俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希

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第2章

◆弁当と嫉妬心-広夢Side-(2)

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 *


「広夢が弁当なんて初じゃね? 例の女の子からのラブラブ弁当か?」


 昼休み。なんとなく予想はついたけれど、俺の持ってきた弁当を見るなり結人に突っ込まれた。


「っるせ。そんなんじゃねーよ!」


 俺らの通う学校は、食堂なんて素敵なものはなく、各自持参した弁当か、学校の購買でパンやおにぎりを買って済ませるかに分かれる。クラスでその割合は半々だ。

 俺は自分のために弁当を作るような奴じゃなかったし、父さんも俺のために弁当を作るなんてことはなかったから、当然のごとく毎日買って過ごしていた。


 だからもちろん結人の言う通り、俺が弁当を学校に持っていくこと自体、初めてなわけで……。


 さらに結人には同居の話も少し話してたので、余計にからかわれる始末と来たわけだ。


 とはいえ、同居人は同い年の女の子だったとしか話しておらず、もちろんその同居人が学園のヒメだったとはまだ伝えていない。


 それにしても、ラブラブ弁当って……。

 そんなものじゃないっていうのは、わかっている。


 実際、男が苦手な美姫がどんな気持ちで俺の弁当を作ってくれたのかはわからない。


 まぁ気持ちも何も、そこに深い意味なんてなくて、美姫自身が毎日弁当を作って持っていく派で、一緒に住む奴の朝食を作るような感覚で作ってくれたっていう可能性が強いだろう。



「で、そのラブラブ弁当を作ったのはどんな子なんだよ? やっぱり可愛い子なのか!?」

「だから、違うって言ってんだろ。声もでかいから、バカ!」


 思わず結人の頭と口を押さえつける。


 結人がいろいろ気になってるのもわかるが、こいつ、声がバカでかいんだよな。


「あ、広夢くん、今日はお弁当!?」

「本当だ! 誰かからもらったとか!?」


 さすがに今のは近くの席の女子には聞こえていたようで、好奇の視線とともにそんな言葉を投げかけられる。


「そ、そんなんじゃねぇから。今日は気まぐれで弁当にしたんだよ」


 内心ドギマギしながら女子に言って、隣にいる結人を睨み付ける。


 同じクラスに美姫がいるんだから、そんな大っぴらにするなよな、ったく。



「それならよかった~」

「ね~」


 と、会話を交わしながら、自分たちの会話に戻った女子たちにホッと胸を撫で下ろす。


 ちらりと視線を教室の真ん中辺りの席の美姫の方へ向けてみると、窓際の一番後ろの席でひと騒ぎした俺らの声は、幸いにも美姫には聞こえていないようだった。


「お前なぁ、もうちょっと声落としてしゃべろよな」

「悪い悪い。でも、広夢の同居人がその弁当作ったのは合ってんだろ?」


 小声で怒鳴ると、同じように結人も声を抑えてそう尋ねてくる。


「まぁ……」

「とりあえず、弁当の中を開けてみようぜ?」

「ちょ! お前勝手に……っ」


 一先ず声のボリュームは抑えてくれたものの、結人は待ちきれんばかりに俺の目の前の弁当の蓋を開けた。


「すげぇ……」


 蓋を開けた結人の口から漏れたのは、感嘆の一声。


 それもそのはずだ。

 白米の隣には卵焼きにハンバーグ、ポテトサラダにレタスやミニトマトも添えられて、彩りも見た目も食欲をそそられるようなものだったのだから。


 思わず弁当の中を一瞥したあと、もう一度美姫の姿を自然と視界に入れようとしてしまう。


 残念ながら、美姫はちょうど席を外してしまったようで、その姿は見えなかったけれど。


「何? お前の同居人って同い年の女の子って聞いてたけど、違ったか?」

「や、同い年だ」

「マジかよ。すげぇ、俺の母ちゃんの弁当よりも美味そうだ」


 そう言う結人の机の上にある弁当は、すでに蓋が開けられている。


 その中身は至ってシンプル。

 一面に敷き詰められた白米の上に、焼き鮭の切り身が乗せられたものだ。


「お前なぁ。自分の母ちゃんの弁当をけなすなよな」


 確かに美姫の作ってくれた弁当の中身は、結人も好きそうなおかずばかりだし、俺も正直すげぇと思ったけどさ。


 やっぱり日頃、毎日弁当を作ってもらった経験のなかった俺としては、自分のために弁当を作ってもらえるだけでも嬉しいものだから、今の結人の発言はいただけない。


「広夢って変なところで堅いよな~」

「や、お前の母親に対する扱いが酷いだけだろ」


 俺はそんな結人を横目に、一緒に巾着に入っていた箸を取り出して、卵焼きをひとつ口に運んだ。


 うん、美味い……。

 口の中にじんわりと出汁の味が広がるのなんて、まさに俺好みだ。


 美姫の作る料理は、不思議なくらい俺の口に合う。


「かーっ! ひとりだけ美味そうに食いやがって! 俺のこれやるから、これもらうな!」


「あっ! おい!」


 だけど俺がそう言ったときには、時すでに遅し。

 弁当箱の端っこに揃って入っていたハンバーグのうちのひと切れは、結人の口の中に消えていってしまった。


 かわりにそこには、結人の弁当の中に入っていた鮭の切り身がひと欠片突っ込まれている。


「お前、勝手に食うなよな!?」

「いいじゃん、かわりに鮭わけてやっただろ?」

「そう言う問題じゃねぇっての!」


 あー、もう!

 美姫がせっかく作ってくれた弁当の中身を、なんでこいつに食われなきゃなんないのか。
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