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最終章
踏み出す一歩(3)
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「俺、思うんだ。生きてちゃダメな人間なんていないって」
私の言葉を遮るように、そう言い切る奏ちゃん。
「……え?」
「花梨は、ずっと俺の兄ちゃんに罪悪感を感じるあまり、私なんかが生きてていいのかな、って思って生きてきたんじゃねぇの?」
確かに、奏ちゃんの言う通りだ。
だって私のせいで、奏ちゃんのお兄さんは亡くなってしまったというのに……。
いくら余命を切られた病気を患っていたとは聞かされても、あの事故さえなければ、もう少し長く生きられたはずなのに……。
残された手紙を知ってしまった。
あの手紙の内容からも、まだまだこれから自分がやっておきたいこととかあっただろう。
「花梨がある程度罪悪感を感じてしまうのは仕方ないことだと思う。でも、あそこで花梨が死ぬべきだったなんてことは、絶対にないから」
「そう、かな……」
「俺は兄ちゃんを誇りに思ってるし、感謝してる。あの日、兄ちゃんが花梨を助けなかったら、花梨とこうして出会うことも話すこともなかったんだもん」
「そうだけど……っ」
「兄ちゃんのことはもちろん俺としても辛かったけど、それを花梨のせいだなんて一度も思ったことないから。兄ちゃんが命と引き替えに守った命を、これから先は、俺に守らせてよ」
耳元で、切なく響く声。
「……奏ちゃんは、本当にそれでいいの?」
「だから俺はそうしたいって、さっきから言ってるじゃん」
奏ちゃんはハハっと笑って、私の目元に溜まった涙を拭ってくれる。
「過去は変えられない。だけど、過去ばかり見ていても、時間は止まってくれないんだ。それなら、罪悪感や悲しみにまみれて暮らすよりも、笑顔で幸せに過ごす方が絶対いいじゃん。俺が兄ちゃんの立場だったら絶対そう思うもん。俺が死んだせいで誰かの心がそのあとの人生毎日通夜状態とか、俺は耐えられない。だから、花梨にとっての未来も、笑顔で幸せであってほしい」
「……それは、そうなのかも、しれないけど……」
「だろ? 俺らはこれから先の未来を生きていかないといけないから。その未来を少しでも笑顔で幸せに過ごすにためにも、俺は花梨に傍に居てほしい」
「……私?」
私が聞き返すと、奏ちゃんは大きくうなずく。
そして、「花梨はどうなの?」と聞いてくる。
そんなの、考えなくてもわかってる。
「……私も、奏ちゃんの傍に居たいよ」
言い終えるなり、再びぎゅうっと抱きしめられる。
「あのときは、花梨のこと突き放してごめん。もう、絶対に離さないから」
「私も。もう、離れたくない」
過去は、変えられない。
その通りだと思う。
過ぎてしまったことは、変える術がないのだから。
だけど、これから先の未来は、いくらでも変えられる。
笑っても、泣いても、生きている限り未来へと進んでいかなければならないのなら。
笑顔の方がいい。
幸せな方がいい。
だから奏ちゃんは辛い過去があっても、それを感じさせないくらいにいつも笑顔だったんだ……。
奏ちゃんのお兄さんのことは、忘れるべきではないと思うし、忘れたくもない。
でも、常日ごろからそればかりにとらわれていては、いつまで経っても、前を向いて歩いていけないから──。
そう思えることが一歩前へ進めたことだというのなら、私は今日、ようやく一歩前へと踏み出せたんだと思った。
私の言葉を遮るように、そう言い切る奏ちゃん。
「……え?」
「花梨は、ずっと俺の兄ちゃんに罪悪感を感じるあまり、私なんかが生きてていいのかな、って思って生きてきたんじゃねぇの?」
確かに、奏ちゃんの言う通りだ。
だって私のせいで、奏ちゃんのお兄さんは亡くなってしまったというのに……。
いくら余命を切られた病気を患っていたとは聞かされても、あの事故さえなければ、もう少し長く生きられたはずなのに……。
残された手紙を知ってしまった。
あの手紙の内容からも、まだまだこれから自分がやっておきたいこととかあっただろう。
「花梨がある程度罪悪感を感じてしまうのは仕方ないことだと思う。でも、あそこで花梨が死ぬべきだったなんてことは、絶対にないから」
「そう、かな……」
「俺は兄ちゃんを誇りに思ってるし、感謝してる。あの日、兄ちゃんが花梨を助けなかったら、花梨とこうして出会うことも話すこともなかったんだもん」
「そうだけど……っ」
「兄ちゃんのことはもちろん俺としても辛かったけど、それを花梨のせいだなんて一度も思ったことないから。兄ちゃんが命と引き替えに守った命を、これから先は、俺に守らせてよ」
耳元で、切なく響く声。
「……奏ちゃんは、本当にそれでいいの?」
「だから俺はそうしたいって、さっきから言ってるじゃん」
奏ちゃんはハハっと笑って、私の目元に溜まった涙を拭ってくれる。
「過去は変えられない。だけど、過去ばかり見ていても、時間は止まってくれないんだ。それなら、罪悪感や悲しみにまみれて暮らすよりも、笑顔で幸せに過ごす方が絶対いいじゃん。俺が兄ちゃんの立場だったら絶対そう思うもん。俺が死んだせいで誰かの心がそのあとの人生毎日通夜状態とか、俺は耐えられない。だから、花梨にとっての未来も、笑顔で幸せであってほしい」
「……それは、そうなのかも、しれないけど……」
「だろ? 俺らはこれから先の未来を生きていかないといけないから。その未来を少しでも笑顔で幸せに過ごすにためにも、俺は花梨に傍に居てほしい」
「……私?」
私が聞き返すと、奏ちゃんは大きくうなずく。
そして、「花梨はどうなの?」と聞いてくる。
そんなの、考えなくてもわかってる。
「……私も、奏ちゃんの傍に居たいよ」
言い終えるなり、再びぎゅうっと抱きしめられる。
「あのときは、花梨のこと突き放してごめん。もう、絶対に離さないから」
「私も。もう、離れたくない」
過去は、変えられない。
その通りだと思う。
過ぎてしまったことは、変える術がないのだから。
だけど、これから先の未来は、いくらでも変えられる。
笑っても、泣いても、生きている限り未来へと進んでいかなければならないのなら。
笑顔の方がいい。
幸せな方がいい。
だから奏ちゃんは辛い過去があっても、それを感じさせないくらいにいつも笑顔だったんだ……。
奏ちゃんのお兄さんのことは、忘れるべきではないと思うし、忘れたくもない。
でも、常日ごろからそればかりにとらわれていては、いつまで経っても、前を向いて歩いていけないから──。
そう思えることが一歩前へ進めたことだというのなら、私は今日、ようやく一歩前へと踏み出せたんだと思った。
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