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第5章
黒幕と突きつけられる真実(5)
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「……何するつもり、ですか?」
「決まってるじゃない。和真の仇を取ってやるのよ」
新島先輩の目を見て、本気で言ってるんだってわかった。
「ああ、もうひとつ教えてあげる。和真はね、あたしの最愛の彼氏だったのよ」
「……え?」
奏ちゃんのお兄さんの和真さんは、花町三丁目交差点の事故で、私を助けようとして亡くなった。
さっき、あの事故を目の前で見ていたと言った新島先輩。
つまり新島先輩こそが、あの事故が起こったとき、私を睨みつけていた、お兄さんの彼女だったお姉さんだということなのだろう。
私の記憶の中では、長い黒髪姿だったお姉さん。
新島先輩は、肩までの茶髪。
確かに運動会のときに見たキーホルダーの中の新島先輩は今より長い黒髪だったけれど……。記憶の中のお姉さんと新島先輩の印象が違いすぎて、二人が同一人物だなんて、全く考えたことがなかった。
「あのお兄さんの、彼女さん……? あのとき、お兄さんの傍にいた……」
「そうよ。今更気づいたのね。あたしたち、一度は顔を合わせてたって言うのに」
新島先輩は、呆れたようにため息を吐き出す。
「あんたの名前は、手当たり次第にいろんな人に事故のことを聞きまわって、突き止めてたのよ。だから去年、新入生のところにあったあなたの名前を見たとき、すぐにわかった」
向けられる、憎悪の目。
新島先輩はさらに続ける。
「それだけでもイライラした。だけど、その時点ではここまでしようと思ってなかった。なのにあたしが卒業してから、どういうわけか、奏ちゃんとあんたが付き合い始めてた。あたしと和真を引き裂いておきながら、奏ちゃんの隣で幸せそうに笑うあんたを見て、復讐してやろうって気持ちが日に日に膨らんでいった」
「……そう、でしたか」
恨まれても仕方ないと思ってた。
だけど、これほどまでに恨まれていただなんて……。
ただでさえお兄さんの未来を奪った挙げ句、恋人同士の二人をあんな形で引き裂いた私。
そんな私がお兄さんの分も幸せになろうという考え自体が、甘かったんだ。
「そうでしたか、って、あんたバカにしてんの!?」
「そんなんじゃ、ないです。本当に申し訳なく思ってます……」
「申し訳なく思ってるなら、和真を返してよ! でも、あんたにはできないでしょ?」
「……っ」
「だったら、あんたが死を持って償うのが妥当なんじゃないの?」
そう言って、 ナイフを持った新島先輩が大きく振りかぶった。
「……っ」
声も出すことが出来ないまま、目の前の銀色の光を見ていると──。
ガコンと大きな物音とともに、男性の叫ぶ声が耳に届いた。
「──やめるんだ、咲っ!」
奏ちゃん……?
にしては、少し声が高かったような気もするけど……。
「……和真っ?」
新島先輩の手の中にあるナイフは私の目の前で止まり、新島先輩は声の聞こえた方を見つめて固まっている。
私の肩をつかむ新島先輩の手の力も緩まっていた。
だけど一瞬にして新島先輩の表情は落胆を示すものへと変わり、その声の主を睨みつける。
「何よ、奏ちゃん。紛らわしいことして邪魔しないでよ」
やっぱり、奏ちゃんだったの……?
新島先輩の力が緩んだ隙に身体を動かそうとしてみたけれど、やっぱりそれなりの力はかかってるみたいで、思うように身体が動かない。
「やっと、和真のことを救ってあげられるんだから──」
再び新島先輩が振りかぶる。
ものすごい勢いで目の前に刃先が近づいてきて、今度は思わず身体を捩って目をつむった。
「決まってるじゃない。和真の仇を取ってやるのよ」
新島先輩の目を見て、本気で言ってるんだってわかった。
「ああ、もうひとつ教えてあげる。和真はね、あたしの最愛の彼氏だったのよ」
「……え?」
奏ちゃんのお兄さんの和真さんは、花町三丁目交差点の事故で、私を助けようとして亡くなった。
さっき、あの事故を目の前で見ていたと言った新島先輩。
つまり新島先輩こそが、あの事故が起こったとき、私を睨みつけていた、お兄さんの彼女だったお姉さんだということなのだろう。
私の記憶の中では、長い黒髪姿だったお姉さん。
新島先輩は、肩までの茶髪。
確かに運動会のときに見たキーホルダーの中の新島先輩は今より長い黒髪だったけれど……。記憶の中のお姉さんと新島先輩の印象が違いすぎて、二人が同一人物だなんて、全く考えたことがなかった。
「あのお兄さんの、彼女さん……? あのとき、お兄さんの傍にいた……」
「そうよ。今更気づいたのね。あたしたち、一度は顔を合わせてたって言うのに」
新島先輩は、呆れたようにため息を吐き出す。
「あんたの名前は、手当たり次第にいろんな人に事故のことを聞きまわって、突き止めてたのよ。だから去年、新入生のところにあったあなたの名前を見たとき、すぐにわかった」
向けられる、憎悪の目。
新島先輩はさらに続ける。
「それだけでもイライラした。だけど、その時点ではここまでしようと思ってなかった。なのにあたしが卒業してから、どういうわけか、奏ちゃんとあんたが付き合い始めてた。あたしと和真を引き裂いておきながら、奏ちゃんの隣で幸せそうに笑うあんたを見て、復讐してやろうって気持ちが日に日に膨らんでいった」
「……そう、でしたか」
恨まれても仕方ないと思ってた。
だけど、これほどまでに恨まれていただなんて……。
ただでさえお兄さんの未来を奪った挙げ句、恋人同士の二人をあんな形で引き裂いた私。
そんな私がお兄さんの分も幸せになろうという考え自体が、甘かったんだ。
「そうでしたか、って、あんたバカにしてんの!?」
「そんなんじゃ、ないです。本当に申し訳なく思ってます……」
「申し訳なく思ってるなら、和真を返してよ! でも、あんたにはできないでしょ?」
「……っ」
「だったら、あんたが死を持って償うのが妥当なんじゃないの?」
そう言って、 ナイフを持った新島先輩が大きく振りかぶった。
「……っ」
声も出すことが出来ないまま、目の前の銀色の光を見ていると──。
ガコンと大きな物音とともに、男性の叫ぶ声が耳に届いた。
「──やめるんだ、咲っ!」
奏ちゃん……?
にしては、少し声が高かったような気もするけど……。
「……和真っ?」
新島先輩の手の中にあるナイフは私の目の前で止まり、新島先輩は声の聞こえた方を見つめて固まっている。
私の肩をつかむ新島先輩の手の力も緩まっていた。
だけど一瞬にして新島先輩の表情は落胆を示すものへと変わり、その声の主を睨みつける。
「何よ、奏ちゃん。紛らわしいことして邪魔しないでよ」
やっぱり、奏ちゃんだったの……?
新島先輩の力が緩んだ隙に身体を動かそうとしてみたけれど、やっぱりそれなりの力はかかってるみたいで、思うように身体が動かない。
「やっと、和真のことを救ってあげられるんだから──」
再び新島先輩が振りかぶる。
ものすごい勢いで目の前に刃先が近づいてきて、今度は思わず身体を捩って目をつむった。
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