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最終章
踏み出す一歩(2)
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「一度隠すことに決めたら、今度は知られたときのことを想像して、怖くなった。罪悪感に耐えきれなくなった花梨が、俺から離れていってしまうんじゃないか、とかいろいろ考えてしまって……。咲姉とのことを問いただされたとき、これ以上隠し通すことに限界を感じたんだ。卑怯な俺は、花梨から離れられるくらいなら、自分から花梨を手放した。最低な方法で」
奏ちゃんが両手の拳をぎゅっと強く握りしめたのがわかった。
まるで、なにかを堪えるように。
「……そこまでしたのに、結局、花梨に全部知られて終わるってな。笑っちゃうよな。今更何を言ったところで、全部言い訳にしか聞こえないと思う。本当にごめんな。誰よりも、何よりも大切にしたかったのに。結局花梨の気持ちは無視したまま、自分勝手に花梨のこと傷つけて……」
本当に、ごめん。
最後の方は、本当に蚊の泣くような、今にも泣き出してしまいそうな声だった。
「いいよ、もう。私は、大丈夫だから」
だけど、奏ちゃんは頭を下げたきり、こちらを見る素振りはない。
「それに私こそ、何も知らずに事故のことで無神経なことを言ってしまったと思う」
「それは……」
「だから、奏ちゃんは本当に気にしないで? だって、奏ちゃんは奏ちゃんなりに私のことを想ってその選択をしたんでしょ?」
奏ちゃんが本当に私のことを想ってくれてたのなら、別れを選択することはきっととても辛かったはずだから。
「花梨……」
「ふふっ。朝は委員長、だったのに、今は花梨って呼んでくれるんだね」
「あ……」
本当に無意識だったのか、慌てたように口を手で覆う奏ちゃん。
「いいよ、花梨で。何て言うか、委員長って呼び方に戻されると、奏ちゃんとの距離を思い知らされてるみたいで辛いから……」
だって、私は今もまだ、奏ちゃんのことが好きだから。
本当のことを知って、奏ちゃんに対する罪悪感も生まれたし、奏ちゃんに愛してもらう資格もないような気もするけれど。それでもやっぱり、この“好き”の気持ちは色褪せることなんてなかった。
「……花梨はさ、俺のこと嫌いになったんじゃねぇの?」
少し潤いの増した目で、きゅるんとこちらを見つめてくる丸い瞳。
やっぱり、奏ちゃんは可愛い。
ふとした瞬間にもそう思ってしまう私は、やっぱり奏ちゃんには敵わない。
「嫌いになんて、なれないよ」
もちろんこれから先も、何があっても奏ちゃんのことは嫌いになんてなれないと思う。
「……だって、今もまだ大好きだもん、奏ちゃんのこと」
「本当に?」
「うん。奏ちゃんこそ、私のこと疎ましく思ってないの?」
だって、私は奏ちゃんのお兄さん命を犠牲にして、今を生きているのに。
だけど、次の瞬間には、私の身体は奏ちゃんの腕の中にすっぽりと包み込まれていた。
「思ってるわけないじゃん」
力強いけど、優しい奏ちゃんの声が耳に届く。
「何で、だって、私……」
奏ちゃんが両手の拳をぎゅっと強く握りしめたのがわかった。
まるで、なにかを堪えるように。
「……そこまでしたのに、結局、花梨に全部知られて終わるってな。笑っちゃうよな。今更何を言ったところで、全部言い訳にしか聞こえないと思う。本当にごめんな。誰よりも、何よりも大切にしたかったのに。結局花梨の気持ちは無視したまま、自分勝手に花梨のこと傷つけて……」
本当に、ごめん。
最後の方は、本当に蚊の泣くような、今にも泣き出してしまいそうな声だった。
「いいよ、もう。私は、大丈夫だから」
だけど、奏ちゃんは頭を下げたきり、こちらを見る素振りはない。
「それに私こそ、何も知らずに事故のことで無神経なことを言ってしまったと思う」
「それは……」
「だから、奏ちゃんは本当に気にしないで? だって、奏ちゃんは奏ちゃんなりに私のことを想ってその選択をしたんでしょ?」
奏ちゃんが本当に私のことを想ってくれてたのなら、別れを選択することはきっととても辛かったはずだから。
「花梨……」
「ふふっ。朝は委員長、だったのに、今は花梨って呼んでくれるんだね」
「あ……」
本当に無意識だったのか、慌てたように口を手で覆う奏ちゃん。
「いいよ、花梨で。何て言うか、委員長って呼び方に戻されると、奏ちゃんとの距離を思い知らされてるみたいで辛いから……」
だって、私は今もまだ、奏ちゃんのことが好きだから。
本当のことを知って、奏ちゃんに対する罪悪感も生まれたし、奏ちゃんに愛してもらう資格もないような気もするけれど。それでもやっぱり、この“好き”の気持ちは色褪せることなんてなかった。
「……花梨はさ、俺のこと嫌いになったんじゃねぇの?」
少し潤いの増した目で、きゅるんとこちらを見つめてくる丸い瞳。
やっぱり、奏ちゃんは可愛い。
ふとした瞬間にもそう思ってしまう私は、やっぱり奏ちゃんには敵わない。
「嫌いになんて、なれないよ」
もちろんこれから先も、何があっても奏ちゃんのことは嫌いになんてなれないと思う。
「……だって、今もまだ大好きだもん、奏ちゃんのこと」
「本当に?」
「うん。奏ちゃんこそ、私のこと疎ましく思ってないの?」
だって、私は奏ちゃんのお兄さん命を犠牲にして、今を生きているのに。
だけど、次の瞬間には、私の身体は奏ちゃんの腕の中にすっぽりと包み込まれていた。
「思ってるわけないじゃん」
力強いけど、優しい奏ちゃんの声が耳に届く。
「何で、だって、私……」
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