空に想いを乗せて

美和優希

文字の大きさ
上 下
46 / 85
第4章

奏ちゃんの家庭(1)

しおりを挟む
 季節は次第に肌寒さを感じさせる頃へと移り行く。


 あの私が家を飛び出した日の夜。

 お父さんとお母さんと私との間で、初めての家族会議が開かれた。


 まず奈穂の放課後のお迎えと夕飯作りは、お母さんがうまい具合に仕事の調整ができたため、お母さんがすることになった。

 今までお母さんは任された仕事を断りきれず、必要以上に働いていたらしい。

 だから今の私の役割は、朝ご飯作りと奈穂を幼稚園に送っていっているだけ。


 朝ごはんを作るのは自分のお弁当を作るついでにできちゃうし、幼稚園に送るのは学校までの通り道だから、大して負担になっていない。


 そして勉強の方は、今まで通り塾に通っているのは変わらずだけど、以前のようにお父さんが口うるさく言ってくることが少なくなった。


 お母さんの話によると、お父さんは昔、現役のときに希望の大学の受験に失敗しているらしい。

 それで、私には同じ思いをさせたくないからと、あんな風になっていたらしい。

 私がどんなトップクラスの大学に進学したいと思ったとしても、その道に進めるように。


 それに加えて、私がお兄さんの分も真面目に生きたいと思っている気持ちを知っていたお父さんは、私が後悔することのないようにと必要以上に口うるさくなってしまったんだそうだ。


 私自身、高校卒業後は進学かなと漠然と思っているけれど、正直まだどの大学がいいとか、自分の中で全く定まってない。

 これからは進路設計を立てながら、いざ行きたい道を見つけたときに最低限困らない程度の成績を維持することで、お父さんには納得してもらった。


 そして、奏ちゃんのことは……。

 お父さんは最後まで、“あの男だけはやめなさい”と言い続けてたけど。

 お母さんから、“お父さん、嫉妬してるだけだから、気にせず仲良くしなさい”と言ってもらえたことで丸く収まった。


 実はお父さんはあんなことを言いながらも、お父さんとお母さんは高校のときからの付き合いだったらしい。

 だからそういうのもあって、奏ちゃんとの付き合いも認めてもらえたんだ。


 外出も、事前に言っておけば遊びに行ってもいいことになった。

 それからは、自然と奏ちゃんとデートに行くことも増えて。



「まさか、花梨の家がここまで緩和してくれるとは思わなかったよ」


 今日は、奏ちゃんとショッピングモールに来ていた。


 さっきまで、ここの最上階にある映画館で映画を観て、その下の階にある美味しいと評判のクレープ屋さんに来ている。


「うん。私も驚いてる。映画なんて、何年ぶりだったんだろう?」


 確か最後に行ったのは、まだ奈穂がうまれる前。

 まだ私が小学生だった頃、そのとき流行ってたアニメの映画を観に、お母さんに連れて行ってもらったのが最後だ。


「花梨にとって久しぶりの映画は楽しかった?」

「うん。とても」


 観た映画は、今人気の切ない恋を描いた映画。

 途中で、感極まって思わず泣いちゃったけど、奏ちゃんが暗い館内でそっと抱き寄せてくれたんだよね。


「なら、良かった。でも、なんか意外」

「何が?」


 まじまじと私を見る奏ちゃんに、クレープから口を離して首をかしげる。


「いや。なんか花梨のイメージって、委員長キャラだったからさ、こういう映画とか観たあと、評論チックな会話とかすんのかなぁと思ってたから」


 意外と普通なんだなと笑う奏ちゃんに、私まで笑いそうになる。


「何それ。私って、そんなに堅いイメージあったの?」

「最初はね。でも付き合ってくうちに、どんどん花梨のイメージって変わっていったよ」

「そうなの? もしかして、その堅いイメージのままの方が良かった?」


 だって奏ちゃんのこの言い方だと、今の私は委員長キャラではなくなっていってるように聞こえてくる。

 それはそれで構わないんだけど、やっぱり以前、私の委員長キャラが好きと言ってくれたことがあっただけに気にはなる。


「ううん。委員長キャラのイメージの花梨も好きだったけど、今の花梨の方が好き。新しい一面を知る度に、好きの気持ちがどんどん膨らんでいってる感じする」


 優しい笑みを浮かべて、さらりとそんな恥ずかしいことを言ってのける奏ちゃん。


「そんなもん?」

「そういうもんだと思うけど、俺は。ってか、花梨も俺と付き合ってから、俺のイメージってどうなの?」

「そうだなぁ……」


 奏ちゃんのイメージかぁ……。

 明るくて、あたたかくて。

 奏ちゃんのまわりは、いつも別世界のようで……。

 そこは、今も変わらない。


 可愛いイメージが強かったけど、私が辛いときは傍にいてくれて、いつの間にか頼もしいイメージになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...