、学園のみんなが私のことをヒメと呼んで一線引いていく中で変わらず私のそばにいてくれた。
そんな明日香は、この学園で一番私のことをわかってくれる大切な親友だ。
だからなのか、それともただ単に私がわかりやすいのか、明日香には私の考えていることを見抜かれることが多い。
考えすぎかもしれないとは思っていたけれど、明日香にまで広夢くんの元気のない理由が私にあるなんて言われると、何とも言えない罪悪感に襲われる。
「でも美姫を見てる感じ、広夢くんに嫌われることを望んでるわけじゃないんでしょ?」
私は明日香の言葉に小さくうなずく。
広夢くんのことは、必要以上に近づかれると怖いけど嫌じゃない。
むしろ優しい人なんじゃないかと思っているだけに、広夢くんを傷つけてしまうことは、私も辛い。
「珍しいね。たいてい美姫ってどんな男子も断固拒否って感じだったのにね」
「え、そう?」
「そうそう。美姫としゃべってるところを見る男子って、生徒会長くらいだったし」
「それは生徒会で一緒だから。話さないと仕事にならないし……」
確かに今までは、男の人と関わること自体で自分の中が一杯になって、こんな風に相手のことまで考える余裕なんてなかったもんな。
「……とりあえず、今夜広夢くんに謝ることからはじめるよ」
そう自分にも言い聞かせるように言ったのは、昼休みのこと。
【今夜は結人のところで夕飯食って帰ります】
だけど、その日の放課後になる頃には、広夢くんからそんなメッセージが入っていた。
広夢くんは初日のお弁当のおかずのハンバーグをとても喜んでくれてたから、今夜はハンバーグにして、そのとき広夢くんに謝ろうと思ってたのにな。
深い意味なんてなく、ただ単純に広夢くんは江畑くんの家に遊びに行っていて、そこでご馳走になって帰ってくる。
広夢くんと江畑くんは誰が見ても仲がいいし、全然おかしなことではないけれど……。
「……嫌われちゃったのかな」
気まずくなった次の日というタイミングなのもあって、思わずネガティブな言葉が口をついて出た。
そもそも男の人が苦手で、広夢くんのことも傷つけておきながら、そんな風に思う資格なんて私にはないのかもしれないけれど……。
でも、何でだろう?
やっぱりいきなり異様に近づかれると怖いって感じてしまうけど、嫌われたくないって思ってる。
自分でもわがままだと思うし、そんな自分が嫌になる。
早々夜ご飯もお風呂も済ませて、午後8時前。
……遅いなぁ。
夜ご飯をご馳走になってるなら、仕方ないのだろうけれど。
昨日降り始めた雨は、何回も強くなったり小雨になったり止んだりを繰り返している。
天気予報によると、この雨を降らしている低気圧がほぼ動くことなく停滞しているんだとか。
今日の放課後は、明日のスポーツ大会の直前の打ち合わせをしたけれど、晴れてくれる気がしない。
とりあえず雨天中止になった場合は通常授業に振り替えられるため、私はリビングのダイニングテーブルで英語の予習を進めることにした。
広夢くんがこの家に来てからは自分の部屋で予習復習をするのが日課になっていたけれど、今日はここで広夢くんの帰りを待とうと思ったんだ。
けれど意識して集中しようとしても、余計な心配ばかりが頭を掠めて全然進まない……。
そうしているうちに、外はゴロゴロと雷が鳴りはじめる。
かろうじてまだ雨は強まってないものの、広夢くんの帰りが心配になってくる。
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