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第4章
奏ちゃんの家庭(2)
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「……変わらない部分もあるけど、イメージ変わったところもあるかも」
「え、どこどこ? どこがイメージと違った?」
食べてたクレープはそっちのけで、こちらに身を乗り出してくる奏ちゃん。
奏ちゃん、クレープの中のアイス、溶けて垂れてきてるよ……!
「えっと、最初の頃は可愛いなって思うことが多かったけど、今はすごく頼りになる存在っていうか……」
うわああ!
思ってたことを言ってるだけなのに、口に出すとすごく恥ずかしい。
なんだか奏ちゃんの顔をじっと見ていられない。
溶け出すなんて心配とは無縁の、アイスの入ってない、私の手元にあるクレープに視線を落とす。
「そっか。頼りになる、な」
思ってたよりそっけない言い方に、思わず再び目だけ奏ちゃんの方へと見やる。
すると、頬を真っ赤に染めた奏ちゃんがそこにいた。
「……奏ちゃん?」
奏ちゃんの手元のクレープからは、とうとう奏ちゃんの手にアイスが垂れてきてるというのに。
それを気に留める様子もなく、赤くなったまま固まっている奏ちゃん。
私の声にほんのわずかにピクリと反応すると、どこか恥ずかしそうに咳払いをして口を開く。
「……ってか、最初の頃は可愛いって。男に向かって可愛いはないだろ~?」
「そう?」
「そうそう。まぁそういう俺も、花梨のことは今も昔も純粋にかっこいいなとは思ってるよ」
そして、奏ちゃんは一気に手元のクレープを食べてしまった。
「私が、かっこいい……?」
そんな風に言われたのは初めてで、思わず聞き返す。
「うん。どんなことでもしっかりこなせるところとか」
「そうでもないけどね。でも、ありがとう」
わぁ、恥ずかしい……。
きっと今度は私の方が、さっきの奏ちゃんのように真っ赤になってるんだろうな……。
*
「うっわ、何これ」
クレープを食べ終わって外に出ると、あいにくの雨。
今日の朝の時点では確かに雲はあったけれど、雨なんて降りそうになかったのに……。
「朝の天気予報では、そんなこと一言も言ってなかったのにね」
私は、肩から提げていたカバンに入っていた折りたたみ傘を取り出す。
「おっ。さすが花梨! 準備いい~」
パチパチと手を叩く奏ちゃんの隣で、折りたたみ傘を開けるものの。
──パキン。
「……え?」
私が小学生の高学年の頃から愛用していた年代物の折りたたみ傘だったからなのか。どういうわけか、ちょっと柄を伸ばすために力を加えたら、真っ二つに折れてしまったのだ。
「うそ、こんなことって、ある……っ!?」
完全に取れてしまった取手の部分と、傘の上部分を交互に見る。
傘の上部分を何とか押し開けたら、開かないこともなかったけれど。
「ささないよりマシだけど、ちょっと体勢がしんどいね」
柄の部分が短くなってしまってる分、普通にさすよりも、いくらか上の方で手を固定しないといけなくなってしまったんだ。
「俺、持つよ」
ひょいと私の手から離れる、壊れた折りたたみ傘。
見上げると、奏ちゃんは頭を屈めるようにして傘をさしてくれている。
「え、で、でも……っ」
ひとつの傘に二人入ったことで近づく距離に、ドキドキする……。
「あ。聞かなくても何となくわかってたかもしれないけど、俺、今日傘持ってなくて、花梨に入れてもらわないといけなくてさ。だから、悪いなんて思わないで」
「う、うん。ありがとう……」
そのまま、二人で歩道へと出る。
「結構雨強くなってきたなぁ」
歩くごとに強くなってるって言ってもいいくらいに強くなる、横殴りの雨。
「駅に着くまでにびしょ濡れになっちゃいそうだね」
私が苦笑気味にそう言ったとき、傍を勢いよく白い乗用車が走り抜けていく。
バシャンと音を立てて、こちらに飛ぶ水しぶき。
「うっわ、何だよ今の車。花梨、大丈夫だった?」
奏ちゃんはそう聞いてくれるけれど、思いっきり水しぶきを被ってしまった私。
それは、奏ちゃんも同じだったみたい。
むしろ、車道側を歩いていた奏ちゃんの方が着ていた服がずぶ濡れになっているようだった。
そんなお互いの姿を見合って、少し考えるようにして、奏ちゃんが口を開く。
「花梨さえ良ければ、俺ん家、来る?」
「え、どこどこ? どこがイメージと違った?」
食べてたクレープはそっちのけで、こちらに身を乗り出してくる奏ちゃん。
奏ちゃん、クレープの中のアイス、溶けて垂れてきてるよ……!
