空に想いを乗せて

美和優希

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第4章

奏ちゃんの家庭(3)

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「……え?」

「傘も壊れちゃった上に、その格好で歩き回って風邪なんか引いたら困るし。それに俺ん家、実はこの近くなんだ」

「えぇっ!?」


 今日、私と奏ちゃんは、喫茶店バロンの近くの駅に待ち合わせて、一緒に電車に乗ってこのショッピングモールに来た。

 それなのに、まさか奏ちゃんの家がこの近くだなんて想定外だよ……っ!


「あ。言ってなかったっけ?」

「うん。じゃあ何で今朝の待ち合わせ……」

「その方が、それだけ花梨と長く一緒に居られるだろ?」


 傘を持っていない方の手で、恥ずかしそうにポリポリと頬をかく奏ちゃん。

 それは、そうなんだけどさ……。


「だけど俺の母さん、身体が悪いわけじゃないんだけど、あまり調子よくなくてさ」

「え、病気か何か?」

「……まぁ、そんなところかな。もうずっと今の状態だから。そういうのもあって、ちょっと普通の家とは雰囲気が違うと思うから、もしかしたらびっくりさせちゃうかもしれない」


 それでもいい? と、どこか心配そうにたずねる奏ちゃん。


「でも、それってお邪魔しちゃって大丈夫なの?」


 何かの病気で調子悪いなら、かえって迷惑なんじゃ……。


「うん、大丈夫。一応、今日は母さんは出かけるって言ってたし。ただそうは言っても花梨が俺の家に来て、母さんに遭遇しないとも限らないからさ」


 本当にお邪魔しちゃって大丈夫なのかなぁ。

 だけど、そのことについては大丈夫と言われてしまった以上、私は奏ちゃんのあとに続くことにした。




 閑静な住宅地の中に建つマンションの一室。

 そこが、奏ちゃんの家だった。


「ただいまー」

「……お邪魔します」


 奏ちゃんの言っていた通り、物音ひとつしない家の中は誰もいる様子はない。


「母さん、まだ帰ってないみたいだな。上がって?」

 さっきいたクレープ屋さんからここまで、小走りで約三分くらい。

 元々自動車に水をかけられていたこともあって、すっかり私も奏ちゃんもずぶ濡れになってしまった。


 玄関を上がって、一番奥側の扉の部屋へと通される。


「ここ、俺の部屋だから。雨止みそうになかったら俺の傘貸すし、少しゆっくりしてってよ」


 はい、と奏ちゃんはタンスから白いタオルを取り出して、私に手渡してくれる。


「ありがとう、奏ちゃん」


「いやいや。俺もまさかこんな天気が急変するなんて想定外でさ、こんなことしかできなくてごめんな。これも俺ので申し訳ないけど、良かったら使って」


 再び奏ちゃんがタンスから取り出したものを受け取って見ると、それは青いジャージのようだった。


「結構服も濡れちゃったし、風邪引かないようにしてな。俺も一旦この部屋出て着替えてくるから、適当に着替えて」

「う、うん。ありがとう」


 私の返事を聞くなり、自分の着替えを持って一旦部屋を出ていく奏ちゃん。


 わぁ~、どうしよう。
 奏ちゃんのジャージとか、それだけでドキドキするよ~。

 でも、せっかく奏ちゃんが貸してくれたのに、着ないのも悪いよね……?


 自分の体よりも一回り大きい青色のジャージに身をくるむと、いつも奏ちゃんから感じる良い香りに包まれて、一層心拍数が跳ね上がった。

 なんだか、奏ちゃんに抱きしめられてるみたい……。


 しばらくして、部屋の扉がノックされるとともに部屋に戻ってきた奏ちゃん。

 奏ちゃんは、私に貸してくれたものとは色違いの黒いジャージ姿で現れた。
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