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第5章
忍び寄る影(3)
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「そんなに走って、どうしたんだ」
「え、っと……」
ちらりと目だけでさっきまで走ってきた道を見ても、やっぱり誰もいない気がする。
暗いから、実際のところはよくわからないんだけどね。
「まぁいい。それより今日は学力テストだったそうじゃないか」
「え、……はい」
あまりいい思い出のないこのやりとりに、一瞬身体が強ばる。
だけど次の瞬間私の頭に触れたのは、優しい手つきの大きな手。
「イブなのによく頑張ったな。早く帰って夜ご飯にしよう。今年は、母さんが腕を奮うと張り切ってたからな」
「う、うん……」
「明日には、サンタからクリスマスプレゼントが届くぞ」
「そんな、サンタだなんて。私はもう高校二年なのに?」
「ハハハ。花梨はもうサンタはどうでもいいか? 奈穂は飛び上がって楽しみにしてたぞ」
あたたかい……。
つい、半年ほど前までは考えられなかった、私とお父さんのやり取り。
本当に、これもあのとき奏ちゃんが私の背中を押してくれたからなんだよね……?
さすがにもう、奏ちゃんに報告することなんて、できないけれど。
いつの間にか消えてしまっていた、背後から響いていた足音。
お父さんとの温かいやり取りに、私の心はすっかりさっきの恐怖から抜け出していた。
クリスマスの朝には、お父さんの言っていた通り、クリスマスツリーの下に奈穂の分と二つクリスマスプレゼントが置かれていた。
奈穂は、最近ずっと欲しがっていたおもちゃで、私は新しい腕時計だった。
学校が冬休みに入ると同時に、塾は本格的に冬期講習に入った。
特に何の変哲もない日々を重ねているうちに年が明けてしまった。
お正月三が日が明けて、自宅の自室でまだ残っていた学校の課題をしていたとき、スマホの着信音が鳴った。
「……あれ?」
もしもし、と電話に出たはずなのに、向こうは一向にしゃべってこない。
かける相手を間違えて、何言っていいかわからない、とか……?
画面に表示されていた番号を確認せずに出てしまったから、もしかしたら知らない番号からかかってきてたのかも知れない。
それとも、イタズラ電話の類いの無言電話だったりする……?
「……もしもし? 大丈夫ですか?」
携帯電話の画面を見ると、まだ通話中。
不思議に思って、電話口にそう呼び掛けてみるも──。
『…………消えろ、岸本花梨』
耳元で聞こえたのは、ものすごく殺気を帯びた声。
「……ひっ!」
思わず手から滑り落ちそうになったスマホを、慌ててつかみなおす。
だけど次に聞こえたのは、ツーツーと、電話が切れてしまったことを表す音だった。
な、なんだったの……?
着信履歴を確認してみるも、“非通知”という文字が残されているのみ。
今も耳元に残る低く嗄れたように聞こえた声は男性の声のようにも思えたが、人間の声にしては機械的で、ボイスチェンジャーで加工されたもののようにも聞こえた。
そうなれば、性別さえ予測不能になる。
本当に、誰だったのだろう?
考えたって、心当たりのある人なんていない。
少なくとも自分のアドレス帳に登録してる人には、そんなことをするような人は、いないように思う。
けれど、そもそも自分が電話番号まで教えている人自体がそんなにいないし、疑いたくなくても考えてしまう。
でも私の名前も知ってるみたいだったし、きっと私の知ってる誰かの可能性が高いよね……?
変に関わっても付け上がられるだけな気がして、私は一向に無視を決め込むことにした。
それからというもの、非通知の電話自体が増えた。
着信履歴:8件
その下にずらりと並んだ非通知の文字に、うんざりする。
冬期講習最終日の授業を終えてスマホを確認したら、これだ。
どれだけこの嫌がらせの主は暇なのか……。
「え、っと……」
ちらりと目だけでさっきまで走ってきた道を見ても、やっぱり誰もいない気がする。
暗いから、実際のところはよくわからないんだけどね。
「まぁいい。それより今日は学力テストだったそうじゃないか」
「え、……はい」
あまりいい思い出のないこのやりとりに、一瞬身体が強ばる。
だけど次の瞬間私の頭に触れたのは、優しい手つきの大きな手。
「イブなのによく頑張ったな。早く帰って夜ご飯にしよう。今年は、母さんが腕を奮うと張り切ってたからな」
「う、うん……」
「明日には、サンタからクリスマスプレゼントが届くぞ」
「そんな、サンタだなんて。私はもう高校二年なのに?」
「ハハハ。花梨はもうサンタはどうでもいいか? 奈穂は飛び上がって楽しみにしてたぞ」
あたたかい……。
つい、半年ほど前までは考えられなかった、私とお父さんのやり取り。
本当に、これもあのとき奏ちゃんが私の背中を押してくれたからなんだよね……?
さすがにもう、奏ちゃんに報告することなんて、できないけれど。
いつの間にか消えてしまっていた、背後から響いていた足音。
お父さんとの温かいやり取りに、私の心はすっかりさっきの恐怖から抜け出していた。
クリスマスの朝には、お父さんの言っていた通り、クリスマスツリーの下に奈穂の分と二つクリスマスプレゼントが置かれていた。
奈穂は、最近ずっと欲しがっていたおもちゃで、私は新しい腕時計だった。
学校が冬休みに入ると同時に、塾は本格的に冬期講習に入った。
特に何の変哲もない日々を重ねているうちに年が明けてしまった。
お正月三が日が明けて、自宅の自室でまだ残っていた学校の課題をしていたとき、スマホの着信音が鳴った。
「……あれ?」
もしもし、と電話に出たはずなのに、向こうは一向にしゃべってこない。
かける相手を間違えて、何言っていいかわからない、とか……?
画面に表示されていた番号を確認せずに出てしまったから、もしかしたら知らない番号からかかってきてたのかも知れない。
それとも、イタズラ電話の類いの無言電話だったりする……?
「……もしもし? 大丈夫ですか?」
携帯電話の画面を見ると、まだ通話中。
不思議に思って、電話口にそう呼び掛けてみるも──。
『…………消えろ、岸本花梨』
耳元で聞こえたのは、ものすごく殺気を帯びた声。
「……ひっ!」
思わず手から滑り落ちそうになったスマホを、慌ててつかみなおす。
だけど次に聞こえたのは、ツーツーと、電話が切れてしまったことを表す音だった。
な、なんだったの……?
着信履歴を確認してみるも、“非通知”という文字が残されているのみ。
今も耳元に残る低く嗄れたように聞こえた声は男性の声のようにも思えたが、人間の声にしては機械的で、ボイスチェンジャーで加工されたもののようにも聞こえた。
そうなれば、性別さえ予測不能になる。
本当に、誰だったのだろう?
考えたって、心当たりのある人なんていない。
少なくとも自分のアドレス帳に登録してる人には、そんなことをするような人は、いないように思う。
けれど、そもそも自分が電話番号まで教えている人自体がそんなにいないし、疑いたくなくても考えてしまう。
でも私の名前も知ってるみたいだったし、きっと私の知ってる誰かの可能性が高いよね……?
変に関わっても付け上がられるだけな気がして、私は一向に無視を決め込むことにした。
それからというもの、非通知の電話自体が増えた。
着信履歴:8件
その下にずらりと並んだ非通知の文字に、うんざりする。
冬期講習最終日の授業を終えてスマホを確認したら、これだ。
どれだけこの嫌がらせの主は暇なのか……。
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