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第5章
想いは複雑に絡み合って(4)
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そういう新島先輩の配慮もあって、奏ちゃんも新島先輩が打ち明けてくるまで、新島先輩が私のことに気づいてることは知らなかったんだそうだ。
だけど、だんだんと新島先輩の気持ちがついていかなくなって、奏ちゃんに全てを打ち明けて、そう言ったらしい……。
でも、そうだよね。
最愛の人を私のせいで亡くしたんだもの。
そのくらいに恨まれてても当然だ。
「咲姉にそう言われたから花梨と別れた、っていうわけじゃないけどさ。確かに咲姉の気持ちも考えずに、俺も無神経だったところはあったと思う。だけど、さすがに今回のことに関して、俺は咲姉のことを許せない」
「……奏ちゃん」
悲しそうに、すがるような瞳で奏ちゃんを見つめる新島先輩。
「それ抜きでもさ、そろそろ止めなきゃとは思ってたよ。咲姉にはちゃんと幸せになってもらわなきゃ、兄ちゃんが心配すると思ってたから」
その言葉を聞いた瞬間、新島先輩の瞳から涙が溢れ出す。
「これ以上兄ちゃんを心配させないで、咲姉」
「奏ちゃん、あたし……」
涙を流しながらヨロヨロと力が抜けていく新島先輩の身体を、隣に座っていた増川先輩が支える。
「あたし、何も考えられてなかった。和ちゃんが亡くなってから自分のことで精一杯で。悲しくて悲しくて、どんどん自分の中に汚い感情が増えてくばかりで……これじゃあ和ちゃんが好きって言ってくれてたあたしからどんどんかけ離れていってるだけっだっていうのに……」
新島先輩は涙でいっぱいの猫目をこちらに向ける。
「花梨ちゃん、ごめんね。頭の中では、花梨ちゃんは悪くないってわかってるの。でも誰かのせいにしないと辛くて、結局目の前に現れた花梨ちゃんに当たってしまった……」
「いえ……」
「怖い思いさせたよね? 花梨ちゃんの気が済むなら、あたしのことを警察に突き出してくれていいよ」
「……え」
私だけじゃない。
他の三人も、驚いて新島先輩に視線を注ぐ。
「ストーカーまがいなことをして、倉庫に詰め込んで暴言吐いて、ナイフ突きつけて。みんな優しいから警察沙汰になってないけど、充分あたしは罪になることをやったと思うの」
「新島先輩……」
確かに怖かった。
あんまりにも酷かったら警察に相談したら、と美波にも言われた。
だけど……。
新島先輩を警察に突き出したら、新島先輩はどうなるの?
新島先輩は、自分の犯した罪を認めて謝ってくれた。
謝って済む問題じゃないと言われるかもしれないけど、それでも私はようやく前を向いて歩けそうな新島先輩のことをもう一度信じたい。
だから、新島先輩が前を向いて歩く邪魔をしたくなかった。
「……もう、いいですよ。先輩のこと、警察に突き出したりとかしないので、安心してください」
「え、……何で? だって、あたし……」
「確かに怖かったし、殺されるのかとも思いました。だけど、新島先輩は本気でそんなことをする人だと思えないから」
「だから、何でそうなるのよ。あたしがあなたにしたことを考えたら、立派な犯罪じゃない」
「……そうかもしれません。でも、先輩はあのとき本気で私をどうにかしようとしてたと、私には思えないんです」
「何言って……」
「だって、本当に私をどうにかするつもりなら、きっとあのとき先輩は倉庫に鍵をかけてたはずだから……」
新島先輩が私を倉庫の中に連れ込んだとき、倉庫の鍵は開いていたんだ。
だから奏ちゃんや増川先輩が、新島先輩を止めに入って来れたというわけだ。
あの倉庫自体は、新島先輩の家が借りてる倉庫だったと聞いている。
新島先輩が鍵のかけ方くらい知っててもおかしくないはずなのに、それをしなかった。
その新島先輩の矛盾した行動の真意を考えた結果、私の頭の中にはひとつの仮説が浮かんでいたのだ。
「先輩は、誰かに止めてほしかったんですよね? 本当に取り返しのつかない犯罪を自分が犯してしまう前に……」
「ほんっと、あなたってどこまでもムカつく人ね。……だけど、花梨ちゃんの言う通りかもしれないわ……」
ポロポロと更に涙を流す新島先輩。
「ありがとね、花梨ちゃん。本当に、ごめんなさい……。もう二度とこんなことしないから」
きっと新島先輩の中で、私に対する想いは一生複雑なままだと思う。