「えっと、最初の頃は可愛いなって思うことが多かったけど、今はすごく頼りになる存在っていうか……」
うわああ!
思ってたことを言ってるだけなのに、口に出すとすごく恥ずかしい。
なんだか奏ちゃんの顔をじっと見ていられない。
溶け出すなんて心配とは無縁の、アイスの入ってない、私の手元にあるクレープに視線を落とす。
「そっか。頼りになる、な」
思ってたよりそっけない言い方に、思わず再び目だけ奏ちゃんの方へと見やる。
すると、頬を真っ赤に染めた奏ちゃんがそこにいた。
「……奏ちゃん?」
奏ちゃんの手元のクレープからは、とうとう奏ちゃんの手にアイスが垂れてきてるというのに。
それを気に留める様子もなく、赤くなったまま固まっている奏ちゃん。
私の声にほんのわずかにピクリと反応すると、どこか恥ずかしそうに咳払いをして口を開く。
「……ってか、最初の頃は可愛いって。男に向かって可愛いはないだろ~?」
「そう?」
「そうそう。まぁそういう俺も、花梨のことは今も昔も純粋にかっこいいなとは思ってるよ」
そして、奏ちゃんは一気に手元のクレープを食べてしまった。
「私が、かっこいい……?」
そんな風に言われたのは初めてで、思わず聞き返す。
「うん。どんなことでもしっかりこなせるところとか」
「そうでもないけどね。でも、ありがとう」
わぁ、恥ずかしい……。
きっと今度は私の方が、さっきの奏ちゃんのように真っ赤になってるんだろうな……。
*
「うっわ、何これ」
クレープを食べ終わって外に出ると、あいにくの雨。
今日の朝の時点では確かに雲はあったけれど、雨なんて降りそうになかったのに……。
「朝の天気予報では、そんなこと一言も言ってなかったのにね」
私は、肩から提げていたカバンに入っていた折りたたみ傘を取り出す。
「おっ。さすが花梨! 準備いい~」
パチパチと手を叩く奏ちゃんの隣で、折りたたみ傘を開けるものの。
──パキン。
「……え?」
私が小学生の高学年の頃から愛用していた年代物の折りたたみ傘だったからなのか。どういうわけか、ちょっと柄を伸ばすために力を加えたら、真っ二つに折れてしまったのだ。
「うそ、こんなことって、ある……っ!?」
完全に取れてしまった取手の部分と、傘の上部分を交互に見る。
傘の上部分を何とか押し開けたら、開かないこともなかったけれど。
「ささないよりマシだけど、ちょっと体勢がしんどいね」
柄の部分が短くなってしまってる分、普通にさすよりも、いくらか上の方で手を固定しないといけなくなってしまったんだ。
「俺、持つよ」
ひょいと私の手から離れる、壊れた折りたたみ傘。
見上げると、奏ちゃんは頭を屈めるようにして傘をさしてくれている。
「え、で、でも……っ」
ひとつの傘に二人入ったことで近づく距離に、ドキドキする……。
「あ。聞かなくても何となくわかってたかもしれないけど、俺、今日傘持ってなくて、花梨に入れてもらわないといけなくてさ。だから、悪いなんて思わないで」
「う、うん。ありがとう……」
そのまま、二人で歩道へと出る。
「結構雨強くなってきたなぁ」
歩くごとに強くなってるって言ってもいいくらいに強くなる、横殴りの雨。
「駅に着くまでにびしょ濡れになっちゃいそうだね」
私が苦笑気味にそう言ったとき、傍を勢いよく白い乗用車が走り抜けていく。
バシャンと音を立てて、こちらに飛ぶ水しぶき。
「うっわ、何だよ今の車。花梨、大丈夫だった?」
奏ちゃんはそう聞いてくれるけれど、思いっきり水しぶきを被ってしまった私。
それは、奏ちゃんも同じだったみたい。
むしろ、車道側を歩いていた奏ちゃんの方が着ていた服がずぶ濡れになっているようだった。
そんなお互いの姿を見合って、少し考えるようにして、奏ちゃんが口を開く。
「花梨さえ良ければ、俺ん家、来る?」
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