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第2章
◇暗闇の中で-美姫Side-(1)
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「えぇええっ!?」
「しーっ! しーっ! 声が大きいよ!」
明日香が驚きの声を上げたことにより、近くの席の人からの視線がチラチラとこちらに向けられる。
広夢くんとの同居生活が始まって数日が経った昼休み。
私は根掘り葉掘り同居のことを明日香に聞かれていた。
「で、本当なの!? 相手が広夢くんってのは」
今度は、辛うじて私にだけ聞こえるようなヒソヒソ声で明日香は聞いてくる。
「……うん」
「でも、これで謎が解けたわ」
「謎?」
「だって同居が決まったときはあんなに頭を抱えていたのに、いざ同居がスタートしてからは、美姫は私に何も言ってこないんだもん。明らかに変だって思うでしょ」
「うぅ……」
やっぱり明日香には気づかれていたみたい。
実は今日は水曜日。
同居がスタートしたのが金曜だったことを思えば、週明けの月曜と火曜は全くもって明日香から同居のことを聞かれなかった。
あんなに金曜は興味津々だったのにと不思議に思ってはいたけれど、きっと明日香は私から話して来るのを待ってくれていたんだと思う。
「まぁ、学園内でも有名な二人が一緒に住んでるなんて、絶好の話のネタだろうから、美姫が黙ってたのもわからなくもないけどね。親友の私としては、かなり寂しかったな~」
「ご、ごめん……」
「いいよいいよ、そのかわりいろいろ話聞かせてよね~。広夢くんがいるってことは、やっぱり結人くんも来たりするの?」
「それはないかな、まだ」
明日香は親友だし、他に言いふらすような子じゃないってわかってるから話したけど、一応同居のことは、学校では極力秘密でいくつもりになっている。
とはいえ、あくまで今はあそこが広夢くんの家でもあるんだし、広夢くんの信頼できる友達なら連れてきてくれても良いんだけどね。
遠慮ばかりさせるのも悪いし……。
「えー、そうなの? でもいいな~。私もかっこいい男子と同居とか、やっぱり憧れるなぁ~」
できるなら、代わってあげたいくらいだよ……。
そう内心思わなくもないけれど、言っても仕方ないことだから言わないけれど。
だけど、私が自分のお弁当の中身のゆで卵を口に運ぶのを見た明日香は、ハッとしたように口を開く。
「もしかして、ここ数日、広夢くんがお弁当持参してるのって、やっぱり美姫の手作り弁当?」
「え? まぁ……」
広夢くんの分のお弁当を作るなんて、広夢くんにとってはありがた迷惑かなとも思った。
だけど、月曜日に広夢くんと住むマンションに帰ったとき。頼んだ買い物を済ませてくれてた上に、使用済みのお弁当箱を洗ってくれていた広夢くん。
【弁当ありがとう。美味かった。また食いたい。 広夢】
ダイニングテーブルにはそんな書き置きがあって、少しは喜んでもらえたのかなと思っていたら、ちょうど広夢くんの部屋から彼が出てきたんだ。
『弁当ありがとな。普通に美味かった』
『……え!? あ、ありがとう』
『やっぱり口でも伝えとこうかなと思ってな。また食いたいって思った』
『……うん』
『あ、でも、無理はしなくていいからな? 美姫の料理なら朝晩も食ってるし、美姫は生徒会とかやってて忙しいだろうし……』
『い、いいよ。また作るから』
『マジで!?』
『……食べてくれてありがとう』
お弁当の中身は決して豪華なものではない。
この日のお弁当は卵焼きこそ朝焼いたものだったけど、ハンバーグは作りおきのものだったし、ポテトサラダは前の晩の残りだったし……。
でもそれでも嬉しそうに美味しいって、また食べたいって言ってもらえたことが素直に嬉しかった。
思わず一昨日のそんな出来事を思い返していると、明日香が意味ありげな目でこちらを見てくる。
「……な、何?」
「いや、何だかんだで、仲良くやってるんだなって思って」
「そんな、仲良くだなんて……」
広夢くんには初日に一緒に住むからには仲良くしたいって言われたけれど、私にそれができているのかはわからない。
私が男の人が苦手って知ってからは、初日こそ意地悪を言ってきたものの、適度な距離を保って私に接してくれている広夢くん。
そんな彼の姿を見る限り、広夢くんに不安を感じるところなんて何もないように思うけれど、やっぱりふとした瞬間に怖いって思ってしまうし……。
そのときだった。
教室の外から名前を呼ばれたのは。
「篠原さん」
見ると、生徒会で一緒の隣のクラスの持田くんが私を手招きしているようだった。
「ごめんね、ちょっと行ってくるね」
「うん。生徒会も大変だね。頑張って!」
私は早々と空になったお弁当箱を赤色の巾着の中に片付けると、教室を出た。
「ごめんね、呼び出したりして」
「ううん。どうしたの?」