だけど、この“ありがとう”と“ごめんなさい”は、なんとなく新島先輩が心から言ってくれてる言葉のように感じた。
そのとき、再びコンコンと扉をノックする音が響いた。
だけど、だんだんと新島先輩の気持ちがついていかなくなって、奏ちゃんに全てを打ち明けて、そう言ったらしい……。
でも、そうだよね。
最愛の人を私のせいで亡くしたんだもの。
そのくらいに恨まれてても当然だ。
「咲姉にそう言われたから花梨と別れた、っていうわけじゃないけどさ。確かに咲姉の気持ちも考えずに、俺も無神経だったところはあったと思う。だけど、さすがに今回のことに関して、俺は咲姉のことを許せない」
「……奏ちゃん」
悲しそうに、すがるような瞳で奏ちゃんを見つめる新島先輩。
「それ抜きでもさ、そろそろ止めなきゃとは思ってたよ。咲姉にはちゃんと幸せになってもらわなきゃ、兄ちゃんが心配すると思ってたから」
その言葉を聞いた瞬間、新島先輩の瞳から涙が溢れ出す。
「これ以上兄ちゃんを心配させないで、咲姉」
「奏ちゃん、あたし……」
涙を流しながらヨロヨロと力が抜けていく新島先輩の身体を、隣に座っていた増川先輩が支える。
「あたし、何も考えられてなかった。和ちゃんが亡くなってから自分のことで精一杯で。悲しくて悲しくて、どんどん自分の中に汚い感情が増えてくばかりで……これじゃあ和ちゃんが好きって言ってくれてたあたしからどんどんかけ離れていってるだけっだっていうのに……」
新島先輩は涙でいっぱいの猫目をこちらに向ける。
「花梨ちゃん、ごめんね。頭の中では、花梨ちゃんは悪くないってわかってるの。でも誰かのせいにしないと辛くて、結局目の前に現れた花梨ちゃんに当たってしまった……」
「いえ……」
「怖い思いさせたよね? 花梨ちゃんの気が済むなら、あたしのことを警察に突き出してくれていいよ」
「……え」
私だけじゃない。
他の三人も、驚いて新島先輩に視線を注ぐ。
「ストーカーまがいなことをして、倉庫に詰め込んで暴言吐いて、ナイフ突きつけて。みんな優しいから警察沙汰になってないけど、充分あたしは罪になることをやったと思うの」
「新島先輩……」
確かに怖かった。
あんまりにも酷かったら警察に相談したら、と美波にも言われた。
だけど……。
新島先輩を警察に突き出したら、新島先輩はどうなるの?
新島先輩は、自分の犯した罪を認めて謝ってくれた。
謝って済む問題じゃないと言われるかもしれないけど、それでも私はようやく前を向いて歩けそうな新島先輩のことをもう一度信じたい。
だから、新島先輩が前を向いて歩く邪魔をしたくなかった。
「……もう、いいですよ。先輩のこと、警察に突き出したりとかしないので、安心してください」
「え、……何で? だって、あたし……」
「確かに怖かったし、殺されるのかとも思いました。だけど、新島先輩は本気でそんなことをする人だと思えないから」
「だから、何でそうなるのよ。あたしがあなたにしたことを考えたら、立派な犯罪じゃない」
「……そうかもしれません。でも、先輩はあのとき本気で私をどうにかしようとしてたと、私には思えないんです」
「何言って……」
「だって、本当に私をどうにかするつもりなら、きっとあのとき先輩は倉庫に鍵をかけてたはずだから……」
新島先輩が私を倉庫の中に連れ込んだとき、倉庫の鍵は開いていたんだ。
だから奏ちゃんや増川先輩が、新島先輩を止めに入って来れたというわけだ。
あの倉庫自体は、新島先輩の家が借りてる倉庫だったと聞いている。
新島先輩が鍵のかけ方くらい知っててもおかしくないはずなのに、それをしなかった。
その新島先輩の矛盾した行動の真意を考えた結果、私の頭の中にはひとつの仮説が浮かんでいたのだ。
「先輩は、誰かに止めてほしかったんですよね? 本当に取り返しのつかない犯罪を自分が犯してしまう前に……」
「ほんっと、あなたってどこまでもムカつく人ね。……だけど、花梨ちゃんの言う通りかもしれないわ……」
ポロポロと更に涙を流す新島先輩。
「ありがとね、花梨ちゃん。本当に、ごめんなさい……。もう二度とこんなことしないから」
きっと新島先輩の中で、私に対する想いは一生複雑なままだと思う。
だけど、この“ありがとう”と“ごめんなさい”は、なんとなく新島先輩が心から言ってくれてる言葉のように感じた。
そのとき、再びコンコンと扉をノックする音が響いた。
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