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第4章
翳る空(2)
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私が目の前の二人の先輩に頭を下げると、新島先輩は奈穂の前に来てしゃがんで、にっこりと笑いかけた。
「花梨ちゃんの妹? いくつー?」
「5さい!」
新島先輩に向かって、右の手のひらをパーにしてこたえる奈穂。
「なんとなく花梨ちゃんってお姉さんなイメージだったから、妹ちゃんがいるの結構イメージ通りだわ」
新島先輩と奈穂のやり取りを見ながら、増川先輩が口を開く。
「そうですか?」
「うん、俺にはそう見える。ってか、それより奏ちゃんのパン食い競争見たか? さすがだったよな」
「奏ちゃん、昔っからあれだけは一位を外したことないからね~」
増川先輩も新島先輩も、感心と言わんばかりにうなずく。
「もうあれを見るために、わざわざ母校の運動会を見に来たって言ってもいいくらいだからな。そういや、そろそろじゃね? 奏ちゃんの100メートル走」
「はい、この次です」
増川先輩に聞かれて運動場の方を見ると、三年生男子の騎馬戦が行われていた。
「じゃあ、また見えやすい位置に移動しとかないとな。咲、移動するぞ。花梨ちゃん、またね」
「はいはい。駿ちゃんってばね、奏ちゃんのお母さんが運動会見に来られないなら、俺が代わりにたくさん写真撮るんだって張り切ってるのよ」
デジカメを片手にさっさと人混みの中へと消えてしまった増川先輩を見ながら新島先輩は呆れたようにそう言うと、ハンドバッグを持ってその場に立つ。
「じゃあ、あたしも行くね! 花梨ちゃんも頑張ってね」
「はい」
私に手を振りながら、新島先輩も増川先輩のあとに続いた。
──シャラッ。
そのとき、何かが地面にぶつかる音がした。
「あ、お姉ちゃん、さっきの人の!」
真っ先に気づいた奈穂が数歩走って、何かを拾い上げる。
奈穂の傍に駆け寄りその小さな手の中を見ると、ゴールドのキーホルダーがあった。
「落として行っちゃったんだね。とりあえず、あそこに置いとこうか」
私たちの居る位置から、二人の姿はもう見えない。
この人混みの中、二人を探すほどの余裕まではないので、さっきまで二人のいた赤いレジャーシートを指した。
大きな荷物は置いたままになってるし、きっとまた二人はここに戻って来るのだろうと、容易に想像ついたから。
「お姉ちゃん、このキーホルダーすごい!」
だけど、奈穂は私の話なんてそっちのけで、手元のキーホルダーをいじくり回していた。
このキーホルダーは、パカッと開く、ロケットタイプのキーホルダーだったみたい。
「ほら、お姉ちゃんも見てみて~!」
「コラッ! 人のもの勝手にいじって、壊れたらどうす……、え……?」
キーホルダーをパカパカ開いて遊んでいた奈穂。
自然と見えてしまった中の写真を見て、思わず目を疑った。
……新島先輩と、……奏、ちゃん……?
ドクン、と胸の中で痛みを伴った嫌な音がする。
何で、新島先輩と奏ちゃん……?
キーホルダーの中に収められた、小さな写真の中に写るこの学校の学生服を着た二人。
新島先輩は、まだ今の茶髪に染められる前の黒い髪をしていた。
以前は今よりも髪が長かったようで、下ろした髪がとても綺麗なロングヘアだ。
だけど、そんな新島先輩と抱き合って写る相手は、見れば見るほど奏ちゃんにしか見えなくて……。
二人って、もしかしなくても付き合ってた……?
でも、いつ?
写真の中の二人の服装は、この高校の制服姿。
っていうことは、去年の写真……?
去年まで、二人は付き合ってたの?
奏ちゃんからは、何も聞いていない。
新島先輩は、奏ちゃんの幼なじみのお姉さんで、バンド仲間で……元カノ?
今まで全くと言っていいほど気づかなかった。
二人に、そんな素振りなんて全くなかったし。
でもそうだとしたら、何で二人は別れたんだろう……?
