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第1章
◇突然の同居 -美姫Side-(2)
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「私はヒメって響き、うらやましいけどなぁ~。美姫って名前の通り美しくてお姫さまみたいで、学校中のみんなが一目置いちゃうのもわかるもん」
「そう? こんなの恥ずかしくて、やりづらいだけじゃん」
明日香の言う通り、私はこの学校では“ヒメ”と呼ばれている。
恐らく名前の“美姫”っていう字に“姫”という文字が使われているところからきてるんだろうけど……。
それもあってなのだろうけど、いつも周りからの視線をやたらと感じるのは、きっと気のせいじゃないと思う。
あまり目立ち過ぎるのは好きじゃない。
だけど、明日香の話によると学園のヒメには近寄り難いイメージがあるらしく、そのイメージと一緒にヒメと囁かれてるのなら別にいいかなと思ってる。
口下手で男の人が苦手な私にとっては、むしろ好都合な気がするから。
「それにしても美姫、なんか今日はいつもに増して仏頂面だけど、何かあった?」
さすが親友。
まるで私の身に起こったことを見透かすかのように、明日香は私の顔を覗き込んできた。
昨日のお母さんからの電話での内容を一通り話すと、明日香は真ん丸な目をさらに丸くしたあと、心配げに私を見つめる。
「泰志おじさんって、よく美姫のお母さんを助けに美姫の実家に来てたっていう?」
「……うん」
「でも、その息子さんとは会ったことないんでしょ? 大丈夫?」
私が男の人が苦手だということは、この学校で唯一明日香だけに話している。
「うぅ……っ。そうなんだよね……」
「なかなか難しいと思うよ? 一つ屋根の下で二人の距離も近いわけだし」
「だよね……」
はぁ、とひとつため息を落とす。
「美姫が落ち込むのも当然よね。前から思ってたけど、男の人とは言っても泰志おじさんは平気なの?」
「泰志おじさんはお母さんの知り合いで小さい頃から知っているから、大丈夫かな。自分の中であまり男の人っていう感覚がないだけだと思う」
「ふーん」
そこで明日香は何かを考えるようにして、再び私を見る。
「でもそれって、美姫の中で完全に男の人を拒絶してるわけじゃないってことだよね? それならその彼と同棲することで、美姫の男の人に対する苦手意識を覆して、甘い恋が生まれる可能性もゼロじゃないってことよね!?」
「もう、からかわないでよ。それに同棲じゃなくて、同居だってば」
「大して違わないでしょ」
優しく慰めてくれるのかと思えば、ケタケタと笑う明日香。
さっきから絶対私の反応見て楽しんでるよね、これ。
私が例外なだけで、明日香や他の女子は恋バナ好きだもんね。
もしかして私は、そんな明日香にとって絶好のネタを提供してしまったのかもしれない。
「あっ! あそこにいるの、広夢くんじゃない?」
「え?」
もともと沈んでいた気持ちがさらに沈みかけていたとき。
廊下の窓の外に見える中庭を指して、明日香が興奮気味に口を開く。
──夏川 広夢。
同じクラスの、人気者。
人懐っこい性格で、愛嬌のある大きな瞳は彼のトレードマークらしい。
学園屈指のイケメンと言われるだけあって、全体的にも整った顔立ちの彼は学園でもトップを争うモテ男子だ。
まぁ全て明日香からの情報なんだけどね。
複数の女子に囲まれた夏川くんは、愛嬌のある笑顔を振り撒いている。
「いいよね~。広夢くんって、誰に対しても笑顔だし」
言われてみれば、夏川くんが暗い表情をしてるところって見たことないかも……。
そのとき、さらに同じクラスの江畑 結人がどこからともなく夏川くんのそばに現れた。
夏川くんは女子たちにニコニコと手を振りながら、江畑くんと一緒に校舎の中に入っていった。
「はぁ~。朝から広夢くんと結人くんのツーショットが見られるなんて、今日はいいことありそう」
