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第4章
突然の別れ(3)
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「あーちゃんは、魔女っ子リサちゃんがすきだから、これとかすきだとおもうの!」
“魔女っ子リサちゃん”とは、今小さい女の子たちの間で人気のアニメ。
おもちゃ売り場で、さっそくそのキャラクターのお弁当箱を手にとって奈穂が叫ぶ。
「そうなんだ。お弁当箱なら、この袋を一緒につけると、ペアみたいになってよさそうだよね」
私はお弁当箱の隣にあったお弁当を入れる巾着を、奈穂の持つお弁当箱のところに持ってくる。
「わーっ! すてきー! でも、こっちのほうがいいかなぁ?」
そう言って、隣の売り場に小走りで移動する奈穂。
次に奈穂が手に取ったのも“魔女っ子リサちゃん”の人形。
「そうねぇ。どっちも喜んでくれるとは思うけど……。あーちゃんって子は、人形とか好きなの?」
そう聞くと、うーんと首をかしげる奈穂。
奈穂は、しばらくああだこうだ考えてたけど、結局最初に見たお弁当箱とお弁当を入れる巾着にすることにしたようだ。
お会計を済ませて、駅までの道を歩く。
そういや以前、デートでもこの道を通ったな……。
今は奈穂と手を繋ぎながらだけど、あのときは奏ちゃんと手を繋ぎながらだった。
隣でご機嫌に童謡を歌いながら歩く奈穂の声を聞きながらあの日のことを思い出していると、突然奈穂が大きな声を上げた。
「あっ! このまえのおねーさん!」
「こらこら。人に向かって指ささないの。……え?」
奈穂が指さした先。
そこに視線を向けたとき、ズキンと胸の奥が痛んだ。
「奏、ちゃん……」
と、新島先輩。
反対側の歩道を、向かい側から歩いてきている。
幸いにも、さっきの奈穂の声は聞こえてなかったみたいで、二人ともこちらの様子に気づく気配はない。
だけど、次の瞬間。
新島先輩が何かにつまずいたのか、ガクンとよろけて奏ちゃんの身体にしがみついた。
奏ちゃんの身体に回される新島先輩の腕。
「キャー! おねーさん、ラブラブ~!」
「こ、こら! 奈穂!」
目の前の光景に興奮したのか、そんなませたことを叫ぶ奈穂の口を慌てて塞ぐ。
だけど、すでに遅かったみたい。
「花梨……っ!」
反対側の歩道にいた二人は奈穂の声にこちらを向いて、私たちに気づいていたのだから。
私に気づくなり、新島先輩の腕を自分の身体から引き離す奏ちゃん。
奏ちゃんは、どこか決まりが悪そうにしながらもこちらに来ようとするけれど。
「お邪魔してすみません。ほら、奈穂、行こっ!」
私は二人に頭を下げると、奈穂を抱えるようにしてその場から逃げ出してしまった。
頭ではこんなのダメだってわかってるのに、感情の赴くままに身体が勝手に動いていた。
「キャー! おねーちゃん、どうしたのー? しんかんせんみたいー!」
何も分かってない奈穂は、突然の私の行動にも興奮して楽しんでいるようだ。
「花梨! 待ってよ!」
それと同時に聞こえるのは、奏ちゃんの声。
奏ちゃんが、追いかけて来てくれてるんだ。
待ったら、奏ちゃんに何を言われるの?
怖かった。ただ、怖かった。
今はこれ以上傷つきたくなくて、とにかく身体が動くままに、反射的に駅に向かって走っていた。
だけど、足の速い奏ちゃんから逃げられるわけもなく……。
「待って、花梨!」
奏ちゃんは私を易々と追い抜くと、私の前に通せんぼした。
思わず足を止める。
息も切れ切れで、汗で髪も貼り付いて、気持ち悪い。
「何誤解してんだよ! 咲姉とはそんなんじゃ……」
「ごめん。今、妹といるから。話なら明日にして」
自分でも、びっくりするくらいに低くて冷たい声が出た。
「え……」
奏ちゃんの背中側には、もうすぐそこに駅が見えている。
私は困惑したように固まった奏ちゃんを追い越すと、再び駅に向かって走って改札機に乗車券を通した。
来たときに、帰りの分の切符も買っておいて良かった……。
「おねーちゃん、いいの? さっきのおにーちゃん、おこってたよ?」
「奈穂は心配しなくて大丈夫よ。あとで、ちゃんと仲直りするから」
どこまでわかってるのかはわからないけど、奈穂なりに気を使ってくれてるのかな?
「うん! ちゃんとごめんなさいするんだよ?」
だけど、偶然来た電車に乗るなり、無邪気にそんなことを言う奈穂の姿が、胸の傷に沁みた。
本当に逃げて帰って来ちゃった……。
あのときは奈穂がいたから、話は明日にしてって言っちゃったけど、どんな顔をして会えばいいんだろう……?
