空に想いを乗せて

美和優希

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第4章

突然の別れ(5)

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「……やっぱり。昨日の花梨の様子で、そんな感じがした」

「ご、ごめんね」


 私の反応に肩を落とした奏ちゃん。

 もし奏ちゃんに非がないとしたら、私の昨日の態度は、奏ちゃんに対してとても失礼な態度だったと思う。


 でも……。

「なんで花梨はそう思ったの?」


 奏ちゃんが聞いた。

 私が今、心の中でモヤとなっている部分について。


「……何言われても怒らないから。言って」


 私が口ごもっていたからなのか、奏ちゃんはそう付け加える。


「……運動会のときに、新島先輩の落としたキーホルダーの中を見ちゃったの。奏ちゃんと新島先輩が、抱き合って写った写真が入ってた」


 そっと奏ちゃんの方を見ると、驚いたとも困惑したとも取れるような表情を浮かべている。


「……他にも、まだ何かある?」

「私がバロンで北原くんにお菓子を渡して帰った日。……奏ちゃんと新島先輩が抱き合ってた」

「あれは抱き合ってたわけじゃ……って」


 奏ちゃんはバッと顔を上げて私に言い返す、けれど。


「花梨、見てたの……?」

 一瞬にして、その顔色は変わった。


 額に手を当てて、前髪をくしゃりとわしづかみにする奏ちゃん。その顔は明らかに困惑に歪んでいる。

 でも、今のでわかってしまった。

 あれが、私の見間違いでも何でもなかったってことが。


「……何で」


 今度は、私が聞く番だった。


 そういえば、北原くんが言ってた。

 奏ちゃんと新島先輩の関係は、幼なじみでバンド仲間なだけじゃないって。

 それと関係があるんだよね……?


 だけど、奏ちゃんは気まずそうに下唇を噛んで、地面を見つめているだけ。


 何か言ってよ……。

 自然と手足が震える。



「……奏ちゃん」


 何とか喉から出た声は、思った以上に弱々しくて掠れていた。


 それにハッとしたようにこちらを見る奏ちゃん。


 奏ちゃんは再び少し考えるように眉を寄せたあと、口を開いた。


「咲姉とは、花梨が思ってるような仲じゃねーから」

「それって、どういう……」

「だから、咲姉と今どうかなってるとかもないし、元カノとかそんなんでもない」

「じゃあ、何?」


 思ってたより、キツい言い方で口から飛び出した言葉。

 奏ちゃんを責めてるわけじゃないけど、これじゃあ責めてるみたいだ。


「咲姉とは……何もない」

「じゃあ、何で」

「だから、あれは……っ」


 だけど、そこから先は一向に話してくれる気配のない奏ちゃん。


 やましいことが何もないなら、話せるんじゃないの?

 こんなのじゃ、同じことの堂々巡りだよ……!


「何で、何も言わないの……」


 泣いたら冷静に話なんてできないのに、自然と涙が溢れ出ていた。


「……花梨」

「ねぇ、本当に何もないなら、言えるんじゃないの?」

「ごめん……」

「ねぇ、奏ちゃん……」

「ごめん、花梨。俺……」


 困ったようにうつむく奏ちゃん。

 苦しそうに、奏ちゃんも今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「……奏ちゃん?」

「ごめん。俺、多分花梨を傷つけることしかできない」

「何で……?」


 何でそんなこと言うの……?


「何でって、聞かれても……」


 やっぱり、答えてはくれないんだ。


 ねぇ、奏ちゃん。

 奏ちゃんは、一体何をそこまで必死になって私に隠してるの……?


「私には、話せないようなことなの?」 

「……ごめんな。これ以上、花梨のことを傷つけたくないんだ。だから……」


 苦しそうにそう言って、潤いの増した瞳で私を見つめる奏ちゃん。


「……ごめん、花梨。俺ら、別れよう」

「……え」

「俺のこと、最低だって嫌ってくれていいから。咲姉とのことも、花梨の好きに思っててくれていいから」

「何で……」

「ごめんな、花梨」

「そんな……っ」


 目の前が、真っ白になるようだった。

 奏ちゃんは、“ごめん”ばかりで、結局最後まで何も言ってくれなかった。
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