空に想いを乗せて

美和優希

文字の大きさ
上 下
54 / 85
第4章

突然の別れ(2)

しおりを挟む
 *


「花梨~、昨日はどういうことだよ~」


 教室に戻ると、ふて腐れた様子の奏ちゃんが私を出迎えた。

 私が居ない間に登校してきていたみたい。


「来たなら来たって一言言ってくれたっていいだろ~? 瑛ちゃんとだけ話して帰るとかさ」

「ご、ごめんね」


 でも、そう言う奏ちゃんだって、話しかけられるような雰囲気じゃなかったじゃない……。


 奏ちゃんは、私があの新島先輩との光景を見てたって言ったら、何て言うのだろう……。


「あのね、奏ちゃん……」

「はーい、席につけー! 今日は久しぶりに席替えするぞー!」


 ほんの少しだけ聞く勇気が出た瞬間、タイミング悪く担任の先生が入ってきた。


 しかも今、何て言った? 席替え……?


 この先生のクラスでは、先生の気まぐれでしか席替えをしない。


 そのおかげもあって、ここまで長い期間、奏ちゃんの隣の席にいることができたのに……。


「なんだよ。席替えとかやめろよなー」


 そ、奏ちゃん……!

 私の心の中の声を、教壇の前に立つ先生にも聞こえるようにはっきり言う奏ちゃん。


「なんだ? 柳澤は席替え反対か?」


 先生は不思議そうに奏ちゃんを見る。


「ってか、奏ちゃん。ただ単に委員長と席離れたくないだけだろ~?」


 クラスの男子が一人そう言うと、それに合わせてざわざわとはやし立てられる。


「うっせーよ。黙れ、立川!」


 最初に口を開いた男子に向かって、食いつくように吠える奏ちゃん。


 さっきの今だからそう感じるのかもしれないけど、今日の奏ちゃん、すごく機嫌悪い……。


 昨日のことで怒ってるのなら、私、よっぽど奏ちゃんのこと、怒らせちゃったんだな……。



「はい、みんな静かにしなさい。まぁ、今回の席替えは、今の席も長いし、席替えの要望が多数あって行うことにした。柳澤、そこは理解願おう」


 先生がそう言うと、奏ちゃんはつまらなさそうに「はい」と返事した。


「じゃあ、岸本。席替えの進行、よろしく頼む」

「はい」


 席替えの進行も、クラス委員長の私の仕事。


 私も全く望んでない席替えなのに、自分が先頭に立ってやっていかないといけないなんて……。


「では、前回のように、この箱の中に入っている札を一人ひとつずつ取っていってください。札に書いてあった数字と、黒板に書いた座席と同じ数字の席が、新しい席になります」


 席替えは、公平なくじ引き。

 くじは、前回の席替えでも使ったものを先生が取っていてくれたため、本当にすぐに行うことができた。


「……俺、32。花梨は?」


 全員がくじを引き終え、最後に残ったくじを手に持って今の席に戻ると、奏ちゃんにそう聞かれる。


「私は今と同じ席。16だった」


 言いながら、黒板に書いた座席表を見比べる。


 私の新しい隣の席は、23のくじを引いた人。

 私の記憶が正しければ、私の前後も違う番号。


「めっちゃ離れたし」


 隣でハァとため息を落とす奏ちゃん。


「本当……」


 それもそのはず。


 今と同じ、新しい私の席は、廊下側の後ろから2番目。

 それが、奏ちゃんの新しい席は、窓際の前から2番目になっていたから。


 ……ほぼ対角線上に離れちゃった。



「ま、仕方ねーか。寂しくなるけど、席が離れたからといって、心まで離れてしまうわけじゃないもんな」

「……そうだね」


 本当に、その言葉の通り。

 だけど、私はやっぱりどこかで奏ちゃんのことを信じられていないのかもしれない。


「じゃあ、みんな、新しい席に移動しろー!」


 先生の指示に、私の隣から離れていく奏ちゃんを見て、何故だか奏ちゃんの気持ちまで私から離れていってしまうようにさえ感じたから。




 奏ちゃんと席は離れたとは言っても、昼休みは屋上で過ごしてたし、時々喫茶店バロンにもお邪魔して、いつもと変わらない日常を過ごした。


『今後、来たときは黙って帰らないこと』


 あの席替えの日の昼休みに、奏ちゃんにそう約束させられてからは、奏ちゃんの機嫌も元通り。


 戻ってないのは、私の心の中のモヤモヤだけ。


 結局、新島先輩とのことは、聞き出すタイミングが見つからずに聞きそびれてしまっていた。


 あれから10日ほど経つ。

 今更聞くのもなぁ、と思いながら、日に日にモヤモヤがあとを絶たない。


 この日は、日曜日ということもあって、奈穂とショッピングモールに来ていた。

 前、奏ちゃんと来た映画館のある建物だ。


 奈穂の保育園のお友達のお誕生会が近いらしい。

 今日は、そのプレゼントを見に来ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

処理中です...