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第5章
忍び寄る影(1)
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奏ちゃんと別れて、一ヶ月半以上が経った。
世間は、クリスマスシーズンの十二月。
クリスマスとは名ばかりで、私はちょうどクリスマスイブに実施された塾の学力テストを受け終えたところだ。
「花梨、お疲れ」
「あ、お疲れさま」
その声に顔を上げると、もう帰る支度を済ませた美波の姿があった。
「イブにテストとか、本当ここの塾、空気読めてないよね~。去年もクリスマスにテストだったし」
「美波に言われるまで忘れてたけど、確かにそうだったね」
「花梨は、このあと予定は?」
「うーん、特にないかな。今年はお母さんがクリスマスの料理してくれるみたいだし。奈穂のためにサンタさんするくらいかな」
私もカバンの中に荷物を詰め終えて、二人で塾を出る。
今日のテストから冬期講習の時間帯になっているため、それほど夜も遅くなくまだ17時半。
とはいっても、さすが日が短い季節なだけあって、外は真っ暗。
頬を撫でる風が、冷たすぎて痛いくらい。
「本当、花梨の家、以前から変わったよね」
「うん、これも奏ちゃんのおかげだよ」
「そういえば、そうだった。ごめんね」
私の言葉に、少し焦ったように謝る美波。
故意じゃなくても、奏ちゃんを連想してしまう話題を出してしまったことに焦っているのだろう。
「大丈夫だよ、美波。私なら平気だから」
時間が一番の薬とはよく言うもので、以前ほど奏ちゃんのことで涙を流してしまうことは減った。
「そう? でもやっぱり花梨は自覚してないみたいだけど、元気ないよ」
「そうでもないよ」
心配そうに私の表情をうかがう美波に、笑って見せる。
「で、どうかした? このあとの予定聞くなんて」
「花梨の家、少し緩くなったって聞いてたし、もしよかったらなんだけど……」
美波は私の前にバンと一枚のチラシを取り出した。
「駅前のパフェ屋さん! 先週の日曜にオープンしたばかりなのよ。テストも終わったことだし、少しだけ寄ってかない?」
「うん。一応家に連絡するから、ちょっと待って」
私は、カバンの中のスマホを手に取った。
*
久しぶりの駅前。
駅前は塾から家に帰る方向とは反対方向になるから、奏ちゃんと別れてからは、Wild Wolfのライブをこっそり観に来たとき以来だ。
家に電話した結果、19時からクリスマスパーティーをするから、それまでに家に帰ってくればOKと言ってもらえた。
「やっぱり結構混んでるね~。花梨、どうする?」
お目当てのパフェ屋さんの前に来たものの、お店の外までお客さんであふれ返っている。
「うーん、そうだなぁ」
いくら家に電話してOKの返事をもらったとはいえ、さすがにこれだけ並べば、約束の19時までに家に帰れるかはわからない。
そうでなくても今日はイブだし、奈穂も楽しみにしてくれてるから約束の時間までには帰らないといけないしなぁ……。
「見て、花梨! あまりの混雑具合に、今日は特別にお持ち帰りもOKって書いてあるよ!」
「本当?」
「じゃあ、お持ち帰りにしよっか。それなら、花梨の家も門限に間に合うよね?」
「気を使わせてごめんね」
「ううん。さすがに私もこれだけの順番を待つのは嫌だし」
ハハっと笑う美波と一緒に、お持ち帰りの人専用のレジに並ぶ。
かなりマシとはいえ、お持ち帰りの列もそれなりに長い。
だけど、しばらくして辛うじて暖かい店舗の中に入れた。
「外で待つことを思えば、極楽ね」
さっきまで膝をガクガク震わせてたのに、今では首もとに巻いてたマフラーまで外している美波。
「今日は特に寒いもんね」
「本当。毎日のように天気予報でこの冬一番の冷え込みって聞かされてるような気がするもん」
そんな会話をしながらも、ゆっくりながらにも、徐々に前へ前へと順番が進む。
ちょうど列の半分くらいまで来たときだった。
「ちょっ、奏ちゃん! まだ食べちゃダメだって!」
