空に想いを乗せて

美和優希

文字の大きさ
上 下
51 / 85
第4章

翳る空(2)

しおりを挟む
 私が目の前の二人の先輩に頭を下げると、新島先輩は奈穂の前に来てしゃがんで、にっこりと笑いかけた。


「花梨ちゃんの妹? いくつー?」

「5さい!」


 新島先輩に向かって、右の手のひらをパーにしてこたえる奈穂。


「なんとなく花梨ちゃんってお姉さんなイメージだったから、妹ちゃんがいるの結構イメージ通りだわ」


 新島先輩と奈穂のやり取りを見ながら、増川先輩が口を開く。


「そうですか?」

「うん、俺にはそう見える。ってか、それより奏ちゃんのパン食い競争見たか? さすがだったよな」

「奏ちゃん、昔っからあれだけは一位を外したことないからね~」


 増川先輩も新島先輩も、感心と言わんばかりにうなずく。


「もうあれを見るために、わざわざ母校の運動会を見に来たって言ってもいいくらいだからな。そういや、そろそろじゃね? 奏ちゃんの100メートル走」

「はい、この次です」


 増川先輩に聞かれて運動場の方を見ると、三年生男子の騎馬戦が行われていた。


「じゃあ、また見えやすい位置に移動しとかないとな。咲、移動するぞ。花梨ちゃん、またね」

「はいはい。駿ちゃんってばね、奏ちゃんのお母さんが運動会見に来られないなら、俺が代わりにたくさん写真撮るんだって張り切ってるのよ」


 デジカメを片手にさっさと人混みの中へと消えてしまった増川先輩を見ながら新島先輩は呆れたようにそう言うと、ハンドバッグを持ってその場に立つ。


「じゃあ、あたしも行くね! 花梨ちゃんも頑張ってね」

「はい」

 私に手を振りながら、新島先輩も増川先輩のあとに続いた。



 ──シャラッ。

 そのとき、何かが地面にぶつかる音がした。


「あ、お姉ちゃん、さっきの人の!」


 真っ先に気づいた奈穂が数歩走って、何かを拾い上げる。


 奈穂の傍に駆け寄りその小さな手の中を見ると、ゴールドのキーホルダーがあった。


「落として行っちゃったんだね。とりあえず、あそこに置いとこうか」


 私たちの居る位置から、二人の姿はもう見えない。

 この人混みの中、二人を探すほどの余裕まではないので、さっきまで二人のいた赤いレジャーシートを指した。

 大きな荷物は置いたままになってるし、きっとまた二人はここに戻って来るのだろうと、容易に想像ついたから。


「お姉ちゃん、このキーホルダーすごい!」


 だけど、奈穂は私の話なんてそっちのけで、手元のキーホルダーをいじくり回していた。

 このキーホルダーは、パカッと開く、ロケットタイプのキーホルダーだったみたい。


「ほら、お姉ちゃんも見てみて~!」

「コラッ! 人のもの勝手にいじって、壊れたらどうす……、え……?」


 キーホルダーをパカパカ開いて遊んでいた奈穂。


 自然と見えてしまった中の写真を見て、思わず目を疑った。


 ……新島先輩と、……奏、ちゃん……?

 ドクン、と胸の中で痛みを伴った嫌な音がする。


 何で、新島先輩と奏ちゃん……?

 キーホルダーの中に収められた、小さな写真の中に写るこの学校の学生服を着た二人。


 新島先輩は、まだ今の茶髪に染められる前の黒い髪をしていた。

 以前は今よりも髪が長かったようで、下ろした髪がとても綺麗なロングヘアだ。


 だけど、そんな新島先輩と抱き合って写る相手は、見れば見るほど奏ちゃんにしか見えなくて……。

 二人って、もしかしなくても付き合ってた……?

 でも、いつ?



 写真の中の二人の服装は、この高校の制服姿。

 っていうことは、去年の写真……?

 去年まで、二人は付き合ってたの?


 奏ちゃんからは、何も聞いていない。

 新島先輩は、奏ちゃんの幼なじみのお姉さんで、バンド仲間で……元カノ?


 今まで全くと言っていいほど気づかなかった。

 二人に、そんな素振りなんて全くなかったし。

 でもそうだとしたら、何で二人は別れたんだろう……?


「……お姉ちゃん? お姉ちゃんってばっ!」


 奈穂に体操服の裾を引っ張られて、ハッとする。


「お姉ちゃん、ずるい! 奈穂にはいじるなって怒っといて!」 


 気づけば私は、いつの間にか奈穂の手にあったキーホルダーを取って、真剣に見入っていたみたい。


「ごめんね、お姉ちゃんボーッとしちゃってた。これ戻して、またお父さんとお母さん探さないとね」


 自分でも、びっくりするくらいに動揺していた。


 そのあとすぐに両親を見つけることができて、無事に奈穂を連れ戻すことができたけれど、私の心の中はスッキリしないままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

処理中です...