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第3章
限界(3)
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明らかに、かりん糖の“トウ”の音は言ってなかったと思うけれど。
その場のノリ、みたいなものもあるのかな?
なんとかうまい具合に事が運んで、ホッと胸を撫で下ろす。
そしてこれ以上奏ちゃんたちに迷惑かけないようにと、最後に一目奏ちゃんの姿を見てその場をあとにしようとしたとき。再びスポットライトに照らされた奏ちゃんと目が合った。
『バ・ロ・ン』
奏ちゃんが、口パクで、何となくそう言ったように見えた。
次の瞬間には、「何やってんだよ」と奏ちゃんは北原くんに頭を叩かれていた。
とりあえずその場を去ろうとしたとき、次の曲がラストだと言う奏ちゃんの声が前方から聞こえて。
私はステージからだいぶ離れたところでそのラストの曲を聞いたあと、喫茶店バロンへと足を踏み入れた。
路上ライブが終わり、集まっていた観客も三々五々と解散していく。
熱気のあった駅前に静けさが戻った頃。
私は喫茶店バロンの中へと移動して、カウンター席に一人座らせてもらっていた。
「花梨っ!」
喫茶店バロンの戸が開くと同時に、聞き慣れた明るい声が私の耳に届く。
少し息を切らしてるあたりから、急いで来てくれたのかな。
ギターを背負った奏ちゃんは私の隣の席に腰を下ろすと、嬉しそうに笑った。
「よかった。さっきの、伝わってたみたいで……」
「ううん。何となくそんな風に言ってくれた気がしたから。お疲れさま」
「おう! まさか花梨が来てるなんて思ってなかったから、マジでビビッた」
ステージ上で、私の名前を呼んでしまうくらいだもんね。
「驚かせてごめんね」
そのときのことを思い出して、奏ちゃんには悪いけど思わず笑ってしまいそうになった。
「ここで待ってくれてたのは嬉しいけど、今日は塾の日じゃないし、以前来れないって言ってた日だよね? 夜も遅いけど大丈夫?」
心配げに眉を下げる奏ちゃん。
「多分……?」
喫茶店バロンの一階の壁にかかる時計を見上げれば、21時を過ぎたところ。
確か私が家を飛び出したのは、ちょうど二時間くらい前だったように思う。
「多分、って……」
「へへっ」
「へへっ、じゃない。ねぇ、花梨。何かあったの?」
そう私に聞く奏ちゃんの言葉に、思わず肩がピクリと跳ねた。
「どうして?」
「だって、やっぱりなんか変だもん。まず、花梨が塾もないのにこんな時間に出歩いてること自体が不自然」
「私だって、たまにはそんな日もあるよ」
「ごまかさないで。それに花梨、今日学校で会ったときより、元気ないし」
「そんなこと、……」
何で、わかるの……?
口から突いて出る言葉と裏腹に、私の目からは大粒の涙があふれでていた。
奏ちゃんは、私の肩にそっと手を回してくれる。
「わ、たし。どうすればいいのか、わから、ない……」
「……とりあえず、場所変えよっか」
奏ちゃんは、突然泣き出した私を見てなのだろう。
周りをキョロキョロと見回すと、私を二階へと続く扉の中へと連れていった。
いつもWild Wolfのメンバーが練習で使っている部屋とは別の、喫茶店の休憩室として使われている方の部屋に入った。
「ここ……」
「この時間帯は、下もおっちゃんしかいないし、基本使ってないから。俺らも休憩で時々使わせてもらってるし、大丈夫だよ」
部屋の真ん中には、下の喫茶店でも使われている四角い茶色のテーブルが三つ並べて置かれている。
そこへ、壁際に寄せて置かれていた椅子を二つ奏ちゃんが持ってきてくれた。
「はい、座って」
「ありがとう」
「で、どうしたの?」
隣り合わせに座った瞬間に、私の顔を覗き込むように見てくる奏ちゃん。
「え、……」
奏ちゃんに見抜かれてしまっている以上、どうもしない、なんて嘘は通用しない。
だけど、どう説明していいか口ごもっていると……。
「俺、そんなに頼りないかな? こんな奴だけど、花梨の彼氏なんだよ?」
「……でも。私……」
私の委員長キャラのことを好きだと、以前言ってくれた奏ちゃん。
もし奏ちゃんが、そんな“真面目”な私を見て好きだと言ってくれてたなら……。
そんなことを考えていると、私の頭にふわりと奏ちゃんの手が乗せられる。
その場のノリ、みたいなものもあるのかな?
