空に想いを乗せて

美和優希

文字の大きさ
上 下
69 / 85
第5章

黒幕と突きつけられる真実(5)

しおりを挟む
「……何するつもり、ですか?」

「決まってるじゃない。和真の仇を取ってやるのよ」


 新島先輩の目を見て、本気で言ってるんだってわかった。


「ああ、もうひとつ教えてあげる。和真はね、あたしの最愛の彼氏だったのよ」

「……え?」


 奏ちゃんのお兄さんの和真さんは、花町三丁目交差点の事故で、私を助けようとして亡くなった。


 さっき、あの事故を目の前で見ていたと言った新島先輩。

 つまり新島先輩こそが、あの事故が起こったとき、私を睨みつけていた、お兄さんの彼女だったお姉さんだということなのだろう。


 私の記憶の中では、長い黒髪姿だったお姉さん。

 新島先輩は、肩までの茶髪。

 確かに運動会のときに見たキーホルダーの中の新島先輩は今より長い黒髪だったけれど……。記憶の中のお姉さんと新島先輩の印象が違いすぎて、二人が同一人物だなんて、全く考えたことがなかった。


「あのお兄さんの、彼女さん……? あのとき、お兄さんの傍にいた……」

「そうよ。今更気づいたのね。あたしたち、一度は顔を合わせてたって言うのに」


 新島先輩は、呆れたようにため息を吐き出す。


「あんたの名前は、手当たり次第にいろんな人に事故のことを聞きまわって、突き止めてたのよ。だから去年、新入生のところにあったあなたの名前を見たとき、すぐにわかった」


 向けられる、憎悪の目。

 新島先輩はさらに続ける。


「それだけでもイライラした。だけど、その時点ではここまでしようと思ってなかった。なのにあたしが卒業してから、どういうわけか、奏ちゃんとあんたが付き合い始めてた。あたしと和真を引き裂いておきながら、奏ちゃんの隣で幸せそうに笑うあんたを見て、復讐してやろうって気持ちが日に日に膨らんでいった」

「……そう、でしたか」


 恨まれても仕方ないと思ってた。

 だけど、これほどまでに恨まれていただなんて……。


 ただでさえお兄さんの未来を奪った挙げ句、恋人同士の二人をあんな形で引き裂いた私。

 そんな私がお兄さんの分も幸せになろうという考え自体が、甘かったんだ。


「そうでしたか、って、あんたバカにしてんの!?」

「そんなんじゃ、ないです。本当に申し訳なく思ってます……」

「申し訳なく思ってるなら、和真を返してよ! でも、あんたにはできないでしょ?」

「……っ」

「だったら、あんたが死を持って償うのが妥当なんじゃないの?」


 そう言って、 ナイフを持った新島先輩が大きく振りかぶった。


「……っ」


 声も出すことが出来ないまま、目の前の銀色の光を見ていると──。



 ガコンと大きな物音とともに、男性の叫ぶ声が耳に届いた。


「──やめるんだ、咲っ!」


 奏ちゃん……?

 にしては、少し声が高かったような気もするけど……。


「……和真っ?」


 新島先輩の手の中にあるナイフは私の目の前で止まり、新島先輩は声の聞こえた方を見つめて固まっている。


 私の肩をつかむ新島先輩の手の力も緩まっていた。


 だけど一瞬にして新島先輩の表情は落胆を示すものへと変わり、その声の主を睨みつける。


「何よ、奏ちゃん。紛らわしいことして邪魔しないでよ」

 やっぱり、奏ちゃんだったの……?

 新島先輩の力が緩んだ隙に身体を動かそうとしてみたけれど、やっぱりそれなりの力はかかってるみたいで、思うように身体が動かない。


「やっと、和真のことを救ってあげられるんだから──」


 再び新島先輩が振りかぶる。

 ものすごい勢いで目の前に刃先が近づいてきて、今度は思わず身体を捩って目をつむった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...