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第1章
◇一緒に住むに当たって-美姫Side-(2)
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「それならよかった。一緒に住むのに気まずいままだなんて、すげぇやりづらいじゃん」
ホッとしたような、嬉しそうな表情を浮かべる夏川くん。
そのまま夏川くんに来てと言われるがままにローテーブルの方へ行くと、今日出された課題のプリントがテーブルの上に置かれている。
夏川くんはローテーブルの前にドカリと座ると、まだほとんど手をつけられていないそのプリントをひっくり返して、シャーペンを握った。
「一緒に住むに当たって、ルールを決めておいた方がいいかなと思って」
私も夏川くんの斜め前に腰を下ろすと、夏川くんは早速と言わんばかりに私にそう切り出してきた。
「ルール、ですか」
「はい、ルール1。敬語禁止」
私が言葉を発した瞬間、ビシッと人さし指を立ててそう言う夏川くん。
「敬語とかよそよそしくね? なんかヒメの言葉聞いてると、時々敬語が混ざってて突き放されてるように感じるんだよね。俺らクラスメイトなんだからさ、常にタメ口でいいだろ」
「……はっ。う、うん……」
思わず“はい”と言いそうになったところをグッと抑えて、“うん”と言い直す。
言われてみれば、最初こそ平然を装うとしてたけど、確かに気づけば敬語になってたかも……。
同居のルールとしては変なルールだなと思いながら、私も次のルールについて何かしら考える。
「夏川くんは……」
「はい、ルール2。夏川くんって呼ぶの禁止ね」
「……え?」
夏川くんに何かを言おうとした瞬間に、再び私の声は夏川くんの声により遮られた。
「俺のことは広夢って呼んでよ。みんなそう呼んでるし、なんか“夏川くん”とか他人行儀過ぎてかゆくなる」
本当にかゆくなるのかはわからないけれど、身体をかく真似をしながらそう言う夏川くん。
「もちろん俺も、ヒメじゃなくて美姫って呼ばせてもらうからさ」
「……何、それ」
ヒメって呼ばれるのはあまり好きじゃないけど、男の人に名前で呼ばれるなんて、あまりにも慣れなくて変な感じ。
「美姫が男の人のことが苦手なのはわかったけど、だからってよそよそしいままなのは寂しいだろ? やっぱりせっかく一緒に住むことになったなら、仲良く暮らしたいじゃん」
言われてみればそうかもしれないけれど……。
「俺のことを“男”なんてひとつのくくりで拒絶するんじゃなくて、“広夢”という一人の人間として接してよ。なんか男ってだけで嫌がられるのは納得いかなくて……。それでも俺自身がどうしても嫌いとかなら、また考えるからさ」
確かにそれは夏川くんの言う通りかもしれない。
「……わかった」
何となく自分が悪いことをしているような気になってそうこたえると、目の前に見える顔は驚いたような表情へと変わる。
そんなに驚かれるようなこと、私、言ったっけ?
だけど、その顔はすぐに意地悪な笑みへと変わった。
「っていうか、やっと男が苦手だって認めたな」
「あ……。そ、そういうわけじゃ……っ」
そうだ。何気なくこたえてたけど、会話の流れ的にそういうことになってしまう。
だけどここまでバレてしまってるなら、これ以上隠すのも無駄なのかもしれない。
ホッとしたような、嬉しそうな表情を浮かべる夏川くん。
そのまま夏川くんに来てと言われるがままにローテーブルの方へ行くと、今日出された課題のプリントがテーブルの上に置かれている。
夏川くんはローテーブルの前にドカリと座ると、まだほとんど手をつけられていないそのプリントをひっくり返して、シャーペンを握った。
「一緒に住むに当たって、ルールを決めておいた方がいいかなと思って」
私も夏川くんの斜め前に腰を下ろすと、夏川くんは早速と言わんばかりに私にそう切り出してきた。
「ルール、ですか」
「はい、ルール1。敬語禁止」
私が言葉を発した瞬間、ビシッと人さし指を立ててそう言う夏川くん。
「敬語とかよそよそしくね? なんかヒメの言葉聞いてると、時々敬語が混ざってて突き放されてるように感じるんだよね。俺らクラスメイトなんだからさ、常にタメ口でいいだろ」
「……はっ。う、うん……」
思わず“はい”と言いそうになったところをグッと抑えて、“うん”と言い直す。
言われてみれば、最初こそ平然を装うとしてたけど、確かに気づけば敬語になってたかも……。
同居のルールとしては変なルールだなと思いながら、私も次のルールについて何かしら考える。
「夏川くんは……」
「はい、ルール2。夏川くんって呼ぶの禁止ね」
「……え?」
夏川くんに何かを言おうとした瞬間に、再び私の声は夏川くんの声により遮られた。
「俺のことは広夢って呼んでよ。みんなそう呼んでるし、なんか“夏川くん”とか他人行儀過ぎてかゆくなる」
本当にかゆくなるのかはわからないけれど、身体をかく真似をしながらそう言う夏川くん。
「もちろん俺も、ヒメじゃなくて美姫って呼ばせてもらうからさ」
「……何、それ」
ヒメって呼ばれるのはあまり好きじゃないけど、男の人に名前で呼ばれるなんて、あまりにも慣れなくて変な感じ。
「美姫が男の人のことが苦手なのはわかったけど、だからってよそよそしいままなのは寂しいだろ? やっぱりせっかく一緒に住むことになったなら、仲良く暮らしたいじゃん」
言われてみればそうかもしれないけれど……。
「俺のことを“男”なんてひとつのくくりで拒絶するんじゃなくて、“広夢”という一人の人間として接してよ。なんか男ってだけで嫌がられるのは納得いかなくて……。それでも俺自身がどうしても嫌いとかなら、また考えるからさ」
確かにそれは夏川くんの言う通りかもしれない。
「……わかった」
何となく自分が悪いことをしているような気になってそうこたえると、目の前に見える顔は驚いたような表情へと変わる。
そんなに驚かれるようなこと、私、言ったっけ?
だけど、その顔はすぐに意地悪な笑みへと変わった。
「っていうか、やっと男が苦手だって認めたな」
「あ……。そ、そういうわけじゃ……っ」
そうだ。何気なくこたえてたけど、会話の流れ的にそういうことになってしまう。
だけどここまでバレてしまってるなら、これ以上隠すのも無駄なのかもしれない。
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