切れ長の瞳にスッと通った鼻筋の江畑くん。
クールで大人っぽい江畑くんは、人懐っこい夏川くんとはまた違ったタイプ。
だけど、そんな彼もかなり女子に人気があるみたい。
「そう? こんなの恥ずかしくて、やりづらいだけじゃん」
明日香の言う通り、私はこの学校では“ヒメ”と呼ばれている。
恐らく名前の“美姫”っていう字に“姫”という文字が使われているところからきてるんだろうけど……。
それもあってなのだろうけど、いつも周りからの視線をやたらと感じるのは、きっと気のせいじゃないと思う。
あまり目立ち過ぎるのは好きじゃない。
だけど、明日香の話によると学園のヒメには近寄り難いイメージがあるらしく、そのイメージと一緒にヒメと囁かれてるのなら別にいいかなと思ってる。
口下手で男の人が苦手な私にとっては、むしろ好都合な気がするから。
「それにしても美姫、なんか今日はいつもに増して仏頂面だけど、何かあった?」
さすが親友。
まるで私の身に起こったことを見透かすかのように、明日香は私の顔を覗き込んできた。
昨日のお母さんからの電話での内容を一通り話すと、明日香は真ん丸な目をさらに丸くしたあと、心配げに私を見つめる。
「泰志おじさんって、よく美姫のお母さんを助けに美姫の実家に来てたっていう?」
「……うん」
「でも、その息子さんとは会ったことないんでしょ? 大丈夫?」
私が男の人が苦手だということは、この学校で唯一明日香だけに話している。
「うぅ……っ。そうなんだよね……」
「なかなか難しいと思うよ? 一つ屋根の下で二人の距離も近いわけだし」
「だよね……」
はぁ、とひとつため息を落とす。
「美姫が落ち込むのも当然よね。前から思ってたけど、男の人とは言っても泰志おじさんは平気なの?」
「泰志おじさんはお母さんの知り合いで小さい頃から知っているから、大丈夫かな。自分の中であまり男の人っていう感覚がないだけだと思う」
「ふーん」
そこで明日香は何かを考えるようにして、再び私を見る。
「でもそれって、美姫の中で完全に男の人を拒絶してるわけじゃないってことだよね? それならその彼と同棲することで、美姫の男の人に対する苦手意識を覆して、甘い恋が生まれる可能性もゼロじゃないってことよね!?」
「もう、からかわないでよ。それに同棲じゃなくて、同居だってば」
「大して違わないでしょ」
優しく慰めてくれるのかと思えば、ケタケタと笑う明日香。
さっきから絶対私の反応見て楽しんでるよね、これ。
私が例外なだけで、明日香や他の女子は恋バナ好きだもんね。
もしかして私は、そんな明日香にとって絶好のネタを提供してしまったのかもしれない。
「あっ! あそこにいるの、広夢くんじゃない?」
「え?」
もともと沈んでいた気持ちがさらに沈みかけていたとき。
廊下の窓の外に見える中庭を指して、明日香が興奮気味に口を開く。
──夏川 広夢。
同じクラスの、人気者。
人懐っこい性格で、愛嬌のある大きな瞳は彼のトレードマークらしい。
学園屈指のイケメンと言われるだけあって、全体的にも整った顔立ちの彼は学園でもトップを争うモテ男子だ。
まぁ全て明日香からの情報なんだけどね。
複数の女子に囲まれた夏川くんは、愛嬌のある笑顔を振り撒いている。
「いいよね~。広夢くんって、誰に対しても笑顔だし」
言われてみれば、夏川くんが暗い表情をしてるところって見たことないかも……。
そのとき、さらに同じクラスの江畑 結人がどこからともなく夏川くんのそばに現れた。
夏川くんは女子たちにニコニコと手を振りながら、江畑くんと一緒に校舎の中に入っていった。
「はぁ~。朝から広夢くんと結人くんのツーショットが見られるなんて、今日はいいことありそう」
切れ長の瞳にスッと通った鼻筋の江畑くん。
クールで大人っぽい江畑くんは、人懐っこい夏川くんとはまた違ったタイプ。
だけど、そんな彼もかなり女子に人気があるみたい。
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