“魔女っ子リサちゃん”とは、今小さい女の子たちの間で人気のアニメ。
おもちゃ売り場で、さっそくそのキャラクターのお弁当箱を手にとって奈穂が叫ぶ。
「そうなんだ。お弁当箱なら、この袋を一緒につけると、ペアみたいになってよさそうだよね」
私はお弁当箱の隣にあったお弁当を入れる巾着を、奈穂の持つお弁当箱のところに持ってくる。
「わーっ! すてきー! でも、こっちのほうがいいかなぁ?」
そう言って、隣の売り場に小走りで移動する奈穂。
次に奈穂が手に取ったのも“魔女っ子リサちゃん”の人形。
「そうねぇ。どっちも喜んでくれるとは思うけど……。あーちゃんって子は、人形とか好きなの?」
そう聞くと、うーんと首をかしげる奈穂。
奈穂は、しばらくああだこうだ考えてたけど、結局最初に見たお弁当箱とお弁当を入れる巾着にすることにしたようだ。
お会計を済ませて、駅までの道を歩く。
そういや以前、デートでもこの道を通ったな……。
今は奈穂と手を繋ぎながらだけど、あのときは奏ちゃんと手を繋ぎながらだった。
隣でご機嫌に童謡を歌いながら歩く奈穂の声を聞きながらあの日のことを思い出していると、突然奈穂が大きな声を上げた。
「あっ! このまえのおねーさん!」
「こらこら。人に向かって指ささないの。……え?」
奈穂が指さした先。
そこに視線を向けたとき、ズキンと胸の奥が痛んだ。
「奏、ちゃん……」
と、新島先輩。
反対側の歩道を、向かい側から歩いてきている。
幸いにも、さっきの奈穂の声は聞こえてなかったみたいで、二人ともこちらの様子に気づく気配はない。
だけど、次の瞬間。
新島先輩が何かにつまずいたのか、ガクンとよろけて奏ちゃんの身体にしがみついた。
奏ちゃんの身体に回される新島先輩の腕。
「キャー! おねーさん、ラブラブ~!」
「こ、こら! 奈穂!」
目の前の光景に興奮したのか、そんなませたことを叫ぶ奈穂の口を慌てて塞ぐ。
だけど、すでに遅かったみたい。
「花梨……っ!」
反対側の歩道にいた二人は奈穂の声にこちらを向いて、私たちに気づいていたのだから。
私に気づくなり、新島先輩の腕を自分の身体から引き離す奏ちゃん。
奏ちゃんは、どこか決まりが悪そうにしながらもこちらに来ようとするけれど。
「お邪魔してすみません。ほら、奈穂、行こっ!」
私は二人に頭を下げると、奈穂を抱えるようにしてその場から逃げ出してしまった。
頭ではこんなのダメだってわかってるのに、感情の赴くままに身体が勝手に動いていた。
「キャー! おねーちゃん、どうしたのー? しんかんせんみたいー!」
何も分かってない奈穂は、突然の私の行動にも興奮して楽しんでいるようだ。
「花梨! 待ってよ!」
それと同時に聞こえるのは、奏ちゃんの声。
奏ちゃんが、追いかけて来てくれてるんだ。
待ったら、奏ちゃんに何を言われるの?
怖かった。ただ、怖かった。
今はこれ以上傷つきたくなくて、とにかく身体が動くままに、反射的に駅に向かって走っていた。
だけど、足の速い奏ちゃんから逃げられるわけもなく……。
「待って、花梨!」
奏ちゃんは私を易々と追い抜くと、私の前に通せんぼした。
思わず足を止める。
息も切れ切れで、汗で髪も貼り付いて、気持ち悪い。
「何誤解してんだよ! 咲姉とはそんなんじゃ……」
「ごめん。今、妹といるから。話なら明日にして」
自分でも、びっくりするくらいに低くて冷たい声が出た。
「え……」
奏ちゃんの背中側には、もうすぐそこに駅が見えている。
私は困惑したように固まった奏ちゃんを追い越すと、再び駅に向かって走って改札機に乗車券を通した。
来たときに、帰りの分の切符も買っておいて良かった……。
「おねーちゃん、いいの? さっきのおにーちゃん、おこってたよ?」
「奈穂は心配しなくて大丈夫よ。あとで、ちゃんと仲直りするから」
どこまでわかってるのかはわからないけど、奈穂なりに気を使ってくれてるのかな?
「うん! ちゃんとごめんなさいするんだよ?」
だけど、偶然来た電車に乗るなり、無邪気にそんなことを言う奈穂の姿が、胸の傷に沁みた。
本当に逃げて帰って来ちゃった……。
あのときは奈穂がいたから、話は明日にしてって言っちゃったけど、どんな顔をして会えばいいんだろう……?
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