「スポーツ大会のタイムテーブルが決まったから渡しておこうと思って。またクラスの人にも伝えておいて」
「しーっ! しーっ! 声が大きいよ!」
明日香が驚きの声を上げたことにより、近くの席の人からの視線がチラチラとこちらに向けられる。
広夢くんとの同居生活が始まって数日が経った昼休み。
私は根掘り葉掘り同居のことを明日香に聞かれていた。
「で、本当なの!? 相手が広夢くんってのは」
今度は、辛うじて私にだけ聞こえるようなヒソヒソ声で明日香は聞いてくる。
「……うん」
「でも、これで謎が解けたわ」
「謎?」
「だって同居が決まったときはあんなに頭を抱えていたのに、いざ同居がスタートしてからは、美姫は私に何も言ってこないんだもん。明らかに変だって思うでしょ」
「うぅ……」
やっぱり明日香には気づかれていたみたい。
実は今日は水曜日。
同居がスタートしたのが金曜だったことを思えば、週明けの月曜と火曜は全くもって明日香から同居のことを聞かれなかった。
あんなに金曜は興味津々だったのにと不思議に思ってはいたけれど、きっと明日香は私から話して来るのを待ってくれていたんだと思う。
「まぁ、学園内でも有名な二人が一緒に住んでるなんて、絶好の話のネタだろうから、美姫が黙ってたのもわからなくもないけどね。親友の私としては、かなり寂しかったな~」
「ご、ごめん……」
「いいよいいよ、そのかわりいろいろ話聞かせてよね~。広夢くんがいるってことは、やっぱり結人くんも来たりするの?」
「それはないかな、まだ」
明日香は親友だし、他に言いふらすような子じゃないってわかってるから話したけど、一応同居のことは、学校では極力秘密でいくつもりになっている。
とはいえ、あくまで今はあそこが広夢くんの家でもあるんだし、広夢くんの信頼できる友達なら連れてきてくれても良いんだけどね。
遠慮ばかりさせるのも悪いし……。
「えー、そうなの? でもいいな~。私もかっこいい男子と同居とか、やっぱり憧れるなぁ~」
できるなら、代わってあげたいくらいだよ……。
そう内心思わなくもないけれど、言っても仕方ないことだから言わないけれど。
だけど、私が自分のお弁当の中身のゆで卵を口に運ぶのを見た明日香は、ハッとしたように口を開く。
「もしかして、ここ数日、広夢くんがお弁当持参してるのって、やっぱり美姫の手作り弁当?」
「え? まぁ……」
広夢くんの分のお弁当を作るなんて、広夢くんにとってはありがた迷惑かなとも思った。
だけど、月曜日に広夢くんと住むマンションに帰ったとき。頼んだ買い物を済ませてくれてた上に、使用済みのお弁当箱を洗ってくれていた広夢くん。
【弁当ありがとう。美味かった。また食いたい。 広夢】
ダイニングテーブルにはそんな書き置きがあって、少しは喜んでもらえたのかなと思っていたら、ちょうど広夢くんの部屋から彼が出てきたんだ。
『弁当ありがとな。普通に美味かった』
『……え!? あ、ありがとう』
『やっぱり口でも伝えとこうかなと思ってな。また食いたいって思った』
『……うん』
『あ、でも、無理はしなくていいからな? 美姫の料理なら朝晩も食ってるし、美姫は生徒会とかやってて忙しいだろうし……』
『い、いいよ。また作るから』
『マジで!?』
『……食べてくれてありがとう』
お弁当の中身は決して豪華なものではない。
この日のお弁当は卵焼きこそ朝焼いたものだったけど、ハンバーグは作りおきのものだったし、ポテトサラダは前の晩の残りだったし……。
でもそれでも嬉しそうに美味しいって、また食べたいって言ってもらえたことが素直に嬉しかった。
思わず一昨日のそんな出来事を思い返していると、明日香が意味ありげな目でこちらを見てくる。
「……な、何?」
「いや、何だかんだで、仲良くやってるんだなって思って」
「そんな、仲良くだなんて……」
広夢くんには初日に一緒に住むからには仲良くしたいって言われたけれど、私にそれができているのかはわからない。
私が男の人が苦手って知ってからは、初日こそ意地悪を言ってきたものの、適度な距離を保って私に接してくれている広夢くん。
そんな彼の姿を見る限り、広夢くんに不安を感じるところなんて何もないように思うけれど、やっぱりふとした瞬間に怖いって思ってしまうし……。
そのときだった。
教室の外から名前を呼ばれたのは。
「篠原さん」
見ると、生徒会で一緒の隣のクラスの持田くんが私を手招きしているようだった。
「ごめんね、ちょっと行ってくるね」
「うん。生徒会も大変だね。頑張って!」
私は早々と空になったお弁当箱を赤色の巾着の中に片付けると、教室を出た。
「ごめんね、呼び出したりして」
「ううん。どうしたの?」
「スポーツ大会のタイムテーブルが決まったから渡しておこうと思って。またクラスの人にも伝えておいて」
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