「……お姉ちゃん? お姉ちゃんってばっ!」
奈穂に体操服の裾を引っ張られて、ハッとする。
「お姉ちゃん、ずるい! 奈穂にはいじるなって怒っといて!」
気づけば私は、いつの間にか奈穂の手にあったキーホルダーを取って、真剣に見入っていたみたい。
「ごめんね、お姉ちゃんボーッとしちゃってた。これ戻して、またお父さんとお母さん探さないとね」
自分でも、びっくりするくらいに動揺していた。
そのあとすぐに両親を見つけることができて、無事に奈穂を連れ戻すことができたけれど、私の心の中はスッキリしないままだった。
「花梨ちゃんの妹? いくつー?」
「5さい!」
新島先輩に向かって、右の手のひらをパーにしてこたえる奈穂。
「なんとなく花梨ちゃんってお姉さんなイメージだったから、妹ちゃんがいるの結構イメージ通りだわ」
新島先輩と奈穂のやり取りを見ながら、増川先輩が口を開く。
「そうですか?」
「うん、俺にはそう見える。ってか、それより奏ちゃんのパン食い競争見たか? さすがだったよな」
「奏ちゃん、昔っからあれだけは一位を外したことないからね~」
増川先輩も新島先輩も、感心と言わんばかりにうなずく。
「もうあれを見るために、わざわざ母校の運動会を見に来たって言ってもいいくらいだからな。そういや、そろそろじゃね? 奏ちゃんの100メートル走」
「はい、この次です」
増川先輩に聞かれて運動場の方を見ると、三年生男子の騎馬戦が行われていた。
「じゃあ、また見えやすい位置に移動しとかないとな。咲、移動するぞ。花梨ちゃん、またね」
「はいはい。駿ちゃんってばね、奏ちゃんのお母さんが運動会見に来られないなら、俺が代わりにたくさん写真撮るんだって張り切ってるのよ」
デジカメを片手にさっさと人混みの中へと消えてしまった増川先輩を見ながら新島先輩は呆れたようにそう言うと、ハンドバッグを持ってその場に立つ。
「じゃあ、あたしも行くね! 花梨ちゃんも頑張ってね」
「はい」
私に手を振りながら、新島先輩も増川先輩のあとに続いた。
──シャラッ。
そのとき、何かが地面にぶつかる音がした。
「あ、お姉ちゃん、さっきの人の!」
真っ先に気づいた奈穂が数歩走って、何かを拾い上げる。
奈穂の傍に駆け寄りその小さな手の中を見ると、ゴールドのキーホルダーがあった。
「落として行っちゃったんだね。とりあえず、あそこに置いとこうか」
私たちの居る位置から、二人の姿はもう見えない。
この人混みの中、二人を探すほどの余裕まではないので、さっきまで二人のいた赤いレジャーシートを指した。
大きな荷物は置いたままになってるし、きっとまた二人はここに戻って来るのだろうと、容易に想像ついたから。
「お姉ちゃん、このキーホルダーすごい!」
だけど、奈穂は私の話なんてそっちのけで、手元のキーホルダーをいじくり回していた。
このキーホルダーは、パカッと開く、ロケットタイプのキーホルダーだったみたい。
「ほら、お姉ちゃんも見てみて~!」
「コラッ! 人のもの勝手にいじって、壊れたらどうす……、え……?」
キーホルダーをパカパカ開いて遊んでいた奈穂。
自然と見えてしまった中の写真を見て、思わず目を疑った。
……新島先輩と、……奏、ちゃん……?
ドクン、と胸の中で痛みを伴った嫌な音がする。
何で、新島先輩と奏ちゃん……?
キーホルダーの中に収められた、小さな写真の中に写るこの学校の学生服を着た二人。
新島先輩は、まだ今の茶髪に染められる前の黒い髪をしていた。
以前は今よりも髪が長かったようで、下ろした髪がとても綺麗なロングヘアだ。
だけど、そんな新島先輩と抱き合って写る相手は、見れば見るほど奏ちゃんにしか見えなくて……。
二人って、もしかしなくても付き合ってた……?
でも、いつ?
写真の中の二人の服装は、この高校の制服姿。
っていうことは、去年の写真……?
去年まで、二人は付き合ってたの?
奏ちゃんからは、何も聞いていない。
新島先輩は、奏ちゃんの幼なじみのお姉さんで、バンド仲間で……元カノ?
今まで全くと言っていいほど気づかなかった。
二人に、そんな素振りなんて全くなかったし。
でもそうだとしたら、何で二人は別れたんだろう……?
「……お姉ちゃん? お姉ちゃんってばっ!」
奈穂に体操服の裾を引っ張られて、ハッとする。
「お姉ちゃん、ずるい! 奈穂にはいじるなって怒っといて!」
気づけば私は、いつの間にか奈穂の手にあったキーホルダーを取って、真剣に見入っていたみたい。
「ごめんね、お姉ちゃんボーッとしちゃってた。これ戻して、またお父さんとお母さん探さないとね」
自分でも、びっくりするくらいに動揺していた。
そのあとすぐに両親を見つけることができて、無事に奈穂を連れ戻すことができたけれど、私の心の中はスッキリしないままだった。
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