「咲姉が黙っててくれたらわかんねぇって」
聞き覚えのある声が、前方から聞こえて来た。
世間は、クリスマスシーズンの十二月。
クリスマスとは名ばかりで、私はちょうどクリスマスイブに実施された塾の学力テストを受け終えたところだ。
「花梨、お疲れ」
「あ、お疲れさま」
その声に顔を上げると、もう帰る支度を済ませた美波の姿があった。
「イブにテストとか、本当ここの塾、空気読めてないよね~。去年もクリスマスにテストだったし」
「美波に言われるまで忘れてたけど、確かにそうだったね」
「花梨は、このあと予定は?」
「うーん、特にないかな。今年はお母さんがクリスマスの料理してくれるみたいだし。奈穂のためにサンタさんするくらいかな」
私もカバンの中に荷物を詰め終えて、二人で塾を出る。
今日のテストから冬期講習の時間帯になっているため、それほど夜も遅くなくまだ17時半。
とはいっても、さすが日が短い季節なだけあって、外は真っ暗。
頬を撫でる風が、冷たすぎて痛いくらい。
「本当、花梨の家、以前から変わったよね」
「うん、これも奏ちゃんのおかげだよ」
「そういえば、そうだった。ごめんね」
私の言葉に、少し焦ったように謝る美波。
故意じゃなくても、奏ちゃんを連想してしまう話題を出してしまったことに焦っているのだろう。
「大丈夫だよ、美波。私なら平気だから」
時間が一番の薬とはよく言うもので、以前ほど奏ちゃんのことで涙を流してしまうことは減った。
「そう? でもやっぱり花梨は自覚してないみたいだけど、元気ないよ」
「そうでもないよ」
心配そうに私の表情をうかがう美波に、笑って見せる。
「で、どうかした? このあとの予定聞くなんて」
「花梨の家、少し緩くなったって聞いてたし、もしよかったらなんだけど……」
美波は私の前にバンと一枚のチラシを取り出した。
「駅前のパフェ屋さん! 先週の日曜にオープンしたばかりなのよ。テストも終わったことだし、少しだけ寄ってかない?」
「うん。一応家に連絡するから、ちょっと待って」
私は、カバンの中のスマホを手に取った。
*
久しぶりの駅前。
駅前は塾から家に帰る方向とは反対方向になるから、奏ちゃんと別れてからは、Wild Wolfのライブをこっそり観に来たとき以来だ。
家に電話した結果、19時からクリスマスパーティーをするから、それまでに家に帰ってくればOKと言ってもらえた。
「やっぱり結構混んでるね~。花梨、どうする?」
お目当てのパフェ屋さんの前に来たものの、お店の外までお客さんであふれ返っている。
「うーん、そうだなぁ」
いくら家に電話してOKの返事をもらったとはいえ、さすがにこれだけ並べば、約束の19時までに家に帰れるかはわからない。
そうでなくても今日はイブだし、奈穂も楽しみにしてくれてるから約束の時間までには帰らないといけないしなぁ……。
「見て、花梨! あまりの混雑具合に、今日は特別にお持ち帰りもOKって書いてあるよ!」
「本当?」
「じゃあ、お持ち帰りにしよっか。それなら、花梨の家も門限に間に合うよね?」
「気を使わせてごめんね」
「ううん。さすがに私もこれだけの順番を待つのは嫌だし」
ハハっと笑う美波と一緒に、お持ち帰りの人専用のレジに並ぶ。
かなりマシとはいえ、お持ち帰りの列もそれなりに長い。
だけど、しばらくして辛うじて暖かい店舗の中に入れた。
「外で待つことを思えば、極楽ね」
さっきまで膝をガクガク震わせてたのに、今では首もとに巻いてたマフラーまで外している美波。
「今日は特に寒いもんね」
「本当。毎日のように天気予報でこの冬一番の冷え込みって聞かされてるような気がするもん」
そんな会話をしながらも、ゆっくりながらにも、徐々に前へ前へと順番が進む。
ちょうど列の半分くらいまで来たときだった。
「ちょっ、奏ちゃん! まだ食べちゃダメだって!」
「咲姉が黙っててくれたらわかんねぇって」
聞き覚えのある声が、前方から聞こえて来た。
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