なんとかうまい具合に事が運んで、ホッと胸を撫で下ろす。
そしてこれ以上奏ちゃんたちに迷惑かけないようにと、最後に一目奏ちゃんの姿を見てその場をあとにしようとしたとき。再びスポットライトに照らされた奏ちゃんと目が合った。
『バ・ロ・ン』
奏ちゃんが、口パクで、何となくそう言ったように見えた。
次の瞬間には、「何やってんだよ」と奏ちゃんは北原くんに頭を叩かれていた。
とりあえずその場を去ろうとしたとき、次の曲がラストだと言う奏ちゃんの声が前方から聞こえて。
私はステージからだいぶ離れたところでそのラストの曲を聞いたあと、喫茶店バロンへと足を踏み入れた。
路上ライブが終わり、集まっていた観客も三々五々と解散していく。
熱気のあった駅前に静けさが戻った頃。
私は喫茶店バロンの中へと移動して、カウンター席に一人座らせてもらっていた。
「花梨っ!」
喫茶店バロンの戸が開くと同時に、聞き慣れた明るい声が私の耳に届く。
少し息を切らしてるあたりから、急いで来てくれたのかな。
ギターを背負った奏ちゃんは私の隣の席に腰を下ろすと、嬉しそうに笑った。
「よかった。さっきの、伝わってたみたいで……」
「ううん。何となくそんな風に言ってくれた気がしたから。お疲れさま」
「おう! まさか花梨が来てるなんて思ってなかったから、マジでビビッた」
ステージ上で、私の名前を呼んでしまうくらいだもんね。
「驚かせてごめんね」
そのときのことを思い出して、奏ちゃんには悪いけど思わず笑ってしまいそうになった。
「ここで待ってくれてたのは嬉しいけど、今日は塾の日じゃないし、以前来れないって言ってた日だよね? 夜も遅いけど大丈夫?」
心配げに眉を下げる奏ちゃん。
「多分……?」
喫茶店バロンの一階の壁にかかる時計を見上げれば、21時を過ぎたところ。
確か私が家を飛び出したのは、ちょうど二時間くらい前だったように思う。
「多分、って……」
「へへっ」
「へへっ、じゃない。ねぇ、花梨。何かあったの?」
そう私に聞く奏ちゃんの言葉に、思わず肩がピクリと跳ねた。
「どうして?」
「だって、やっぱりなんか変だもん。まず、花梨が塾もないのにこんな時間に出歩いてること自体が不自然」
「私だって、たまにはそんな日もあるよ」
「ごまかさないで。それに花梨、今日学校で会ったときより、元気ないし」
「そんなこと、……」
何で、わかるの……?
口から突いて出る言葉と裏腹に、私の目からは大粒の涙があふれでていた。
奏ちゃんは、私の肩にそっと手を回してくれる。
「わ、たし。どうすればいいのか、わから、ない……」
「……とりあえず、場所変えよっか」
奏ちゃんは、突然泣き出した私を見てなのだろう。
周りをキョロキョロと見回すと、私を二階へと続く扉の中へと連れていった。
いつもWild Wolfのメンバーが練習で使っている部屋とは別の、喫茶店の休憩室として使われている方の部屋に入った。
「ここ……」
「この時間帯は、下もおっちゃんしかいないし、基本使ってないから。俺らも休憩で時々使わせてもらってるし、大丈夫だよ」
部屋の真ん中には、下の喫茶店でも使われている四角い茶色のテーブルが三つ並べて置かれている。
そこへ、壁際に寄せて置かれていた椅子を二つ奏ちゃんが持ってきてくれた。
「はい、座って」
「ありがとう」
「で、どうしたの?」
隣り合わせに座った瞬間に、私の顔を覗き込むように見てくる奏ちゃん。
「え、……」
奏ちゃんに見抜かれてしまっている以上、どうもしない、なんて嘘は通用しない。
だけど、どう説明していいか口ごもっていると……。
「俺、そんなに頼りないかな? こんな奴だけど、花梨の彼氏なんだよ?」
「……でも。私……」
私の委員長キャラのことを好きだと、以前言ってくれた奏ちゃん。
もし奏ちゃんが、そんな“真面目”な私を見て好きだと言ってくれてたなら……。
そんなことを考えていると、私の頭にふわりと奏ちゃんの手が乗せられる。
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